ガレンとエリンの物語・終わりの時
ぶいさん
第1話
私はサー・ガレン、かつては剣を手に戦場を駆け抜けた老騎士だ。
だが、その長い旅路は終わりを迎え、今、私はエリンと共に暖かい家でのんびりと暮らしている。もう繰り返される人生の呪縛はない。私たちの時間は穏やかに、静かに流れていく。
この家は、長い旅の中で私が夢見た場所だ。木の香りが漂う壁、暖炉の火がパチパチと音を立てる居間、窓から差し込む柔らかな光。エリンが庭で花に水をやりながら小さく歌を口ずさむ声が聞こえてくる。私は古びた椅子に腰を下ろし、その姿を眺める。
かつては血と汗にまみれた手で剣を握っていたが、今はただ、彼女が摘んだ花を差し出してくれるのを待つだけだ。
朝はゆっくりと始まる。エリンが淹れてくれる温かいお茶を手に、私は窓辺に立つ。外では風が木々を揺らし、遠くの丘には羊がのんびりと草を食んでいるのが見える。
戦いの喧騒も、果てしない旅の疲労も、ここには届かない。私はもう鎧を脱ぎ、剣を壁に掛けた。老いた体は時折軋むが、心はかつてないほど軽い。
昼下がりには、エリンと一緒に小さな台所に立つ。彼女が笑いながら教える料理は、私の不器用な手には難しいが、それでも彼女のそばで過ごす時間が愛おしい。焼きたてのパンの香りが家中に広がり、二人で食卓を囲む。彼女の瞳に映る穏やかな光を見ていると、これが幸せなのだと実感する。
長い旅路で追い求めたものは、実はこんな小さな瞬間にあったのかもしれない。
夜になると、暖炉の前に座り、エリンが私の肩にもたれかかる。火の揺らめきが彼女の顔を照らし、私は静かに彼女の髪を撫でる。
かつての私は、敵を倒し、名誉を守ることに命を懸けた騎士だった。だが今、私にとっての戦いは終わり、守るべきものはこの家と彼女だけだ。星空の下で眠りに落ちる前、私はそっと誓う。
エリン、この平穏な日々を、君とずっと過ごしたいと。
サー・ガレンの旅は確かに終わりを迎えた。だが、新しい物語がここで始まっている。剣を手に持つ代わりに、エリンの手を握り、戦場を駆ける代わりに、彼女と庭を歩く。老騎士としての誇りは色褪せないが、今はただ、彼女と共に生きる男としての喜びに満ちている。
この暖かい家で、私はようやく休息を得たのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます