第4話 星野さんは一番美人である。
やってしまった。
あの言い方では非難と捉えられたって仕方ない。
「いや、あの、純粋に気になったというか。そんな感じで。」
どんな感じだよ、と頭の冷静な部分がセルフツッコミを入れてくる。
なんとか誤魔化そうとする私とは対照的に星野さんは、
「…かわいいから?」
それ以外に何があるのかと言わんばかりの顔である。
「周りの目とか気にならないの?私なんて…」
慌てて口をつぐんでも時すでに遅し。
星野さんの真っ直ぐな視線が続きを促してくる。
「私の名前って、本田美波じゃん?有名な女優さんと一緒の。」
私の
小さい頃、有名人と同姓同名なことはむしろ私の自慢だった。
思春期になって、周りの目が気になりだしてからだろうか。
自己紹介の度に向けられる同情の混じりの目が心底嫌になったのは。
勝手に壇上に上げられ、比べられる。
そして、私は彼女に勝てっこない。
名前じゃなくて顔が似れば良かったんですけどねーと自虐ネタにしかならない、この名前が。
比べ合いにいつも勝てない、この容姿が。
それより何より、周りの目に怯えて、笑われる側に甘んじてしまう、自分が。
「全部嫌でっ、」
伏せていた顔をあげると、星野さんは―
「ごめん、何もわからなかった。」
過去一、不思議そうな顔をしていた。
いわゆるスペキャ顔だ。
「いや、だからっ―」
「なんで女優さんが美しいと本田さんが醜いって話になるのかしら?」
「だから、比べられるのがコンプレックスで…」
「本田さんって、薔薇と桜の美しさに甲乙つけるタイプの人なの?」
あー、もうっ。
「それとこれとは話が違うでしょ!薔薇と桜は五分五分でも、本田美波と私とどっちが美人かってアンケートとったら、100人中120人が本田美波って言うに決まってる!」
「少なくとも私はそうは思わないわ。本田美波もあなたも、どちらも一番美しい。
他のみんなも一番美しい。そして私が一番美しい。」
「はぁ!?矛盾だらけだし、意味わかんない。そんな見た目で自分が一番美しいとか、頭おかしいんじゃないのっ。」
それからは一度も星野さんの方を見なかった。
怒りに任し、乱暴に資料をリュックに詰め込んで足早に図書館を出る。
いつの間にか暗くなった空には煌々と一番星が輝いていた。
一番綺麗だから一番星なのである。
みんな一番美しいなんて、所詮ただの綺麗事だ。
生暖かい夜風が頬を撫でていく。
怒りで熱くなった身体は
ちっとも冷めてくれそうになかった。
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