ストロング

バリバリさん

第1話

 魔物と呼ばれる何処からともなく現れる凶悪な奴ら……。

 人を襲い苦しめる魔物たちそれを倒す存在がいる『冒険者』だ。

 冒険者はもはや冒険なんかしない魔物を倒して倒して倒しまくる存在だ!


 そんな冒険者には1つの噂がある――異界だ。

 異界という凶悪な魔物が住んでいる世界があるという。そしてそこには秘宝と呼ばれる宝があると。

 ただこれはただの噂、最初は誰もが異界について調べたりしたが次第に誰もが興味を失った。


 異界の噂は誰も信じなくなった――。

「異界はぜったいにある!」

 大きな声で言い放つこの青年を除いて。


 酒場『魚魚魚亭』

 魚料理を多く提供する街一番の人気を誇る酒場だ。


「おいおいノウお前まーだそんなもん信じてんのか」

「そうだぜ異界なんてあるわけないだろ」

「バカ、アホ、バーカ」

 三方向から異界を信じていることバカにされている。

 灰色の髪をツーブロックにして半袖半ズボンにパーカーとラフな格好をしている青年ノウ。

 拳を握り締めながらゆらゆらと揺らす。


「うるせえ!俺は絶対、異界に行くんだ!」

 飛び上がるように立ち上がりノウは宣言する。

 そんな宣言を聞いた三人組は風船が割れたように笑いだす。

「ないものによくもそんな」

「ガハハハッ」

「バカ、マヌケ」


「バカにしやがって!俺はもう帰る」

 不機嫌そうノウはカウンター席から離れる。

 会計をさっさと終わらせて店を出る。


 冷たい夜風が肌を突き刺す。辺りは真っ暗で静か後ろを見れば明るく騒がしい酒場が見える。

「俺だってなんとなく分かっている」

【異界なんてただの噂あるわけがない】日に日にその考えが大きくなっていく。

(それでも――それでも俺の心は。俺の魂は。――それ以上に震えている――ワクワクしている)


 ♦三年前――。

 少年ノウは退屈していた。

 幼いころから修行として魔物と戦い続けていた。

 切って、切って、切りまくる。目的もなく、目標もなく。

「くわー」と欠伸が出る。

 転がったワイバーンの死体の上に胡坐をかいている。

 唐突に背後から女が声をかける。

「君、すごく強いね」

「どうだい……私と勝負しないかい?」

「……なんで?」

「なんでって戦いたいから?大丈夫!退屈はさせないから!ね、勝負しよう!」

 女は腕を伸ばしその場でジャンプして準備運動を始める。

 にっこりと笑みを浮かべノウを挑発する。

「ほらかかってきな」

 ドクン――。

 心臓の鼓動が聞こえたと同時にノウは動き出した。

「いいね!」

 手ぶらだった女の手に短剣が握られ斬撃を防いだ。


「なかなかやるねえ君、名前は何て言うのかな」

「ノウだけど……」

 左肩からだらだらと血を流しながら名を名乗る。

「ノウか……いい名前だ」

「どうだった?私との勝負楽しめたかい?」

 女はノウに近づき手当をしながら質問する。

「あ、ちなみに私はすごく楽しめたよ!久しぶりに傷をつけられたしね」

 女は左肩をさする。

「……退屈ではなかった」

 ノウにとってこの勝負で初めて負けを味わった。

 なのになぜだか悔しさを感じない。

 そこにあったのは楽しかった――という純粋な感情だった。

 

「そうか!それはよかった!ところでさ君はさ何のために魔物と戦うんだい?」

「なんだよ急に……」

「いいじゃないか聞かせてくれよーそれに君は負けたんだよー罰ゲームってことでね」

 肩をぐらぐらと揺らしながら女は懇願する。

「痛い!いたい、分かった話すから!揺らさないでくれ」

「はーい!」

 ぱっと手を離し耳を傾ける。

「俺は……何のために……分かんねえ」

「ウワッハッハハハハ!いいねそういう子私は好きだよ」

「うるせえいいだろ別に!ていうかあんたはどうなんだよ」

「え、私、私は強い奴と戦いたいからだよ。強敵と戦う時ってすごくワクワクしないかい」

「……?」

「何言ってるか分かんないって顔だね!」

 女はノウの腕をつかんで手をノウの胸にあてる。

「ワクワクするってのはここが躍ることだよ」

 

 ドクン、ドクン――。

「ノウ、君は異界って知っているかい」

「知らないけど……」

「異界にはね、まだ見ぬ強敵、宝が眠っているんだよこの世界とは別の未知なる世界」

「……」

 体が震えていた。

 心臓の鼓動が早くなる。

 感じたことない感情が心を脳を占める。

「私はそれに凄くワクワクする……君はどうだい?」

 ノウは自分の手を胸にあてる。

 ドクン、ドクン、ドクン――。

 ♦

「ただどうすれば異界に行けるんだ?」

 両足を広げて膝を曲げ屈む。

 左肩をさすり顎に手を置く。

(噂になってることはほぼ全部試したが)

