第5話 《デート?》

 週末。俺は柚月と共に少し遠くにある大型書店に行くことになっていた。

 近所の書店でも漫画は手に入るが今回の目的は店舗で行われるイベントだ。

 イベント内容は漫画を購入するとポイントが貰えそれを集めると景品と交換が出来るというもの。

 大量の漫画を入れる用の空のリュックを背負って柚月の家に向かった。

 インターホンを押し待っているとドアがゆっくり開くと柚月が顔だけを覗かせた。


「おーっす。……って何してるんだ? 早く行こうぜ」

「そうしたいんだけど……」

「早くしないと目当ての景品無くなるぞ?」

「う、うん……」


 柚木はゆっくりドアを開けた。

 一瞬いつも通りだと思ったが恥ずかしがっている理由が分かった。柚月はスカートにゆったり目の服を着た‟ザ・女の子„って感じの服を着ている。

 今思えばいつも会うとき制服か男の時着ていたパーカーとかそこまで女の子っぽい服ではなかったが今着ているのは完全な女の子って感じの服だ。

 

「お母さんがお出かけ用にって買ってきてくれたんだけど……どうかな?」

「どうっていうか普通にありだと思うけど」

「っ!? そ、そうかな?」

「だって今季のアニメにそんな感じの服のキャラ居た気がするし」

「デスヨネー」

「てかもうそろそろ電車来る時間じゃん」


 俺達は急いで駅に向かうと遠くから電車が来るのが見えた。

 何とかギリギリで電車に乗ることが出来たが週末の午前中だけあって混んでいた。

 

「なんだかいつもより人多いね」

「そういえば土日に祭りがあるとかなんとか」

「屋台とか出るの!?」

「いや、そういうのじゃなかった気がするけど出店は少なからず出てたかな」

「漫画買ったら見に行ってみようよ」

「そうだな」


 電車が各駅に停車するたびに人が乗り込み車内はさらに混んできた。

 俺と柚月は反対側のドアへ追いやられてしまった。

 柚月が人とドアに押し潰されそうになるのを俺はなんとかドアの横にスペースを作った。


「柚月大丈夫か?」

「うん、奏汰こそ大丈夫?」

「なんとかな。でもこれ以上人が来るとまずいかも……」


 そう言ったのも束の間、目的地の駅の一つ前で人が乗ってきて俺の腕の限界が来てしまった。

 体制を崩した俺は柚月にくっついてしまった。


「すまん」

「ううん、平気」


 柚月とはゼロ距離状態だ。

 これ以上柚月を押しつぶさないようにと踏ん張った。

 電車が揺れるたびに腹に何やら柔らかい感触と甘い匂いがする。

 なんだかドキドキしてきた。

 駅に着くまで残り5分ほどだったがその5分がすごく長く感じた。

 ようやく駅に到着すると俺達側のドアが開いた。

 

「やっと着いた~。……って奏汰顔赤いけど大丈夫?」

「えっ? あ、ちょっと暑かったからなぁ?」

「休憩してから行った方がいいんじゃない?」

「大丈夫大丈夫。行こうぜ」


 柚月と目を合わせるのが若干気まずかった。柚月は先ほどの出来事に気が付いて居ないみたいだった。

 駅から歩くこと数分で目的の書店に到着。


「奏汰は何の漫画買うの?」

「俺は今集めてるやつの最新巻とアニメ観て続きが気になったやつ一気に買おうかなって」

「あー、あれね。確か現在15巻くらい出てるはずだよ。持って帰れる?」

「さすがに重すぎが。車とかあったら便利なんだろうけど。今回は5巻まで買っていくかな。他の漫画もあるし。柚月は何買うんだ?」

「新しい漫画買いたいけど本棚圧迫してきているから今集めてる漫画の最新巻だけ」


 柚月は新刊コーナーへ行き、俺はアニメ化した漫画を探しに向かった。

 棚には出版社別に区切られていてその中で作者が五十音順に並べられていた。


「(えーっと――あったあった。後は最新巻か)」


 新刊コーナーへ行くと棚から漫画を選んで取っている柚月の姿があった。

 

