第11話

 あれから、ほぼ毎日佑月は由夏の家に通っていた。おかげで課題も苦手科目以外は終わり、あと少しだ。今日も由夏の家に行こう、そう思って連絡したら、どうやら今日から帰省するらしく、無理だと断られた。

 事情があるので仕方ないが、夏休み中咲綾は忙しく、壮太も部活や大会で忙しいので寂しい。

 そんな日が三日ほど続き、気分的にも落ち込んでいた時、ようやく壮太と予定が会う日が来た。佑月は重たい体を何とか動かして、出かける支度を進める。

 仮にも彼氏とのデートだ、いつも以上に気合を入れて化粧をして服を厳選する。


「そういえば……」


 壮太と話しているときに、最近地雷系にちょっとハマっている、なんて話していたのを思い出した。そういう系統の服も買っていたので、それを着る。


(喜んでくれるかな……)


 そんなことを思いながら準備を済ませて、壮太の家に行く。

 最近は由夏の家と自分の家を行き来するだけだったせいで、体力が落ちているので、今日はおうちデートというやつだ。

 壮太はアウトドア派でゲームの話をしているところはあまり聞かないが、世界的に人気なハンティングゲームはやっているらしいので、それを一緒にやる予定だ。

 しっかりおしゃれしてゲームをするだけというのもなんだが、外に出てデートするほどの体力と気力が今はないので仕方がない。

 ゆっくりゆっくり歩きながら、壮太の家に向かった。

 インターホンを押すと、すぐに壮太が出迎えてくれた。


「佑月、その格好……その、めっちゃ可愛いな」

「ありがと。前好きって言ってたの思い出したから」

「覚えててくれたんだな」

「服選んでて思い出したの。その、喜んでもらえてよかった」

「ほんとに可愛いよ。それより、なんか疲れてるみたいだけど」

「最近外出てなかったせいで体力落ちて……歩くだけで疲れちゃった」

「とりあえず上がれよ。ゆっくりしてから始めよう」

「うん、ありがと」


 軽く体重をかけるように腕を組み、並んで壮太の部屋に行く。またベッドに腰掛け

て、壁を背もたれにする。


「ふぅ……」

「佑月夏休み一週間くらいたったけど何してたんだ?」

「ずーっと由夏ちゃんと勉強。遊んだは遊んだけど体動かすことしなかったから……」

「まあ佑月元から全然体力なかったもんな」

「高校入学前はそもそも動けなかったからね。体力作らなきゃとは思うんだけどね」


 思いはするものの、その気力とそもそもの体力がないのが現状だ。一時期軽くストレッチや散歩程度はしていたが、すぐにやめてしまった。やろうと決めてもなかなか続けられないのだ。一緒にやってくれる人がいればいいのだが。


「あ、でも学校行くのに歩くからちょっとは体力着いたんだよ?」

「ゆーて徒歩十分とかだろ? しかも、体育の授業大抵休んでるし。ま、それについては一回倒れてるから仕方ないとは思うけど」

「体育にも出れるくらいちゃんと体調良くなったらいいんだけどね」


 今のところ佑月は軽い運動程度が限界だ。一度体育の授業で倒れたので、それからは先生に相談してずっと体育だけ休んでいる。家での怠惰のせいもあるが、まだリハビリ中なのだ。


