死神の輪舞
@Takano_N
魂の輝き
第1話 死神との出会い
夜の闇に黒い二つの影が浮かぶ。
「あれか。俺様の次の魂は。楽しみだなぁ。どんな輝きを見せてくれるかなぁ。」
待ちきれないといったように、恍惚とした表情を見せている。
もうひとつの影は、どうでもよいという表情で、
「今回はお前の査定につながる魂た。速やかな対応を期待している。」
と淡々と告げた後、暗闇に消えた。
残された影は対象者を見つめながら、「もう少しで会えるね。」と微笑んだ。
私、松本由美はベッドにもたれながら悩んでいた。
どうしてこうなんだろう。人の顔色ばかり窺って、自分の意見を言えない。
さっきまで過ごしていた居酒屋でのことを思い出す。
今日は職場の先輩の送別会だった。
飲み会は得意ではないがお世話になった先輩だったので参加した。
そこで私はほとんど話すこともできず、お世話になった先輩にも自分から声をかけることができなかった。
いつからだろうか、こんな風に自分を押し殺すようになったのは。
小学生の頃はクラス委員をするような、明るく活発な子供だった。
しかし、受験した先の中学校でクラスに上手くなじめず独りになった。
2年生のころには、密かに想いを寄せる相手ができたが、そのことでクラスの女子にからかわれ、それ以降傷つくのが怖くて自分を押し殺すようになった。
「私も彼女のように明るく過ごせたら人生楽しいだろうな…」
私は同じ会社の後輩である咲坂香菜のことを思い返していた。
職場ではいつも笑顔で明るく誰とでも話すことができる後輩。
時々仕事でミスをすることがあるが、持ち前の明るさで先輩や上司からも好かれており、怒られているところは見たことがない。
今日の飲み会の時も、私が先輩に声をかけれずにいたところを助けてくれた。
「彼女はすごいなぁ。きっと人生楽しいんだろうなぁ。」
彼女と自分を比べ、暗い気持ちになる。
こんな生き方、なにも楽しくない…。
そんな思いを抱えながら、私はいつのまにか眠りについた。
ふと気配がして目をあけると、ゾッとするほどキレイな顔があった。
驚き息をのんでいる私をよそに、
「な~にしてんの?」と話しかけてくる。
私は急いで体を起こし、彼を観察した。
黒いスーツに黒いネクタイ、そして黒い帽子から除く金色の目。
少年のような姿形をしているが、彼の雰囲気はどう見ても人間じゃない。
「何してんの?って聞いてるんだけど!」
彼がまた話しかけてきた。
腰に手を当てて少し怒ったように聞いてくる姿は小学男児を思い出させた。
「ど、どちらさまですか?」
渇いた口から、恐る恐る尋ねてみる。
「ん?俺様はお前さんの魂を回収しに来た者で~す!」
魂?何を言っているんだこの生き物は。
頭の整理が追い付いていない私を無視して、彼は話しかけてくる。
「だから、魂!お前さんの魂を回収して持って帰る役目でここに来てるんだよ!」
「魂って、…あなたは死神ってことですか?」
私はガンガンと鳴り響く強烈な頭痛に耐えながら尋ねた。
「あぁ、確かにお前さんたちの世界ではそういう呼ばれ方をするな。」
私は眩暈を覚えた。
死神ということは、私はこれから死ぬのか。
確かに私は彼氏も友人もおらず、孤独な日々を送っている。
おまけに自分自身の性格に心底うんざりしている。
しかしまだ28歳だ。
これからやりたいことだってある。
いや、やりたいことってなんだろう。
両親には申し訳ないけれど、こんな日々を送るぐらいならいっそのこと魂を回収してもらった方がいいのではないだろうか。
そんなことを頭痛に耐えながら考えていると、
「大丈夫?そろそろ良い?」と死神が聞いてきた。
まぁいいか。ここで死んでしまおう。
「いいよ」と言いかけた時、部屋に飾ってあるポスターが目に飛び込んできた。
私が好きなアイドルグループの伊勢谷ユウくんのポスターだ。
だめだ‥‥。3か月後にユウくんのコンサートがある。
私は彼の大ファンだった。誰にも言ったことはないが、応援をしていた。
コンサートには行きたい。やっとの思いで手に入れたチケットだ。
まだ、死ねない。
私は力を振り絞って彼に言った。
「良くない。私は彼に会うまで死ねないんだ。」
私はポスターを指さしたながら精いっぱい死神を睨んだ。
「こいつ?こいつはなんなんだ?」
「彼は私の推しなの。推しに会うまでは私は死ねない。」
「推し?推しってなんだ?」
私は、推しとは、かけがえのない存在であり、生きる希望であることを説明した。
そして彼の魅力もたっぷりと聞かせた。
「ふ~ん。」
死神は何か考える様子をしていた。
私は呼吸を整え、彼から逃れる方法を鈍い頭で必死に考えた。
「なんか、楽しそうだな。俺様は楽しいことが大好きなんだ。人間界って楽しいことだらけだろう?」
と死神はきれいな目を一層キラキラさせて言った。
「そうだよ。楽しいことが多いの。楽しいことをたくさん教えてあげる。だから、お願い。」
私は懇願した。
すると彼はまた考え始め、ぶつぶつ独り言を言ったかと思えば、
「よし。わかった。楽しいことをたくさん教えてくれ、約束だ。」
と言って、にこりと笑った。
「しかし、なんかこの部屋に臭うし、汚いぞ」
彼は部屋をぐるりと見渡した。
私も彼と同じように部屋を見渡す。
机の上にはコップと常備薬、適当に放り投げたカバンとジャケット。
そしてすぐ横には私から出たと思われる吐しゃ物があった。
臭いの原因はこれか。よく見ると今着ている服も汚れている。
飲みすぎた…。
私は黙って部屋を掃除した。
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