嫌いなアイドルを人気にしていたのは…私?

天冨 七緒

第1話 

「……彼女が……バラエティー女王?」


 衝撃の事実を知った。


「山本。お前がお気に入りで使ってたアイドル、今ではバラエティー女王って引っ張りだこだな」


「……そう……みたいですね……」


 数か月前。


 山本雫

 テレビ局に入社し、制作スタッフとして働いていた。

 自分の企画も通るようになり、出演者のキャスティングも任させるように。

 

「ご挨拶をよろしいでしょうか?」


「はい」


 最近では新人の挨拶を受けることが多くなった。


「マネージャーの神原です。この度、個人活動に移行した島上麻希です。どんな仕事でも構いませんので使ってやってください」


 挨拶に訪れたのはアイドルブームに乗ってデビューしたが、これと言って目立った功績を遺すことなく卒業し個人活動に移行した女性。

 年齢は私と変わらない。


「この度、アイドルから個人活動に移行した島上麻希です。一生懸命頑張りますのでよろしくお願いいたします」


 彼女の笑顔はアイドルで鍛えられた賜物だろう。

 

「ご縁がありましたら……」


 挨拶を終え去って行く二人を見送る。


「個人活動……」


 彼女が個人活動になったのには理由がある。

 アイドル事態に人気が出なかったのもあるが、彼女を中心とし売り出そうとしていた事務所の戦略でグループ内で格差が生れ自由気まま……ワガママに振る舞い他のメンバーが続々とやめてしまった。

 その為、今回個人活動という名の解散になった。

 その噂はテレビ局員の私のところにまで届く。

 ちなみに私も、以前彼女のワガママに振り回され先輩に激怒された経験がある。


「どんな仕事でもって言ったよね……なら……」


 近々ある二時間の特番に彼女を起用することに。

 連絡を入れるとすぐにマネージャーと共に島上が訪れる。

 番組内容を話していくうちに次第に表情を曇らせているのに気が付くも、話を進める。


「それでどうですか?」


「これはチャンスだ、島上いけるよな?」


 マネージャーはやる気だが本人の表情は優れない。


「あの……私、スタジオでコメントをするだけでも大丈夫ですよ?」


「それは……ロケには出向かないという事ですか?」


「私、状況を読んでコメントも出来ます」


 アイドル時代、何の功績も残せなかったのにどこからくる自信なのか。


「そう……ですか……台本も出来上がり、スタジオのメンバーや立ち位置も既に決まっています。島上さんは末端の席でコメントも二言三言になりますがよろしいですか?」


「えっ、それは……」


「ロケに出向いていただければ、確実に決まった時間放送でスキルんですが……無理そうなら他の方にお話をするしかありませんね」


「あっ、待ってください……えっと……もう、他の候補とか決まっていたり?」


「はい。他の方からも声が掛かっていますから、すぐに決まると思うので断って頂いても構いませんよ」


「ちょっと待って……分かりました……行きます」


「そうですか? では、詳細はマネージャーさんに追ってお連絡致します」


 彼女はグループ活動の時は嫌な仕事はメンバーに押し付け、スタジオでVTRを観るのが多かった。

 彼女は汚れる事や怖い事、素顔を見せる事は全部メンバーに押し付け自身のイメージを守っていた。

 私が今回彼女に抜擢したのは……


「では島上さんには、こちらの廃墟を巡って頂きます」


 ホラー番組のロケを依頼。

 いやいや対応しているのが分かる。

 撮影中も不機嫌さを隠しているようだが、不意の風の音だったり物が倒れる頃化けの皮が剥がれ始める。

 終わるころには……


「もう、こんな事絶対やりたくない」


 マネージャーに愚痴っている姿を目撃される。

 元からイメージの悪かった島上だが、今回の事で信用も失った。

 視聴者の反応も……


『あいつなんだよ、邪魔くせぇな』

『叫んでいるだけで、呻き声とか聞こえねぇんだよ』

『二度と呼ぶな』


 などで、私の思惑通り。

 マネージャーはその後丁寧に挨拶にくるものの、彼女は一切顔を出さない。

 それは忙しい訳ではない。


「今後も何かあればよろしくお願いいたします」


「はい」


 そして、私は再び彼女を起用した。

 

