ロマヌ王国の悪徳者

 まずは前提となる状況を伝えなければならない。舞台となるのはガリドーニュ島にある国、ロマヌ王国だ。


 面積が約28万平方キロメートルに及ぶガリドーニュ島の全域を支配していたロマヌ王国はキクスロム帝国の崩壊後、分離独立を果たした諸王国の中でも最大勢力を誇る国だった。


 初代の王アグトゥスがサグリダル朝を築き、以後4人の王によりガリドーニュ島を統治された。初代から3代目までは安定と繁栄の時代だった。しかし4代目であるテオドスタ王の時代から異民族の侵入による社会的混乱と疫病の流行でその栄光に陰りが見え始める。(もっともこの時代、周辺諸国どこでも同じようなものだった)


 そんな中、暦471年にテオドスタ王が没し、前期ロマヌ王国の最後の王であるピエトルテが即位する。


 近しい人たちが残した文書や日記にはピエトルテの人柄が記されている。いわく、ピエトルテは優しさと知性を持ち合わせた王であり、下々の者を気にかける敬虔なキメサ正教信徒だと言う。その一方で押しに弱い面があり、正教の要求や有力貴族の圧に耐えかねて、様々な”譲歩”を行っていたという記録もある。


 この時代の残された記録によれば特定の貴族やキメサ正教への免税特権や優遇、果ては不正の見逃しなど法の番人も真っ青のことが行われていた。そしてこのような文書はそれを承認したピエトルテ王を脅すため、または不正した貴族や聖職者が自身の正当性を保持するために残されていた。いつの時代も権力者は悪知恵が働く。


 全ての貴族と聖職者がこの薄汚い恩恵を授かったわけではない。結局、貴族の中にも階級差があり、甘い汁を吸ったのは王に近しいかつ資産も多い数十の名家とそれに連なる者たちだけだった。王都から離れた地方の貴族、つまるところ下級貴族とその取り巻きたちは蚊帳の外で、利益がないばかりか負債を背負わされていた。キメサ正教においても不正に声をあげる真面目な信徒は遠くの地へ送られた。


 悪徳貴族と邪悪な聖職者がロマヌ王国の財政を貪り食う。しかし国を維持するためにどこかで、補填しなければならない。その負担を強いられたのが、下級貴族とその他大勢の民だった。重税の嵐がガリドーニュ島に吹き荒れ、一部の地域では反乱も起こった。(もちろん反乱は鎮圧された。正規軍が民衆を血祭りにするいつものやり方で)


 混乱の中、ピエトルテ王は何とかバランスを取ろうとしたようだが不満は不満を呼び、あちらを立てればこちらが立たず。これに追い打ちを掛けたのが異民族の侵入と疫病の流行である。

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