第1話 完璧な幼少期?
いつからここにいるのだろう。
暗闇の中、ドクンドクン規則的で心地よい音が聴こえる。
やがて目の前が真っ白に染まる。
私がそれを光と認識するまでそれほど時間はかからなかった。
はて?私の視力はこんなにも悪かっただろうか?
ぼんやりと人の様な輪郭を捉える。されど、その顔はぼやけて見えない。
不意に私の身体が浮遊し、若干の恐怖を覚えた。
しかしすぐに降ろされ、その傍らからはドクンドクンと何時までも聞いていたあの音が耳に入る。
あぁ、私は転生したのだ。
私がそれを認識するのは大分先のことであった。
☆
私はルノア・マナリード、5歳だ。そして前世の記憶がある。
・・・唐突だが、私はたった今から5歳以前の記憶を封印しようと思う。
私がハイハイをしたり、たどたどしい言葉遣いだったり、絵本を読んでもらったりした事実はなかったのだ!
身体が幼児で、全く知らない言語だったから仕方ないと言っても中身30越えた大人にはとんだ羞恥プレイである。
もう思い出したくはないのだ。
あの無力であった日々を。
今は努力して手に入れた大人と同程度の言語能力。そして5歳児にしては高い身体能力。この2つを得た事実さえあれば良い。
ところで私は現在、馬車に乗っている。それは公爵令嬢ソフィア・カルナード(3歳)に会うためである。
カルナード公爵家とマナリード伯爵家は本家と分家の関係である。
そしてカルナード公爵家に子供が生まれると数多くある分家の中から歳が近く同性の者を使用人につける。
それは殺伐とした貴族社会の中、公爵家の子供に同年代の友を作る機会を与えるとともに、本家と分家の関係を良好にするためのものでもある。
ここまで言えば分かると思うが、私はその使用人に抜擢されたのだ。
そして今回がソフィアお嬢様との初対面である。
人生を決められてしまったと嘆くべきかもしれない。
子供のお守りなんてうんざりだと吐き捨ててしまえば良いのかもしれない。
けれど、
私は使用人になることを拒否して何になりたいのだろうか?
私は全てを完璧に行えるほどの才能はない。それは前世ではっきりした。
では何になる?何に特化する?
使用人でいいじゃないか
────いや、使用人がいいんだ!
そう思ったんだ。私は完璧な
そしてその想いはソフィアお嬢様との対面によってより深まることになる。
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