飛翔する

月白ゆきの

飛翔する

第1話

「カズヤ、ゆるして」

そう言われたような気がして

後ろを振り向いた。


突然そう言った“彼女”が、炎につつまれ、

灰になってゆく。


――…オレは、とび起きた。


夏の虫がの鳴き声が、窓から聞こえる。


ああ、悪夢だったのか…


部屋が暑い。


エアコンの冷房をかけて、南向きのカーテンをしめた。


西側の窓を閉めようと、カーテンを捲ると、“彼女”の部屋が見えた。


すばやくカーテンをしめ、

“彼女”の声を思い出す。


「さみしい音だね」


少女の頃の彼女の声。


その時、

「盗み聞きするなよ」

そう子供の頃の自分が言って、

ポーンとピアノのラの音を鳴らす。


すると、“彼女”が、バイオリンで、ラの音を弾く。


“彼女”との初めて出会った時の思い出だ。


あの時、長いストレートの髪に、ワンピース姿はバイオリンがよく似合っていた。


綺麗なその子に、ひと目ぼれしてしまったことを、本人には恥ずかしくて言えない。



…一旦、現実の『今』にかえってみる。


「レッスンは、明日の2時か。」


(予選の前日だから、完璧にしないと。

眠ってる場合じゃない。練習しないと。)


ピアノを弾き始める。


オレは、明後日、日本で『そのコンクール』の予選を…

『運命の予選』を受けに行くのだ。

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