 異界に行くため強い魔物と戦ったり魔法陣を書いたりしたがその全てが無駄に終わった。


「まああるとしたらAランクか」

 ランク――それは冒険者の基準のようなものだ。ランクにはA~DまでありノウはBランクだ。

 ピカピカと光り輝くカードを取り出し見る。

 カード銀色に光っておりすごく眩しい。

「眩しすぎるな――」

 光で目が焼かれすぐにしまう。


「Aランクの冒険者は異界に行って冒険している……」

 噂だが試す価値はあるそんなことを考える。

「目指すか!Aランク!だけど……」

 しかし。

「なんで4人以上じゃないと昇格できないってどういうことだよ!」

「やっぱりソロじゃ無理か」

 Aランクになるには4人以上のパーティでなければならい。

 ガシガシ頭をかく。

 ノウはこれまでソロ冒険者として魔物と戦っておりパーティとは無縁だった。

 言うなれば『ぼっち』かっこよく言うなら『一匹狼』だ。


「仲間か……」

「はあっーめんどくさくなってきた!考えるよりも行動!」

 ばッと立ち上がり大きく伸びをする。

「手あたり次第声かけるか!」

 

「ん?なんだ犯罪組織エビシディ……賞金首か」

 壁に貼られた古くなったポスターを見る。

 エビシディは、盗みや殺人など行っている凶悪犯だ。その中でもエー君と呼ばれる者が特に危険で凶暴らしい。

 ♦

(早くAランクにならないと……)

 真夜中冷たい風が刺す中女は走り続ける。パンを口に咥えて!

 タッタタッと走っていると目の前に人影が……。

 ドスン――。

 女は気づくのに遅れ、避けられずにぶつかってしまう。

「なんだてめえ?」

「ひぅ――ごめんなさい」

 スキンヘッドに大柄体格、そして低い声に女は恐怖を覚えビクビクと震える。

「あ、あなたまさか指名手配犯のエー」

 女は男の招待に気づきその場から急いで逃げ去った。


 ◆

 「くそーだれもパーティ組んでくれねえ」

 時は進んで昼頃ノウは、ベンチにもたれかかっていた。

 「俺ってもしかして嫌われてんのか」

 左肩をさすりながら腕を組む。

 顔をギラギラ光る太陽に向けながら過去の自分を思い起こす。

『異界!異界!』、『俺は一人で戦うパーティなんか組まねえ』

(だ、だめだよくないことしかしてない!)

 あわあわとノウは慌て始める。

 

「ど、ど、ど、どうしよう」

 立ち上がりその場でうろうろと主人の帰りを待つように行ったり来たりする。


「ま、まだ希望がないわけじゃないからな」

 ふうーと深呼吸を行いゆっくりと歩き出す。

(それにAランクになれても異界に行けるかどうか分からないしな)

 パーティが組めなかった時の保険を頭で考えてると。

 遠くからモゴモゴとパンを咥えた女がノウに向かって走って来る。

 髪は茶髪でツインテールの女だ。

 「むむむむむーむ」

 突っ込んでくる女に気づいたノウは避けようとするが。

 ドスン――。

 想像以上に早かったのか避けきれずぶつかってしまう。

「大丈夫か!」

 倒れた女に駆け寄る。

「す、すみません!」

 女は立ち上がり勢いよく頭を下げてノウに謝る。

「俺は特に怪我とかしてないし大丈夫。君は怪我とかしてないか」

「はい大丈夫です怪我していません」

「それならよかった」

 ふぅと安心したように息を吐く。


「ほ、本当にぶつかった!ちゃんと呪いが発動したんだ!」

 ぶつぶつと女が一人でノウに背を向けて話す。

「発動したってことはこの人が……あの!」

 女は振り返る。

「呪いってなんだ?」

「あやりゃりゃ!」

 振り返ると正面にノウの顔、小声で発した呪いについて聞かれ女は、驚き変な声が出てしまう。

「大丈夫かもしかして頭打ったのか?」

「打ってないです……あの……私の声聞こえてましたか?」

「聞こえてたぞ」

(そ、そんな!聞こえてたの!どうしよう変な人だと思われるかも)

「えっと呪いっていうのはその……パンを口に挟んで走ると今自分が一番必要としている人にぶつかることができるんですよ!」

「へーそんな呪いがあるんだ」

(やっちまった!誤魔化すつもりが呪いの詳細について話しちゃった)

