夏は孤独と捜し物
憂太
第1話 愛
7月16日(水)
「ねぇ、知ってる?ここら辺の都市伝説なんだけど、神社で蒼華草を手に持ってお参りすると、何処かに消えちゃうらしいよ、もし戻って来れても2日で死んじゃうってさ」
「え〜怖いね、ウチらで放課後やってみる?」
「嫌だよ〜私まだ死にたくないし」
キーンコーンカーンコーン
目が覚めた。何故か僕は泣いていた。身体が ずんと重い。誰かが背中に乗っているかのよう。
何をしてたのか思い出せない。
放課後、正面玄関を出ると、全てを溶かしそうな熱気と耳をつんざく様な蝉の鳴き声がした。
「暑い…」
溢すように言った。
自転車に乗り、走らせる。丈夫な脚がペダルを小気味よく回す。
喉が渇いた。休憩がてら近くの公園で水を買い、2口飲んで蓋をした。振り向くと、
「え。蒼一郎じゃん」
聞き覚えのある声が聞こえた。
声がする方に目を向けると、無邪気な笑顔でこっちに走ってくる夏乃愛の姿が見えた。
「なんでここにおるん?」
夏乃愛は目を大きくして質問してくる。
「帰ってる途中喉乾いたから水買ってた」
「そうなんだ。私も喉乾いたかも」
「いる?」
僕が手に持ってた水を差し出す。
「いらんし!なんで蒼一郎が口付けた水飲まんといけんのん」
夏乃愛は少し懐かしそうに笑いながら言った。
「確かにね、そこに自販機あるから買えば?」
「元気だった?」
「え?うん。普通かな」
何故そんなことを聞いてくるのか。僕は目を凝らして夏乃愛の目を見た。
「今日学校休んでたけど夏乃愛こそ元気なん?」
「少し体調崩してただけやし」
僕のことを心配する立場じゃないのに、何故聞いたのか気になった。
「別に意味はないよ。最近、蒼一郎に会えてなかったから気になっただけやし」
夏乃愛とは幼馴染で同じ高校に入学した。同じクラスになった。
今日、会った時からずっと夏乃愛は右手にシワシワに枯れた花を持っていた。
「なんで右手に枯れた花持ってるん?」
夏乃愛は慌てた様子で枯れた花を後ろに隠した。僕の質問には答えてくれなかった。
「花って、綺麗だよね」
夏乃愛は近くにある花壇に指を指す。花壇には、蒼華草が複数植えてあった。楽しそうに風に乗って揺れていた。
「確かに綺麗やけど、どうしたん?急に」
「いや。なんでもない、あ。ごめん行かんといけん所があるから行くね」
公園の時計は午後5:30を指していた。夏乃愛は急いで公園を出て行った。
7月17日(木)
学校まで自転車を漕ぐ。まだ少し眠い空気をまとっている。今日は天気予報では曇りのうち雨だった。昨日行った公園の前を通ると花壇に植えてあった蒼華草は寂しそうに僕を見ていた。
昼休み。僕は図書室に行き、興味が湧く本を探していた。図書室は僕1人しか居なかった。微かに聞こえる雨音は孤独を深める。
何冊か見ている中、気になる本を1冊見つけた。『身近な都市伝説』というタイトルだった。
本を開いて見ると、『口裂け女』や『トイレの花子さん』など有名な都市伝説が載っていた。パラパラとページを捲ってると1ページ気になる都市伝説があった。
『蒼華草を持ってお参りすると消える』
見てみると「蒼華草という青色の花を持って神社でお参りをすると消えてしまう。体験した人は居ない。何故なら戻って来れたとしても2日で死んでしまう。」
詳細を見てみると、
「その場で消えてしまうだけで、過去に戻るとも言われている。戻れる過去には制限がある」と書かれていた。
僕は面白いと思ったが信じてはいなかった。本をそっと閉じ、元の場所に戻した。
放課後、雨に濡れながら自転車を漕いだ。
7月18日(金)
夏乃愛が行方不明になった。
それを聞いたのは夜だった。夏乃愛とは幼馴染で親同士も仲が良く。今日の朝はちゃんと学校に行ってそれから家に帰ってないらしい。連絡もつかないとのこと。
僕の中から何かが無くなった気がした。
7月19日(土)
昨日はほとんど寝れなかった。体調が悪い。食欲も湧かない。頭の芯がチリチリするような不安と恐怖が押し寄せてくる。あんなにうるさかった蝉の鳴き声は今日は聞こえない。何も聞こえない。部屋の沈黙がさらに僕に孤独を感じさせた。
昼過ぎ。夏乃愛のお母さんから、夏乃愛が書いていた日記を貰った。貰った時は意味が分からなかった。何故僕に渡したのか?。日記を開いてみると。
『6月23日(金)今日から日記を書こうと思う。毎日続くかは分からないけど、やってみる。』
『6月24日(土)今日は友達と遊んだ。中学の友達と久々に遊んだからとても楽しかった。』
所々日にちが抜けているページもあったが、ちゃんと書いていた。字が汚いのは相変わらず変わってなかった。パラパラとページを捲っていると、
『7月15日(火)蒼一郎が死んだ。飛び降り自殺をした人の下敷きになったらしい。』
意味がわからない。僕は生きている。頭がおかしくなったと思った。 次のページを見ると、
『7月16日(水)今日の昼、蒼華草を持ってお参りしようと思う。本を見た時、「過去に戻れるとも言われてる」って書いてあったし私が15日に戻って蒼一郎を助けたら、蒼一郎は今日になっても生きてるんだよね。信じてないけどやってみる。』
本当に何を言ってるのだろうか。あの都市伝説をやったのか?僕も過去に戻って夏乃愛を助けたら今日になっても夏乃愛はいるのか。
僕は前に夏乃愛と会った公園に行って花壇に植えてある蒼華草を1本抜いた。神社まで自転車を走らせた。
神社に着いた。
蒼華草を右手に持ってお参りをしてみた。
ミーンミンミンミン… 蝉の鳴き声が響いた。
特に変わった様子はなかった。
スマホを見てみると。
7月18日(金)午後5:30だった。
夏乃愛が行方不明になった後の時間だった。
僕は膝から崩れ落ちた。
右手で持ってた蒼華草は、
シワシワに枯れていた。
僕は思い出した。
『目が覚めた。何故か僕は泣いていた。身体が ずんと重い。誰かが背中に乗っているかのよう。』
この感覚を。
でも後2日経てば、また会えるよね。
夏は孤独と捜し物 憂太 @maechuu
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