第2話
エリンの声が暖かい家の中に響き、私、サー・ガレンはその柔らかな呼びかけに顔を上げた。
「ガレン、今日は一緒に星を見よう」
彼女の瞳には期待と優しさが宿っていて、その一言だけで私の老いた心は再び温かさに包まれる。長い旅路を共に終えた今、こんなささやかな提案がどれほど尊いものか、私は誰よりもよく知っている。
「エリン、もちろんだよ」
と私は答える。声は少し掠れているかもしれないが、そこには隠しきれない喜びが滲んでいる。
彼女は小さく微笑んで、私の手をそっと引く。その細い指が私のごつごつした手に触れるたび、かつて剣を握り続けたこの手が、今は別の目的のためにあるのだと実感する。彼女を守り、寄り添い、共に生きるために。
私たちは暖炉の火を背に、家を出て夜の庭へ向かう。冷たい風が頬を撫でるが、エリンの隣にいるとそれすら心地よい。彼女が持ってきた毛布を二人で肩にかけ、空を見上げる。
星々が瞬き、まるで長い旅路で私を導いてくれた光が、今もそこにあるかのようだ。旅の途中、孤独な夜にこの同じ星々を見上げては、エリンを想った。あの頃は彼女に会える日が来るのかさえ分からなかった。だが今、彼女はここにいる。私のすぐそばに。
「ガレン、あの星、覚えてる?」
エリンが指差す先には、ひときわ明るく輝く星がある。私は頷く。
「ああ、あれは私が旅の果てに君を見つけた夜に見た星だ。まるで祝福するように輝いていたよ」
彼女はくすりと笑い、私の肩に頭を預ける。
繰り返される人生の中で、エリンを探し続けた日々。どれだけの距離を歩み、どれだけの絶望を乗り越えたか。だが、今こうして彼女と星を見上げていると、全てが報われたのだと分かる。
この瞬間が、私の旅の終着点であり、新たな始まりなのだ。
「エリン、君とこうしていると、長い旅も悪くなかったと思えるよ」
と私は呟く。彼女は私の手を握りしめ、静かに答える。
「これからもずっと、一緒に星を見ようね」
その約束に、私はただ頷くことしかできない。老騎士としての誇りも、剣の重さも、今は遠くに感じられる。ここにはただ、エリンと私と、果てしない星空があるだけだ。
夜風がそっと二人を包み込む中、私は心から思う。この暖かい家で、エリンと過ごす日々が、私にとっての真の幸せだ。星々がそれを祝福するように輝き続けている。
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