第3話 《鑑賞会》

大型連休GWゴールデンウィークがいよいよ始まった。もちろん休みの間は溜まっているアニメや漫画を消費する予定だった。しかし俺は柚月の家でアニメ鑑賞会をするため訪れていた。

 柚月がまだ男だった時、アニメ映画が動画配信サービスで無料公開されるからGWに夜通し見ようと話していたことを思い出した。

 柚月も色々ありすぎてすっかり忘れていたみたいだ。


「今日はこれとこのアニメ映画見ようかなって。奏汰は何観たい?」

「俺はこの実写映画が気になるな。てか家族の迷惑にはならないのか? このスピーカーそこそこ響くし」

「大丈夫だよ。両親は親戚の結婚式に行ってるから。だから夕飯買いに行かないと」

「だったら映画見ながら食べるお菓子も買おうぜ」

「いいね!」

「それじゃ先に買い出し行くか」

「うん」


 俺達は買い出しのため徒歩で近くのスーパーへ向かった。

 このスーパーはこの辺りだと一番広くお菓子が充実している為、たまに柚月と共に来ている。


「夕飯何にしようかな? 奏汰は何か食べたいのある?」

「ん~、あっ、カレー食べたい。出来れば中辛で」

「わかった。僕はカレーの食材取ってくるから奏汰はお菓子選びお願いね」

「OK」


 店内に入ると俺はお菓子売り場へ向かい柚月は生鮮食品コーナーへ向かった。

 映画を見ながらのお菓子選びはなかなか難しい。

 なるべく咀嚼音そしゃくおんが出ない物を選ばなければいけない。

 さらにそれに合った飲み物もチョイスしなければ……。

 俺がお菓子選びに悩んでいると野菜などをかごに入れた柚月がお菓子を持ってきた。


「そこで本日限りの特売やっててこれなんてどう?」


 手に持っていたのはチョコパイだった。

 これならスナック菓子のような咀嚼音は出ない。ナイスだ。


「この類の物と後はそれに合った飲み物だな」

「ミルクティーとかカフェオレどうかな?」

「お菓子が甘い系だから甘さ控えめのカフェオレにするか」

「OK」


 今思えばこうして女の子と一緒に買い物なんて人生初だ。

 夕飯の食材、お菓子、飲み物を買った俺達はスーパーを出て柚月の家へ向かった。


「結構買ったな。袋重いわ」

「ほとんど飲み物だからね。僕も半分持とうか?」

「いや、これくらい大丈夫だって。てかお前が持つと地面に落としそうだし」

「もーっ、そんな非力じゃないよ~」 


 柚月の家に着いた俺達は夕飯までの間は今ハマっているゲームをやった。

 ゲームをやると時間の進みがものすごく早く感じる。

 気が付けば日も沈み17時を知らせるチャイムが街に鳴り響いていた。


「あ、もうこんな時間だ。僕、夕飯作ってくるね」

「何か手伝おうか?」

「大丈夫。奏汰は先にお風呂入ってていいよ」

「そうか? それじゃぁお言葉に甘えて」

「脱衣所に入浴剤あるから入れてね」

「はいよー」


 風呂場に着いた俺は用意されていた固形の入浴剤を湯船に入れた。

 普段家では入浴剤なんていれないからすごく新鮮だ。

 入浴剤が溶け切った湯船に浸かった。


「(良い匂い。なんだか落ち着くな)」


 ボーっと湯船に浸かっているとつい長風呂になってしまった。 

 風呂から出ると今度はカレーの匂いがしてきた。

 気になった俺は1階にある台所へ入るとちょうど柚月がお皿にカレーを盛っていた。


「すげぇ美味そう。柚月って料理出来たっけ?」

「最近お母さんに教わってるから。これ奏汰の分ね」

「おぉ、サンキュー」


 俺はカレーを盛ったお皿を持ち食卓に運び柚月と共に席に座った。

 柚月も自分の分を運び対面に座った。


「それじゃいただきます」

「召し上がれ~」


