最終話 透花と夢莉

私が自殺した理由。


秋月蓮は、「自分と別れたせい」だと思った。

楠瀬陽菜は、「親友を裏切ったせい」だと思った。

夜見結華は、「呪いのせい」だと思った。


夢咲詩乃は、「罪を押し付けたせい」だと思った。

桐ヶ谷柚葉は、「嫌がらせをしたせい」だと思った。

篠宮啓介は、「受け止められなかったせい」だと思った。


両親は、「自分たちに問題があったせい」だと思った。

クラスメートは、クラスの中にいたにもかかわらず、SNSの情報を信じ、「いじめのせい」だと思った。


そして——

宵宮夢莉は、「彼ら全てが透花を苦しめたせい」だと思った。


でも、それが本当なの?


真実は、語られるたびに歪んでいく。


もしかしたら、理由なんてなかったのかもしれない。本当に些細なことだったのかもしれないし、衝動的なものだったのかもしれない。ただ、疲れただけなのかもしれない。


それこそ、誰かに語られたことが「真実」かもしれないし、あるいは、それら全てが「真実」なのかもしれない。


——でも、死者は何も語れない。


語れるのも、変われるのも、生者だけ。


生きているからこそ、立ち直れる。


生きているからこそ、未来へ進める。



---


透花は、崩れ落ちる。


「なんで……生きてるうちに、私はみんなにちゃんと話をしなかったんだろう。」


「なんで……自殺なんかしちゃったんだろう。」


「わからない……私、死んだ理由が、わからない……!」


涙が溢れて止まらなくなる。


「……私、死ななきゃよかった。」


「死ななきゃよかったよ!」



初めて、自分でも止められないくらいに、透花はわんわんと、大きく泣いた。


---


夢莉は、ふと思う。


生前の思いは、死後も続く。

彼女は「みんなを恨む」のではなく、

「全てを忘れたくて」死を選んだのかもしれない。


……それも、夢莉が思ったことでしかない。

真実は、もう誰にもわからない。


でも、それなら——

夢莉自身も、「復讐のために自殺した」と思い続けていた。


けれど今、透花を見ていると、心が晴れていく気がした。


もしかしたら——

自分も、本当は復讐のために死んだんじゃなかったのかもしれない。


夢莉はそっと透花の肩を抱き、透花が落ち着くまで、ずっとそこにいた。


---


「……私もね、今ならそう思えるよ。」

透花が顔を上げる。 


夢莉は静かに微笑み、透花の手を握る。

「私も透花と、同じ気持ちだよ……」


透花は、一瞬驚いたように目を見開いた後、

ゆっくりと微笑む。


「私と同じ……」

二人は、初めて、お互いの笑顔を見た。


お互いに手を繋ぐ。

「気づくのが遅かったね……透花…」

「そうだね……夢莉と一緒だよ……」


ふふっと、お互いが初めて、笑顔を見せ合う。

遅かった。けれど、もう後悔することも、嘆くこともない。


「これからどこに行く?」

「うーん、多分、どこにでも行けるよね。」


そんな他愛のない話をしながら、

二人は歩いていく。


——ゆっくりと溶けるように、光の中へ消えていった。

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