 心の中でココアは頬に両手を置き叫んでしまう。


「まあ、全部嘘なんですけどね!気にしない、気にしなーい」

 手を大きく振り誤魔化そうとする。

「……分かった気にしない!」

 腕を組んで目を閉じていたノウは目をばっちり開けながら言う。

「よっし!えっとじゃあまずは自己紹介から」

「私の名前はココアって言いますえっと……」

「俺はノウだ」

「急で申し訳ないですがノウあなたに頼みたいことがあります……私とパーティを組んでください」

 不安そうにココアはノウをパーティに勧誘する。

「いいぜ!」

「本当ですか!?」

 ぱあッとココアの顔に笑みが溢れる。

「ただ一つだけ聞きたいことがある」

「聞きたいことですか?」

「そうだココア、君は異界を信じているか?」


「信じていますよ……それに私はある異界の秘宝を探しているんです」

 切なそうにココアは語る。

「私はそのためにAランクを目指しています……」

「そうか……実は俺もAランクを目指してるんだ!君と同じ異界に行くためにな」


「つまり」

「俺とパーティ組もうぜ!」

「はい!」


「パーティを組む時ってどうすればいいんだ」

「握手をしましょう!握手」

「握手かいいなそれじゃあ」

 

 二人は握手をしようと手を差し出す。

 お互いの手を握ろうとした瞬間――。

 ドカンッ――。

 炎が爆ぜた。

 煙が二人を包み込む。


「よお女やっと見つけたぜ」

 スキンヘッドの男、エーが現れる。

 エーの手からは炎が渦巻いている。

 魔法だ――魔法は体内を巡る魔力と言うエネルギーを消費することで炎や水などを出したりすることができる。

「焼け焦げちまったかぁ……ちっ生きてたか」

 煙が晴れるとそこにはエーに背を向けたノウの姿が。

 炎が爆ぜる瞬間ノウはココアを抱え込んで炎から庇ったのだ。

 ノウの背中は服が丸く焼け飛び、大きなやけど跡がつく。


「ノウ、大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だそれよりあの男と何かあったのか」

 チラリとエーを見ながらココアに問いかける。

「そいつはな昨日の夜中俺にぶつかってきたんだよ」

 エーがノウの問いかけに答える。

「俺も別にそこまで心が狭いわけじゃねえぶつかったことはどうでもいい」

「ただ!俺の名前を間違えた!それだけは許さねえ!」

 エーの手に渦巻いてる炎が荒ぶる。

「どういことあなたは指名手配犯のエーじゃないの?」

「てめえまた間違いやがったな!俺の名前はエー君だ!母ちゃんが付けてくれた名前をよくも!」

 エー君の鼻息が荒くなる。

「殺してやる」

 その一言と共に両手に渦巻いていた炎が球体になる。

「焼き焦げろ!ファイアボール!」

 2つの火球が二人を襲う。

 迫りくる火球――。

(避けたら街に被害が出るな……受け止める!)

 火球が二人にぶつかり爆ぜる――ことはなく。

 ノウが無理やり火球を掴み受け止めた。

 

 「熱ッ」

 ノウの手の平は焼け焦げて黒ずんでいる。

「受け止めただと!邪魔をしやがってお前も殺してやる」

 足に力を入れ踏み込む。

 地面を蹴り一気にノウ達に近づく。

「ファイアボール!」

 至近距離からの魔法の発動。

 炎が爆ぜノウは吹き飛ぶ。

「ノウ!」

「心配している場合か!」

 エー君は両手を掲げ炎を出す。

「ッ――」

 炎を纏った拳がココアに迫りくる。

 拳は顔にぶつかる寸前で止まる。

「やらせねえよ」

 ぐっとエー君の腕を掴んで投げ飛ばす。

「また邪魔しやがって……」

 ココアは腰が抜けてその場でペタンと座る。


 

「なかなかの威力だな……最高だ、ワクワクしてきた!」

 至近距離で爆発した炎の威力を思い出しながら心を躍らせるノウ。

「ワクワクしてきただぁ俺は!イライラしてきた――」

 その瞬間――。

 二人は同時に走り出す。

 炎を纏った拳がノウに迫る!

 頬に風を感じる。

 ギリギリで拳を回避したのだ。

「避けやがって――ッ」

 力一杯に拳を振ったのかエー君は前のめりになる。

「喰らいやがれ!」

 ノウは地面を強く踏み込む。

 全身の力を拳に集め。

 エー君の顔を打ち抜いた!

「ガっ――!?」

 白目を剥いたエー君は吹き飛び。

 壁にぶつかった。


「強い――」

 静寂の中、その言葉が響いた。

(この人となら……秘宝を手に入れられるかもしれない)

 

「大丈夫か?」

 ノウはぼーっと座ったままのココアを呼びかける。

「は、はい!大丈夫です!」

 慌てながらココアは返事する。


「それならよかった」

「そうだ!握手だ、握手!」

 

「握手?あー!そういえば」

 戦闘前、握手をしようとしていたことを思い出しノウは手を差し出す。

「これからよろしくノウ」

「よろしくココア」

 グッと握手を交わしパーティが結成された。


「これが仲間か!ワクワクしてきた!」

「そうですね!Aランク目指して残り二人頑張って集めましょう!」

 

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