パリにて

あいき 夏

雪の日

 白を基調とした石造りの建物が並んでいる。すべての建物が同じ造りになっており、一つの壁のようだ。建物の窓の外に設けられた黒い柵はコントラストを強調し、デザインも相まって一層街の美意識を表現していた。

 数メートル間隔で並ぶ街頭はふわりと灯り、静かに舞う雪を輝かせている。

 夜も深まり、出歩いてる人は一人もいない。観光客がそんな時間にホテルを出るのは避けるべきだろうが、この地では珍しいらしい雪に居ても立っても居られなかった。

 この雪に気付いている人は何人いるのだろう。先ほど降り始めたばかりの雪は、寝付けなかった者の特権だった。

 歩いてるうちに雪は積り始め、薄く地面を透かしていた。そんな足元を見ながら歩いていると、いつも間にか開けた場所に出た。

 有名な観光地のどれかなのではないかと思わせるような、大げさな像が両脇に建てられた橋が見える。この地の橋は全部がこれなのか、またはパリという土地に合わせてこの造りをしているのかはわからないが、現代的とは言えない歴史的建造物のようだった。

 大きな1対の像に目を奪われていたが、進んでいくと川を見て黄昏ている女がいた。金髪で、色白。遠目で見て現地の人かと思っていたが、近づいていくとアジア人であることが分かった。服装、顔立ちなどから感じる。日本人だ。

 こんな時間にこんな場所で、同じ国から来たであろう人間を見つけてしまい動揺する。

 後から考えてみれば素通りで良かったと思うが、反射的に声をかけてしまった。

 「こ、こんばんは」

 女は驚いたような表情で振り返った。

 綺麗な長い髪をしていた。顔立ちは少し幼さを感じさせるが整っていて可愛らしい。白いコートを着ていて、金髪と相まって消えてしまいそうな儚さがあった。

 年下かな・・・?

 こんな時間に一人でどうしたんだろう。

 「こんばんは・・・」

 日本語が返ってきたことに安堵する。

 やはり日本人のようだ。

 彼女を見て感じた不安を拭おうと、質問をした。

 「どうかされましたか?」

 完全に自分のことは棚に上げた質問ではあるが、せずにはいられない。

 傍から見たら自分も同じように見えるのかとも考えたが、自分にこの女性のような儚さはないと思う。

 「雪が降ってきたので・・・」

 消えそうな声で答えた。

 色々な心配をしてしまったが、自分と変わらない理由でここに居るらしい。他にも何か理由があるかもしれないが、ひとまず安心した。

 彼女が見ていた方を見る。

 特に何かがあるわけではないが、川に落ちる雪を見るのが楽しい。

 昼に見たときに、街並みと違って川は綺麗というわけではないこと知った。しかし夜に見ると違った一面を見せてくれるようだ。水面で街灯の光を反射し、降る雪を映している。

 きれい・・・

 彼女の横に並んだ。

 2人は無言で川を見続けた。いよいよ気温も下がってきて寒い。でもここにいるのが心地よかった。

 

 

 

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パリにて あいき 夏 @kii_ai_

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