「もうちょっと休んだら近くの公園まで散歩でも行くか?」

「うーん、まあ最近動いてなかったし、ありかも」


 じゃあ、ということで佑月は少し休んでから、壮太と近所の公園に向かうことにした。

 近所とはいえ、壮太の家からでは一キロ弱はある。佑月からしたら、学校より少し近い、くらいの距離だ。その程度の距離ではあるが、リハビリ段階ではちょうどいい。


「よし。いらない荷物、ここ置いてくね」


 どうせ帰りにどこかよるわけでもないので、佑月はスマホだけ持って壮太と家から出る。部屋に入るまでとは違って、隣に並んでゆっくりと歩く。

 久々だからだろうか、なんだかいつもより幸せだ。別に手も繋いでいないけれど、由夏とくっついているときのような。

 自然と、佑月の手が壮太の手に伸びる。


「この辺、こんな感じの風景だったんだ」

「そういえば引っ越してきたんだったか」

「うん。それであんまり出歩くこととかなかったから、ちゃんと街を見たの初めてかも」


 佑月の行動範囲は基本的に家から学校、家からスーパー程度なので、街の景色を見るのは引っ越してきてから初めてだ。

 ただの街だが彼氏といると少し特別な雰囲気で、歩いているだけでも楽しい。会話があるおかげでいつもより疲労が気にならないし、久々のいいリハビリだ。


「――でね、もう半分以上課題終わったんだよ」

「すげぇな。俺部活に家の事で全然手についてないぞ」

「壮太くんがゲームオンラインになってるの知ってるよ?」

「げ、バレてたか」

「やるとき誰かオンラインかなーって、見てたから」

「なら誘ってくれたらよかったのに」

「誘おうかと思ったんだけど、ソロのほうが効率よかったから」

「そういうとこ、ガチのゲーマーだよな」

「ガチって程じゃないけど、まあ前までずっとソロでやってたから」

「一緒にやったほうが楽しいだろ」

「まあ、そうなんだけどね」


 染みついたものはなかなか取れないもので、中学生の頃家に引き籠って一人でやっていたのが、今でも続いている。壮太と一緒に話しながらやりたいとは思うが、効率を求めてしまうのだ。一緒の空間に居れば別だが。


「帰ったらいっぱいしようね」

「ああ。でも、帰りまで長いぞ。体力もつか?」


 壮太は笑いながら、揶揄うように言う。


「舐めないでよそこまでひ弱じゃないし」


 と、言ったはいいものの。

 ――公園で一休みしてまた歩いて帰った時には、佑月の体力は残っていなかった。



 家に戻り、相変わらず佑月は無防備にベッドで休む。休みながら、ゲームをしていた。

 壮太のベッドで足をパタパタさせながら、ゲームに集中する。そのたびに徐々にスカートがめくれていき、またふとももが露わになった。

 もう下着まで見えてしまいそうなほどだがそんなことに着せずゲームをしていると、壮太のキャラクターが死んだ。壮太はそこそこ上手いと思っていたのだが、集中力が切れていたのだろうか。ちらりと壮太の方を見てみれば、視線が画面と足を行き来していた。


「あ……えっち」

「し、仕方ないだろ……お前、無防備すぎるんだよ、ほんとに」

「最近由夏ちゃんとばっかりいたからかな」


 彼女といると、いつも以上に無防備になる。下着が見えるなんてもう気にしないし、裸を見られることにも、触られることにも慣れてしまった。

 スカートを治していると、壮太はゲーム機を持ちながらベッドの縁に座った。シングルベッドなので、壮太の体と少しくっつく。


「佑月、このクエスト終わったら休憩しないか?」


 その休憩が意味するところは、流石の佑月でも理解できた。

 どこまで許すか。彼となら最後まで――そんな想像は何度かしたが、いざとなるとまだ怖い。というか、ドキドキする。まだ覚悟が決まっていないのだ。


「そうだね」


 しかし、そう答えた。

 クエストを終わらせ、佑月は態勢を変えて壮太の膝に頭を乗せる。


「なんか、逆な気がするけど」

「わたしのほうが疲れてるんだもん」

「まあいいけど」


 優しくそう言い、壮太は佑月の髪を撫でる。

 とても心地いい。由夏や咲綾がしてくれるような安心感。それと、いつもと違うなんだか胸が暖かくなる感覚。


「んぅ~」


 安心しきって、ついつい甘えた声が出る。


「佑月って、結構甘えん坊なんだな」

「今まで一人が多かったから、かなぁ」

「なるほど。今はもう俺も柏木もいて一人じゃないし、いくらでも甘えていいぞ」

「……うん」


 心に芽生えた好意を確かに感じながら、佑月はそれから存分に壮太に甘えていた。

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