亜はイのまえ

香久山 ゆみ

#1

 ひとりぼっちは怖かった。だから、仲間に入れてもらった。自ら望んでそうしたくせに、もう居心地の悪さを感じている。

 森の中を進む。

 私は四人のうしろ姿を見つめながら、一歩、いや二歩も三歩も後を歩く。なのに、前を行く彼女達は、時々振り返ってはいちいち話を振る。別にいいのに。

 わざわざ話を振ってもらっても、上手い返し一つできない。居たたまれない。

 早くも来たことを後悔していた。

 彼女達四人は幼馴染同士なのだ。私の入る余地なぞないのだ。

「ねえ、どっちだと思う?」

 はっと顔を上げると、小道の分岐点で皆が立ち止まっている。

「え、ええと……」

 必死に考える。ここに来たこともないし、地図だってないから、考えたって分かるはずないのに、私はばかだからなんとか答えを出そうとする。

「っていっても分かんないよね」

「そりゃそうだ」

「分かれば苦労しないもんねえ」

 皆がわいわいと言う。

 どうやら答えを求めていたわけではないらしい。ほっと息を吐く。こういう機微を読み取るのは苦手だ。

「とりあえずこっちに進もうか」

 と右の小道を指す。

 私も皆の後を追おうとしたところ、ガサガサッと左手の草むらに動く影を見た。

「あっ」

 振り返ると、四人はもうすでに道を大分進んでいる。

「あのっ……、右本ミギモト、さん……っ!」

 呼び掛けてみたけれど、呼び慣れない名前を呼ぶのは妙に緊張して、掠れた声しか出なかった。当然彼女達には届かず、そのままどんどん遠くなる。

 どうしよう。

 一瞬迷って、私はひとり左の道へ入った。

 さっきの影がまさに我々の探しているものかもしれないのだ。さっと確認して、また走って右の道に戻って合流すればいい。

 そうして先程影の消えた草むらを探るも、何の痕跡も見つけられない。

 もう少しだけ進んでみる。

 虫や鳥の鳴き声がするだけで、結局それらしきものは何も見つけられなかった。小さな糞が落ちていたりしたので、きっと小動物か何かだったのだろう。

 ふと辺りを見回すと、ずいぶん深くまで草むらを進んでしまったようだ。猪や熊が出るやも知れない。急に不安になって道を引き返す。

 分岐に戻ったが、彼女達の姿はない。

「おーい」

 と頼りない声で右の道に呼び掛けてみるが、こだまさえ反応しない。

 右の道を全力で走れば、追いつくだろうか。

 そう思いながら、私の足は左の小道に進んでいた。

 だって、皆で同じ道を進むよりも、別々で探索した方が発見する可能性は上がるのだし。なんて言い訳を考えながら。

 森の空気を深く吸い込む。やっぱり、私はひとりの方が楽なのだ。

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