第11話 伊波さんはダメだなぁ!
「ねぇ、瑠美。キス!キスしましょう!」
伊波さんとのデートから日曜日を挟んで月曜日。
いくら恋人といえども学校で急にこんな事を言われたら流石に辟易としてくる。
これを言う場所を選ぶ最低限の理性がのぼせ上がった伊波さんに残っていて良かったと、急に連れ出された校舎の隅で思うのだ。
「やだ」
「なんでぇ!?したいの!キスよ!勉強したの!大丈夫だから!」
「何その熱意こわ……」
涙目になって必死に懇願する伊波さんのこの……盛った様は中々幻滅だ。
色を知ってボケてしまったのだろうか?
私はもっと慎重にご褒美を選ぶべきだったのかもしれない。
「ふぅ、ふぅー!」
「息荒くするのやめて。キモいよ」
「えっ、えっ?きもっキモい?」
「もうね、朝から伊波さんヤバくてキモいよ」
朝、おはようの挨拶をした時から眼がヤバかった。
明らかに普通ではない視線が向けられているのが分かったし、なんなら距離の詰め方が不審。
端的に言えば性欲が向けられているのが明確な態度だ。
「あの、えっと、まだ恋人よね?」
「一応ね。伊波さんの振る舞い次第かな」
「じゃあキスは……」
「私が良いよって言うまでは駄目」
「そんな……恋人はいつだって教室から連れ出してキスや性行為が出来るものだって……」
「身体目当て?伊波さん幻滅だわー」
「あっあっあっ……」
伊波さんは初めて出来た恋人にテンションが上がってる、舞い上がってる、有頂天だ。
だからこうして冷や水を叩きつけてやるくらいの気持ちじゃないと、熱に浮かされた伊波さんを抑えきれない。
「でも人の居る所で言わなかったのは偉いよ」
「ほんと……っ!?」
「ホントホント」
「ならご褒美にキスね!私の配慮には相応しいと思うの」
「何がそんなに良かったんだか」
「あのね、とても熱くなるの!胸とかお腹の奥の方とか!瑠美とのキスな事を思い出すとそれがどんなポ──」
「ストップ!やめて!」
なんて言うつもりだった?
すんでで止められて良かったけど、しばらくは続く言葉の事を考えて伊波さんと距離取るかも……
「ごめんなさい」
「謝れるのは偉いけど言う前に考えようね」
「分かった。恋人らしい事をする必要があると思うの」
「まだ続ける度胸があるかね。話してみて?」
私の言葉にパッと明るい顔になり、懐から手帳を取り出しページを捲る。
その中の1ページを、線に合わせて整然と並ぶ綺麗な文字列を見せてきた。
「やりたい事リストを作ってきたの。ふたりでロッカーの中に入る、保健室で同衾、空き教室で──」
「伊波さんはダメだなぁ!」
なんだかんだで許してしまう私もダメで、結局お似合いなのかも。
私の支配的な欲求を跳ね除けるくらいには伊波さんの猥褻な欲求が強い訳だし。
はてさてこれは、健全な関係なのだろうか?
分からないけど、少なくとも伊波さんと過ごすのは楽しいから良いのだ……と思いたい。
邪念が多い伊波さんには健全な交際を教える必要がある! 相竹空区 @aitake_utsuku
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