第10話:次の歴史へ

往国歴145年頃より、世界的なルールが策定されたことにより、急速に世界は再復興し始めた。

しかしながら、コレクトとサモンズの分断を認めた取り決めは、世界を大きく分断するきっかけとなる。


かつてのクルツ共和国が存在していた西方大陸の西端エリアには、約80年弱の月日を費やし、サモンズ達の小国が乱立し離合集散を繰り返しながら、やがてサモンズ達の連邦国家を形成するに至った。往国歴66年、熊の獣人族出身である元軍人であったソブラニー・ギャラハーを直接選挙の末に選出し、コレクトを国内から完全に追放し人種ごとの政治集団を取りまとめた連邦国家である『サモンズ連邦共和国Sammons Racial United Republic(S.R.U.R=通称スラル)』を成立させた。2245年現在、サモンズ至上主義が進みコレクトを敵視してはいるが往国歴時代から存続する唯一の大国である。


その後、スラルの東側の広大なエリアを南北に分けて2つの大国が創設された。


北側にはコレクト至上主義のシャハザート全体主義国Shahzad totalitarian stateが建国され南側にはコレクトとサモンズの穏健派たちが混血となり双方の子孫たちが立ち上げたリオヨーラ臨時政府Provisional Government of Rioyolaが設立された。

しかし、スラルと違い政情不安により政権の崩壊と再建を繰り返し、邦歴10年頃には北側にコレクト至上主義が変質した、純血種のコレクトを神聖な存在として崇めるオーザリク神聖国Holy Kingdom of Ozarikが政教一致の宗教国家として建国されるに至る。


南側は邦歴元年頃から約300年おきにクーデターであったり選挙であったりと様々な手段で政治と国家の体制が変わっていたが、2100年頃に混血種達で建国したリベラル派のユールハイド民主国Democratic Republic of Yulhydeが建国され、スラルと合わせた3国が西方大陸の三強国家となり、現在まで存続する。


東方大陸は国家の建国と崩壊を繰り返し往国歴150年頃から東西2つに分割され、145年の平和協定締結時に比較的平和であった西の大国であるベゼルフィン帝国Bezelfin Empireが先の協定締結における舞台となった。その後帝国は支配者を様々に変えながら邦歴元年に初代皇帝アベル・メルセリアのクーデターによる建国でメルセリア帝国Merseria Empireと名前を変え専制君主制のメルセリア王朝として現在まで存続している。初代から数えて現在は193代目のウォルター・メルセリアが今上皇帝の地位にある。


大陸東側はユールハイドと同じく大国が生み出されながらも政情不安により王制王朝であったり立憲王政であったりと様々な政治体制が入れ替わる事となったが、邦歴元年とされる年に軍事クーデターによる世襲の統一主義国であるレンヘーベン統一主義共和国Lenhaven Unificationist Republicが建国され、初代総統のベルモア・レンヘーベン以降世襲による政権を邦歴2000年頃まで維持していた。


しかし、直系のレンヘーベン一族の血脈が絶えた事で一族間での後継者争いが勃発、約200年間の混乱と緩やかな衰退を経て邦歴2200年に初代ベルモアの血を引くと主張した女性総督エレノア・フリージアにより再度統一国家が建国されるに至り、フリージア統一国United Frisiaが立ち上がり現在まで至る。

なおエレノアは2245年現在も存命であり、現在85歳にして国家主席の地位にある。

だが彼女の出自の正当性は疑問視され、反エレノア派は未だ国内にくすぶっている。

彼女の2人の息子が次期政権トップを狙って反目しあっていることもあり、大国でありながら真の政情安定を果たしたとはいいがたい状況である。


そして、東西の大陸に挟まれた海洋に点在する島嶼小国家群の連合体に端を発し、現在は東西大陸の海路を押さえる地理的条件から、交易面で有利な地位にありながら両大陸の圧力も同時に受けるのが『エルフィン南方海洋同盟国Elfin Southern Maritime Alliance』・・・

「つまり我々の国だ。」

ひときわ重厚なカメリアの声が響き、過去への時間旅行から三人の意識は引き戻された。


「邦歴元年は本来条約や法律で明確に定められているわけではないが、往国歴との区別の為にメルセリアとレンヘーベンと言う当時の東側大陸二大国家が建国された年が、世界的に新しい秩序が構築され始めたと言う世界共通の認識から邦歴元年と定める事となったのはテキストに書いてある通りだ。」


「この六ヶ国についてはスラル以外は邦歴に入ってから建国されており、我が国も例外ではない。我が国については邦歴2000年頃まで島嶼国家群が点在している状況ではあったが、他の5大国の圧力により交易利権が圧迫され始めるに至り、次第に寄り添うようになっていった。・・・その後はどうなった?イジット候補生」


「はい、緩い協力関係であった島嶼国家群は、統一国家の必要性から次第に連合国家としての色合いを強め、邦歴2050年に現在のわが国の成立を宣言し五大国に加えて我々が加わり世界六大国として現在の世界を構築しております。」


「よろしい、その通りだ。」

カメリアがうなずく。


「さて、本日はここまでとする。本来であれば邦歴をもう少し詳しくやりたかったが往国歴に熱が入ってしまった。二時間休憩なしと言うわけにもいかぬ。後20分ほど時間は残っているが、残りの時間は自習とするのでしっかり復習するように。視察の三名もご苦労だった。これにて終了とする。」


弛緩した空気が流れ始め、学生同士の軽い雑談を交えながら自習時間が始まった。

ラーク達も軽く伸びをして、講堂を退室する準備に取り掛かった。

その時、講堂に教官の一人が入室して来た。退役大尉の階級章を付けた、校内の用務員や雑用係を務める老齢の人物である。シルバー人材の活用として高齢の退役軍人を校内の雑用係として教官扱いで雇用しているのだ。


「ルース退役大尉であります、校長閣下が急ぎお呼びですので校長室までお越しくださいませ。皆様方をお呼びです。」

三人へ敬礼するその手は衰えを感じさせない。

ラークが答礼し、承知した旨を伝え三人は校長室へと歩き出した。


この後、三人は多難な前途を知ることになる・・・

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