第16話 怪鳥退治➂
策が決定されれば、後は実行に移すのみ。
囮役を務めるククとは違い、イヒカとフキは結界の準備をしなければならない。見習いのイヒカが熟練者のフキに教えられるかたちで、結界に作成に当たった。
結界はフキの家から離れた、川縁に張られることになった。
霊符にそれぞれ霊力を込め、四方に貼り付ける。縄で囲われた小さな祭儀場が出来上がった。
「イヒカ、お前にこれを貸してやる」
フキはイヒカに鞘に収まった刀のような物を手渡した。
「えーと?」
イヒカは鞘から抜いて困惑に染まる。
退魔用に加工された護身用の小刀かと思いきや、その刀身は鉤型をしていて、柄には組紐の緒が巻かれている。
「これ、十手じゃない‼」
刀剣を防ぐために用いられる、いわゆる護身用の武器だ。主にとりたての役人がもつそれである。
「悪いな、今はこれしかない」
「おじさん仮にも退魔師でしょ⁉ もっとそれらしい道具とか持ってないの? 予備で‼」
退魔の道具を失った丸腰に対して、物理的に十手で身を守れとはあんまりの仕打ちだ。魔物に物理攻撃は効かない。
「それに霊力を込めろって言ってるんだ。無理は言ってないぞ」
いやそうだけど。
その手にあるお祓い杖は何ですか、と突っ込みそうになる。
「退魔師が事象を思い通りに運ばせるための基本の道具がお祓い杖であって、媒介する道具は何だって良いと知っているだろう。刀で闘う知人だっている。丸腰で闘う退魔師もいるぞ」
「わたし見習いだからそれしか使ったことないんだけど」
「弱ったな、ワシもこれしか使えんぞ?」
イヒカは目を細めた。
「おじさん、その手のものは?」
「これか? これは、ワシの武器だ。予備はない」
ぐぬ、とイヒカは奥歯を噛みしめた。
「あーどこかの誰かさんに転ばされた傷が痛いな~。可哀想なわたしに武器を貸してくれるやさしい大人はいないかなー」
こうなったら情に訴えてやる。
「あーワシも歳かな、腰が痛くて敵わん。素直に現状を受け入れてくれる、聞き分けの良い子どもはおらんかのぅ」
イヒカは心の底からこんな大人はいやだ、と叫んだ。
試しに十手を振り抜いて霊力を込めてみる。いつも通りに使えそうだった。
「お前さんは変なところで器用だから、問題ないだろ」
「人ごとだと思って。……そもそも、なんでこんな物がこの家にあるわけ?」
イヒカはふて腐れつつ、刀身を鞘に収めてフキを振り返る。
「基本は結界があるから、家周辺の人や魔物の気配には気付く。だが、万が一盗賊に襲われでもしたら困るだろう? 護身用だ」
十手だけで、この老人は盗賊を防ぐつもりなのだろうか。
イヒカは深く考えることを諦めた。
「イヒカ、フキさん。準備はどうですか?」
そこで、今まで囮役を請け負うために瞑想していたククがやってきた。真剣な面持ちで表情は硬い。
「いつでもいけるぞ」
「クク、待ってるからね」
二人の返事に、ククは黙ってうなずいて返事をした。
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