「今回は、ゴミ屋敷の住人を説得し掃除をお願いしたいです」


 再び、彼女が嫌いそうな仕事を回す。

 マネージャーも彼女に確認を取ることなく、その場で返事をする。


「はい、よろこんでお引き受けいたします」


「本人に確認取らなくて大丈夫ですか?」


「本人は私が説得致します」


「そうですか……お願いします」


 マネージャーの言葉通り説得され、当日汚れても構わない繋ぎで登場。

 彼女の顔は隠すことなく不満顔。


「それでは今日の収録ですか……」


 説明中も、腕を組んでいる。

 番組が始まり取り繕うも、掃除中は文句や愚痴ばかり掃除が進んでいない。

 編集で切られると思っているのか、態度が悪すぎる。

 私も編集に携わっているが、私が何か指示しなくても面白くなるよう編集をしてくれる。

 案の定、放送後の彼女はとても不愉快映っていた。


「ちょっとんな編集するなんて聞いてない。私のイメージどうしてくれんのよ」


 彼女が控え室で喚いているのが扉越しに聞こえている。

 仕事がない方が良いのか、どんな放送されようと仕事がある方が良いのかをマネージャーに説得されても不満を爆発させていた。


「失礼します」


 私が入室すると、態度を改めるどころか睨みつける始末。


「今度の仕事、私のイメージが崩れるような事したくないんですけど……」


 アイドルを辞め仕事が干されているというのに、ここまでの強気。

 関心してしまう。

 

「今回は、波乱万丈な人生を送った芸能人の人生を特集する番組です。何が転機で芸能人を継続できたのかを紐解く番組です」


「……スタジオでのコメントですか?」


「再現VTRを見てコメントして頂く形です」


「それなら……」


 彼女は了承。

 本番当日、今までにない綺麗な衣装で登場しメイクもばっちり。

 主役は波乱万丈な人生を送った芸能人なのだが、主役より目立つ格好。

 常にカメラを意識している。

 コメントを求めるも


「私なら出来ないような事を果敢に挑戦していて凄いなぁと感じました」


 真面目にVTRを見ていたのか分からないような感想。

 私としては真面目に番組を作りつつ、彼女の評価を着実に落とす事に成功し満足していた。

 その後も、色んな箇所で彼女を起用。

 次第に彼女の名前を覚える人間が多くなった。

 そして……


「えっ? 島上さんが?」


「そう、彼女ホラー映画の主演するみたいだよ」


「へっ……へぇ……そうなんですか……」


 映画の主演?

 どうして彼女が?

 彼女の評判はかなり悪い。

 そんな人間を起用するなんて……


「山本。お前がお気に入りで使ってたアイドル、今ではバラエティー女王って引っ張りだこだな」


「……えっ? あ……そう……みたいですね……」


「抜擢した理由は、お前のホラー番組での叫び声だってさ。良かったな、これからうちの番組を優先して出演してくれるだろうな」


「……そうなんですか……」


 私の嫌がらせが切っ掛けで彼女は映画の主演が決定したと聞く。

 落ち込んでいたが、それだけで終わらず偶然見た番組のインタビューを受ける彼女は……


「ドラマの主演も決まりました」

「年間出演タレント三位に入りました」


 そして、今では……


「バラエティー女王だなんてそんなぁ……私は、どの仕事も一生懸命していただけです。呼んでくださったスタッフさんには感謝しかありません」


 仕事に文句ばかりだったのに、いつの間に『バラエティー女王』に君臨していた。

 しかも、私の嫌がらせによって……

 態度が悪いのを世間では、『忖度なく発言するのが清々しい』と好意的に受け取られてる。

 CMにも起用されている。

 事実を知り、急激に力を失い座り込んでいた。

 SNSで彼女の批判を目にする度に満足していたが、批判が上がるというのはそれだけ人々の目につき始めたという事。

 私の嫌がらせが彼女を有名にしていたのかと思うと、気力を奪われ目標を失った。

 その後、私は彼女の起用を止めたが他の部署では採用し続けているらしい。

 私は彼女を意識しないよう心掛けた。

 初めのうちは条件反射で考えてしまい、考えないようにするのは難しかった。

 時間が経過するにつれ次第に彼女を忘れる事が出来るように。

 以前までの私は彼女に囚われ過ぎて彼女の嫌いそうな番組ばかり企画していたが、彼女を考えないように自分の好みの番組を心がけるように意識した。

 テレビが大好きで入社した頃を思い出し、制作に打ち込む。

 彼女の呪縛から解放された今、邪念に囚われることなく仕事に向き合うようになった。



 それから……数年後。

 世間の反応。

 

「あのタレント見なくなったな」


「誰の事だ?」


「元アイドルの……面白くねぇホラー映画とか打ち切りドラマの主演とか出てた……」


「そんな奴、いたか?」


「物怖じしない性格って言われてた……あの……ほら、あの……ダメだ、思い出せねぇわ」


「あぁ、そんな奴いたな。名前忘れたけど、俺アイツ嫌いだわ」


「俺も。物事はっきり言うって言われてたけど、口悪いだけにしか見えなかったわ」


「あの瞬間は受け入れられてたけど、やっぱ礼儀は必要だろう」


「今じゃ、すっかり消えたな」


「あぁ。いなくて困らないし、寧ろ進行を妨げる奴いなくなって良かったわ。アイツいると、話が脱線するからよ」


「あぁ、そうだった。見てて苛つくんだわ」


「……それよりよ、最近出初めのアイドルがいてチェックしてんだよ」


「おっ、誰だよ」


「朝の情報番組に出てた……」

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