 俺は一口、二口とカレーを口に運んだ。

 口に広がるスパイスの香り。その後に来る辛さ。最高だ。

 柚月はその様子を少し心配そうに見ていた。


「どうかな?」

「うん、美味い!」

「よかったぁ~」


 柚月はホッとした表情を浮かべた後、嬉しそうにカレーを食べ始めた。

 食事を終えた俺達は部屋に戻りゲームの続きをした。


「お、レア素材ゲット。これで防具一式揃ったわ」

「おめでとー。僕もようやく武器作れたよ」

「これでもっと上のランク行けるな」

「次のランク上げクエスト行く?」

「ゲームはこれくらいにしてそろそろアニメ見始めるか」

「それじゃぁ僕ちょっとお風呂入ってくるね」

「おぉ、分かった」


 柚月は風呂に入りに行った。その間俺はスマホでウェブ漫画を見て待った。

 しかしなんなんだろうこの気持ちは……。

 ただ柚月の風呂上りを待っているだけなのになんだか妙にドキドキする。

 漫画の主人公もこんな気持ちだったのだろうか?

 しばらくすると柚月が戻ってきた。その手にはお菓子と飲み物を持っていた。


「ただいま~。お菓子と飲み物持ってきたよ」

「おぉ。ありが――」


 その瞬間部屋になんだかいい匂いが漂ってきた。

 シャンプーの香り? にしては甘すぎる感じだ。

 女の子のシャンプーってこんな良い匂いがするものなのだろうか?


「奏汰どうしたの?」

「あ、いやなんでも。早く映画観ようぜ」

「それじゃぁまずはこれから観よう」


 柚月は俺の隣に座り一緒に映画を見始めた。

 評判通り確かに作画や背景が細かい。さすがあの監督の作品だ。

 隣をチラッと見ると柚月は凄く真剣に映画を見ている。

 女の子と二人きりで映画観るなんてリア充のすることだ。

 意識するとなんだか緊張してきた。でも女の子といっても柚月は元男だ。しかし今はだれがどう見ても女の子。

 今は映画鑑賞に集中しなければ。

 俺は今までにないくらい真剣に映画を見入った。

 そして2時間ほどで映画が終わった。


「感動系の映画だったな」

「うん……」

「珍しくアニメで泣いてるじゃん。やっぱり良かったか?」

「なんだかこの身体になってから涙脆なみだもろくなった気がする……」


 そう言った柚月は目に涙を浮かべていた。

 今までの柚月ならこれくらいは全然耐えることが出来たはず。

 やっぱり見た目以外に心まで女の子になってきているみたいだ。

 その後俺達は連続でアニメ映画を観続けた。

 しばらく観ていると柚月は眠いのか時折頭がコクリコクリとしている。

 時計を見るといつの間にか午前1時を超えていた。

 これは眠くなるのも仕方ない。

 無理に起こすのも悪いと思った俺はテーブルに置いてあったリモコンを使い映画を中断した瞬間柚月が俺にもたれ掛かった。

 動こうにも動けない。しかもサラサラの髪から先ほどの甘いシャンプーの香りがする。

 なんだか急にドキドキしてきた。

 どうすればいいんだ……。

 起こそうか考えていると柚月が目を覚ました。

 

「んっ……あれ? 僕寝ちゃってた?」

「あぁ、少しな。眠いならまた明日にしよう」

「そうする~。奏汰、おんぶしてぇ~」

「ったくしかたねぇな」


 柚月は眠い目を擦りながら起き上がると俺の背中に寄り掛かった。

 その瞬間俺の背中に何やら柔らかい感触がした。これはまさか……おっp――。

 いやいや、柚月をそんな目で見ちゃダメだ。

 煩悩を抑え、柚月をベッドに寝かせた俺は毛布に包まり横になった。

 すぐ横では柚月は爆睡しているが俺は寝るに寝れなかった。

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