第1章:掟は破るためにこそある

(1)

「あと15分しか残ってないぞ。早く、ウチの隊長を……」

「うるせえ。5分で到着出来たんだ。上出来だと思え」

 傍から見ると白人女にんげんと家畜亜人が言い争いをしている異様な光景に見えるだろう。

 だが、この家畜亜人達の「中」に入っているのは、私と同じ白人女にんげんの「魔法使い」だ。

 彼女かれ等の中身は対テロ部隊。

 そして、「肉体」の方は……。

 家畜亜人達は、わざとDNAのバラツキが有るように作られてはいるが、同じタイプ、それも同じ年式の型式モデルであれば、良く似た外見となる。作られた工場や製造ロットが違っていてもだ。

 しかし、ここに集まっている家畜亜人達は……1つ1つが見ためには大きな差異が有る。

 いや、黒っぽい髪や目、白人女にんげんに比べると色の濃い肌なのは共通しているが、体格・性別はバラバラだ。

 ただ、目に見えない点においては、ただ1つ共通点が有る。

 家畜亜人達の中でも、最も強い「先天的ロボトミー」を施されている。

 家畜亜人達には、厳密な意味では、自我も無い、知性も無い、自由意志も無い。

 少なくとも、白人女にんげんが持っているような自我・知性・自由意志は無い。

 旧本亜人Q−JAP達は、元から我々白人女にんげんに比べて知性も劣り、付和雷同し易く、全体主義的な社会の方に適合する性質が強い……つまり、自我や自由意志も希薄という事だ……のだが、家畜亜人達は、旧本亜人Q−JAPの原種達と比べても、それらの機能を制限するような「品種改良」が行なわれ、念の為、更に、赤ん坊の内に脳に手が加えられる。

 家畜亜人達が知性や自我を持っているように見えたとしても……正確には「与えられた役割を果たす為の、厳密には知性や自我に似た別物を備えている」「本当の知性や自我ではなく絶対に外れる事が無いリミッターが更に何重にもかけられた『制限された自我・知性』」に過ぎないのだ。

 例えば、私が普段接している下士官タイプや召し使いタイプの家畜亜人は、与えられた役割は卒なくこなすが、例えば、白人女にんげん向けの娯楽は理解出来ず、結婚させたとしてもマトモな家庭生活は営めない。

 仮に無理矢理結婚させた家畜亜人達の間に子供が出来ても、育てる事が出来るのは乳母タイプの家畜亜人だけだ。

 そして、この対テロ部隊向けの家畜亜人は、それ以外のタイプの家畜亜人が持っている「自我」「知性」「自由意志」に似たモノさえ備えていない。

 真っ新まっさら・空っぽ・完全に白紙の脳味噌に、白人女にんげんの魔法使い達の「意識」が一時期に宿っているだけだ。

 こうすれば、何か有っても、消耗されるのは、家畜亜人の体だけで、中身の白人女にんげんは無事で済む。

 爆弾処理に失敗しても、吹き飛ぶのは、自分では何も考える事が出来ないヒトモドキだけで、白人女にんげんの犠牲者は出ない。

 人道的だ。

 極めて人道的だ。

 皮肉やお世辞抜きで、このシステムを考え付いた誰かは……人道主義と兵器運用の両分野における大天才だ。

「最終確認だ。優先度最大が、あんたの上司の身柄の安全。次が、あんたの上司の召使。警察署内の爆弾処理の優先度は、その次でOK。面倒な事後書類は、全部、あんたがやってくれる。それで間違い無いな」

「ああ、それでOKだ」

「わかった……」

 そう言うと、対テロ部隊は、警察署内に突入していった。

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ポリコレ反転にも程が有る異世界に生れ変ってしてしまった……/現世篇(1)「家畜亜人Q-JAP」 @HasumiChouji

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