「漫画あったか?」

「うん、全部あったよ」


 柚月が持っているカゴを見てみると数冊の漫画が入っていた。


「奏汰はどれ買うの?」

「えーっと、俺はこれとこれだな」


 俺は棚から漫画を取り出しカゴへ入れた。

 こういう時予想外の最新巻とかが出ている可能性があるため再度棚の隅々を見ると1冊の漫画が目に入り手に取った。


「あ、これって単行本出たのか」

「僕もそれSNSで見たことある。買うの?」

「これ大判の漫画だから少し高いんだよな」

「だったら僕が買ってあげるよ。この前プール掃除付き合わせちゃったお詫びに」

「それじゃ遠慮なく」


 俺達は漫画を買い書店を出た。

 空だったリュックには俺の分と柚月の分の漫画も入れたため予想より重くなった。

 さすがにプール掃除のお詫びに漫画一冊は大きすぎるからだ。


「漫画も買ったことだし祭り見に行ってみるか。どこでやってるんだろう?」

「さっき調べたらこの先にある大きな公園でやってるみたいだよ」


 歩いて向かうと公園の方から風に乗って良い匂いがしてきた。

 どうやらそこそこの数の屋台が出ているみたいだ。

 公園内に入ると人が多く賑わっていた。


「色々屋台ある。ここでお昼食べようよ」

「それいいな」


 俺達は屋台を巡った。

 定番の焼きそばやたこ焼き、綿あめなどもあり景色は完全に夏祭り状態だ。

 俺は焼きそばを買い。柚月はクレープとたこ焼きを買い近くのベンチで食べることにした。


「このたこ焼き凄く美味しい」

「屋台のって家で食うのと全然違って良いよな」


 クレープを頬張る柚月の頬にベタにクリームが付いていた。

 俺はティッシュを取り出し拭いてあげた。


「っ!? な、なに!?」

「すまん。クリーム付いていたから」

「あ、ありがとう」


 祭りもとい屋台を楽しんだ俺達は公園を出た。  


「他に行きたい場所あるか?」

「ん~……あっ、ゲーセン行きたい。クレーンゲームに欲しいフィギュア出たんだよね」

「よしそこ行くか」


 俺達は近くにあるゲームセンターへ向かった。

 店内には数多くのゲームがあり店内一角がクレーンゲームコーナーになっていた。

 景品を見て回っていると柚月は目当てのフィギュアがある台を見つけた。


「あったよ!」

「残り僅かじゃん」

「よーし、がんばろっと」


 柚月は機械にお金を入れアームを操作した。

 それを見ていると俺もやりたくなってくる。

 辺りを見渡すと落とし口の近くにある大きな狸のキャラクターのぬいぐるみを見つけた。

 

「俺もやってくるわ」

「うん、わかったぁ」


 俺は大きな狸のぬいぐるみがある台へ向かった。

 お金を入れてアームを動かしぬいぐるみを掴むと上に持ち上げたがすぐに落としてしまう。

 簡単には取れないかと思ったがさっきより落とし口に近づいている。

 もしかしてと思いもう一度掴むと上まで持ち上げた瞬間アームの力が弱まったのかぬいぐるみが落ちる。だが弾んで落とし口に近づいている。これはもう取れるかもしれない。

 再びお金を入れて同じようにやるとぬいぐるみが落ちて弾み落とし口に落ちた。

 景品を手に取り柚月の所へ戻るとちょうど柚月も景品をゲットした瞬間だった。


「お、フィギュアゲットしたんだな」

「やっとゲットできたよ――ってそのぬいぐるみ何!?」

「やったら簡単に取れたんだよ」

「可愛い~」

「欲しければやるよ?」

「いいの!? ありがとーっ」


 柚月は大きな狸のぬいぐるみを受け取るとぎゅっと抱き着いた。


「もふもふしてて気持ちいい~。ありがとうね」

「お、おぉ。そんじゃ景品も取れたし帰るか」

「うんっ」


 俺達はゲームセンターを出て駅へ向かった。

 その道中柚月は嬉しそうにずっとぬいぐるみを抱っこしていた。

 よっぽど気に入ったらしく後日遊びに行ったときベッドの上に置かれていて毎晩一緒に寝ているらしい。

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