第5話

しかしそんなことただの医者である僕には関係ない。



今日も決まっていつものセリフを言うだけ。




「あーあ、毎回勝手なことするから、また悪化していますよ」


「……いたっ」




青く腫れ上がってるその場所を少し強めに押すと、彼女の鈴を転がすような声が一層高く響いた。





じわりと涙を溜めながら恨みがましく見てくる彼女に、




――――背中にぞくりとした感覚が駆け巡る。




しかしそれを一切表に出すことはせず、またいつものセリフを吐く。




「本当に治す気あるんですか?」


「治すのは先生の役目でしょう?」




挑発的に笑い返してくる彼女には最早呆れを通り越して感心さえする。





「治す為には患者の協力も必要なんですがね」





溜息混じりにそう呟くと、彼女はそれはもう嬉しそうに微笑むのだった。

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