貴方を呑み込めば

雨野終

 八谷さん、私、貴方を呑み込めたら良いのに。そしたら貴方は私の喉から、胃に流れて、消化され、腸に着いたら貴方の全てが、きっと私の栄養として吸収される。貴方という人は私に足りないものを全部持っているのだから、貴方の中に、私に必要ないものなんてただの一つもないでしょう。だから貴方を呑み込めば、私の身体の中は貴方のお陰で、必要なものでいっぱいに満たされる。そしたら私達、きっといつまでも生きていられる気がするの。だけどもし、仮に死ぬようなことがあったとしても、その時は喜んでこの身を手放すわ。だって愛する貴方はこの身の中で、私と共に静かに消えていくのだから。愛する人と同時に死ねる。こんなに素敵なことはないでしょう。だからね、私、貴方のことは呑み込みたいのよ。生きようとも死のうとも、呑み込んだ貴方は、一緒なの。



何も知らない可愛いあの子は、僕の腹の中でそう言いました。

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