#2

 ひとりでいることを自分自身で選んだはずなのに、日が傾くとともに不安になってきた。

 なんで知らない森をひとりで行くことを選んでしまったんだろう。道を進んでいれば人間に出会うだろうと思っていたのに、誰一人見かけない。道だと信じて進んできた足元も、下草が増えてきて、人道だか獣道だか分かったものではない。

 せめてサバイバルやキャンプの知識があればよかった。実際に経験していなくたって、勉強する時間はいくらでもあったのに。なのに暇さえあればだらだらとスマホ画面をスクロールして、自分より偉い人や自分より不幸な人の書込みを眺め、キラキラした人の嘘みたいな生活や、ダメな人が声高にあれこれ訴えるのを聞いて回ったり、害のない動物の動画に癒されたり、本当に無事で済んだかどうか分からないような危機一髪映像を観たりと、無為な時間を過ごしていた。ほんと、ばか。

 森の中で夜の帳が下りる前に立ち止まって一夜を過ごすのと、動き続けるのとでは、どちらが安全なのだろうか。

 決断しかねて歩き続ける間にも、どんどん日は落ちていく。

 さいわい日没を迎える前に、行く先に灯りを見つけて、街に辿り着いた。


 夜が開けて、街をうろうろしていると、家族連れに出会った。

 偶然にも若い夫婦は、私と同じ所から来たということで、安心感からあれこれ前のめりに訊いてしまった。夏彦くんのことを知らないかと尋ねるも、知らないということだった。また、この辺の地理にも詳しくはないらしい。残念ながら、特に有益な情報を得ることはできなかった。

 彼らもこれから行く先を迷っているそうだが、全然不安そうには感じない。やはり、家族という安心感があるのだろうか。

 しかし、家族だと見えた彼らは、赤の他人だという。男性と子供に、あとからたまたま出会った女性が合流して……という感じらしい。一緒にいる子供も、男女によく懐いていたので、てっきり。

「家族だってー」と彼らは、私の驚きをよそに、和気藹々にきゃっきゃとはしゃいでいる。

 それを見て暗澹たる気持ちになる。

 こんな小さな子供さえ、しっかりコミュニケーションを取って仲間を形成するのに、私ときたら。

 あーやだ。もう帰りたい。

 と思うのに、帰るすべもないし、ここがどこかさえ分からない。

「一緒に行きます?」

 私の絶望的な様子に同情したのか、彼らが問う。

 せっかく声を掛けてくれたのに、私は訳の分からない言い訳をして、そそくさと彼らからも逃げた。

 私という異分子が入ることで、あの円満な関係を万一壊してしまうかもしれないと思うと怖かった。

 誰も皆そうなのだろうか、それとも私が変なのか。

 こんな私に居場所などあるのだろうか。いつもどこでも居心地の悪さを感じている。

「居場所は作るものだ」という人も居るけれど、そんなのはできる人の言説だ。私はどこにもない居場所を求めて、また路傍を彷徨う。

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