「まだ酒が抜けずに頭が痛いから、ここで静かに寝るよ」


 俺が言うと、レベッカは意気揚々と出ていった。

 俺が魔王を看破したことをみんなに話し、その反応を肴に、酒を飲むのだとか。

 さっきまで魔王に支配されていたというのに、元気なことだ。


 ――ゲームのクリア条件は、『犯人の正体を暴くこと』だった。

 だから、魔王を排除すればこのゲームは終わり、俺は元の世界に戻れると考えていた。

 しかし、俺はまだ、レイ・オーギュストとしてこの世界にいる。


 ベッドに身体を横たえていると、遠くで雷が鳴っているのがわかった。

 外はまだ雨が降っているようで、床にできた水溜りには、新しい雨水がパラパラと波紋を作っている。


 ――ここに飛ばされたのと同じように、目を閉じれば、元の世界へ戻れるかもしれない。

 そう思って、目を閉じたまま数十分。

 しかし、何も起こらなかった。


 眠れば、意識を手放せば、戻れるのか? 

 それとも、死ねばいいのか?

 俺は殺されないために魔王を消滅させたが、そんなことせず、シナリオ通りに殺された方が、元の世界に帰れたのか?


 ――石畳の冷たい床に、廊下の照明から作り出された鉄格子の影が落ちている。

 この世界に囚われているという事実が、身体に重くのしかかってきていた。

 もしかしたら、この世界でずっと生きていくことになるのかもしれない。


 魔王城から出た後は、ゲーム本編では描かれていない。


 クリア時点で、勇者パーティは3人にまで減っていた。

 ついでに、勇者は真っ先に死んでいるのだ。

 ――ギルドにはどう説明するつもりだったんだろう? 


 魔王との戦いで、勇者を含む4人は死んでしまった、とでも言ったのか。

 それとも、魔王は倒したが、その魂に乗っ取られたレベッカによって大半が殺されたと、洗いざらい報告したのだろうか。


 ――俺は、ここから出れば、ギルドからは魔王討伐の報酬が支払われ、世間からは英雄扱いされるだろう。隠居を宣言すれば、悠々自適な生活が待っているのかもしれない。


 しかし、本当に魔王を倒したのは、俺じゃない。レイだ。

 その報酬を俺が貰うというのは、おかしな話に思える。


 それに、魔王が滅んだとはいえ、この世界はまだまだ物騒で、魔物は世界にはびこっている。

 俺は勇者の身体ではあるけど、戦闘においてはド素人だ。

 仮にスキルが使えたとしても、魔物に勝てるかどうかは別だ。

 魔王城から出た後、帰りの途で、魔物に襲われて殺される、というバカみたいなオチも十分あり得る。


「クソ」


 魔王を倒したのに、勇者が報われないなんて、そんな話があってたまるか。

 ああ、普通に、定番のRPGゲームだったらよかったのに。

 何でよりによって、推理ゲームの世界なんかに――。

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