二十六、菜の花の咲くころ
春風に揺れる菜の花が、一面を黄色に染めていた。
その眩しさは、まるで未来そのものが花開いたかのようであった。
女房はというと、四月の人事異動の内定があり、所属そのままでパート勤務。
ほとんど在宅ワークだが、忙しい総務課を手伝うぐらいは出勤するそうだ。
やはり倉庫番は移動されると困るらしい。
その日、ポストに届いた一通の封筒。
修氏が震える手で開いた瞬間、女房の方が先に声を上げた。
「見てよこれ、合格通知だよ!」
修氏本人よりも、女房の方が感極まったのか、泣きながら母様へ報告していた。
その横顔は涙に濡れながらも晴れやかで、長い冬を越えて春の陽に出会った花のようであった。
「やったな……。これで、やっと春を迎えられる。」
修氏は声を震わせながら、合格通知を胸に抱いた。
女房はその姿に笑い、泣き、言葉もなく頷いていた。
約束通りに試験に合格し、出世を果たし、堂々の婿入りである。
その日を境に、二人の未来は確かな形を帯びて動き始めた。
そしてついに、女房と修氏が婚姻することになった。
女房は会社が忙しくなる前に、婚姻のための休みを取り、最近は修氏とよく出かけている。
二人で並んで歩く姿は、かつての不安や孤独を感じさせなかった。
春を待つ桜のつぼみのように、互いに寄り添い、同じ未来を見つめているのだ。
我はと言うと、そんな女房の様子を小夜とともに眺め、幸せである。
――春を迎えた我らもまた、花畑のただなかにいるのだ。
そう、忘れてはならないのは、やはり女房の温情である。
あの日、女房に出会えなければ、我も幸せにはなれなかったのだから。
女房には感謝してもなお、尽きぬことである。
君が袖 寄るべの幸に ぬくもりを 我にもたらせ 夢のある道
「ねぇキミ」
女房はそっと我の頭を撫でて、微笑んだ。
「キミに出会ってから、私も多くの人の幸せに囲まれて生きているんだなって思うようになったよ。
私の生活が、こんなにも人との交流が生まれて……。
みんなで幸せになっていくことが、自分の幸せにつながるんだなって。」
ホント、キミってば招き猫。
たくさんの人と人をつないで、幸せを運んでくるんだね。
私ね、キミに出会えて、本当に良かったと思ってるよ。
しあわせを、ありがとう。
そして――私たちは菜の花の咲く、思い出の丘を訪れた。
お父さん。
今日は、菜の花の咲く丘で結婚の記念撮影をするの。
昔よくお父さんといった、あの菜の花の咲く丘に。
お母さん、修君のご両親、サムおじさんも来てくれたの。
私の手には、サラさんの指輪をしているよ。
今日は風も穏やかで、とてもいい撮影ができそうだって。
黄色い菜の花の奥にはね、満開の桜が咲いていて、
私は修君と一緒に歩くのよ。
白い綿帽子をつけて。
修君たら、さっきから緊張しっぱなし。
でも袴姿も良く似合っている。
――私に幸せを運んできてくれた小さな天使がいるのよ。
猫のキミと小夜ちゃん。
この仔たちって、いろんな人をつないで、幸せを運んでくれるんだよ。
「お父さん、私たち、しあわせだよ。
お父さんたちが作ってくれたご縁の中で、今の私の幸せがあるんだなって。
私、お父さんの子どもでよかったよ。」
菜の花畑を渡る春霞の中、女房と修氏が肩を並べて歩いていく。
その後ろを、小夜とともに我も駆けていく。
黄色い花が道を開き、桜の花びらが舞い落ちていた。
春霞 菜の花揺れる その先に 夢のある道 行く君想う
おわり
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