第2話 ナモ

朝日がゆっくりと昇る頃、ナモはすでにヘアサロンで仕事を始めていた。カウンターでコーヒーを飲みながら、今日の予約リストを確認する。


「さて、今日も頑張るか」


ナモは店のオーナー兼店長だが、ただの経営者ではない。彼の腕前は折り紙付きで、街の人達の信頼を集めていた。店は朝から賑わっている。


「ナモさん、いつものお願いします!」

「おう、座れ」


ナモがハサミを動かしながら会話をしていると、突然店のドアが勢いよく開いた。


「ナモちゃーん!カッコよくしてくれ!」


黒髪の長い髪をまとめた男——ニモが軽い調子で入ってきた。


「……はぁ。またツケか?」

「いやいや、今日はちゃんと払うって!」


ナモは苦笑しながらニモの髪を整え始めた。


「お前、ほんとにギャンブルばっかだな」

「まぁな!でも俺にはナモちゃんがいるから安心して賭けられるぜ♡」


「調子に乗んな」


ナモは呆れながらも、どこか楽しそうだった。金銭面では基本的に自分が支えているが、それでもニモには人を惹きつける魅力がある。


サロンの仕事がひと段落した午後、ナモは街を歩きながら顔なじみの人々に声をかけられる。


「ナモさん、ちょっと手伝ってくれませんか?」


「どうした?」


八百屋の店主が頼ってくる。


「棚が壊れちゃってさ、修理できるか?」

「任せろ、すぐに直してやるよ」


ナモは手際よく修理を終えると、通りすがりの子供たちが駆け寄ってくる。


「ナモ兄ちゃん!自転車のチェーン外れちゃった!」

「おう、見せてみろ」


彼は子供の自転車を直しながら笑う。


「これでまた走れるだろ?」

「ありがとうナモ兄ちゃん!」


どこに行っても頼られ、自然と人助けをしてしまう。それがナモの性分だった。


夜。ナモは自身が経営するバーにいた。

カウンターの奥でグラスを拭きながら、常連客と談笑する。


「ナモ、今日も頼むよ」

「おう、いつものな」


静かな夜を楽しんでいると、店の扉が勢いよく開いた。


「ナモちゃーん!酒くれぇぇぇ!」


「……またお前か」


カウンターの向こうで、ニモがへろへろになりながら座った。


「聞いてくれ、今日もなかなかハードだったぜ……」

「また負けたのか?」

「ちょっとばかしな!まぁツケで!」


ナモは苦笑しながら、グラスに酒を注いだ。


「でもな、ナモ。俺、やっぱり思うんだよ」

「ん?」

「人生、楽しんだもん勝ちだろ?」


ナモはしばらく黙ってから、クスッと笑った。


「……まあ、それは否定しねぇよ」


肩に巻きついたグレーの蛇を撫でながら、ナモはグラスを傾けた。


「ナモちゃーん、ツケで頼む!」


ニモの軽い口調と共に、また新たな一日が始まる。


「愛してるよ♡」


「はいはい、さっさと飲め」


ナモは呆れながらも、どこか嬉しそうに酒を注いだ。


(完)

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