「鶴の恩返し」をハッピーエンドにしてみた
菊池ゆらぎ
第1話
与平は、ある日罠にかかって苦しんでいた一羽の鶴を助けました。
後日、与平の家を「女房にしてくれ」と一人の女性ツルが訪ねてきました。
夫婦として暮らし始めたある日、ツルは「織っている間は部屋を覗かないでほしい」と約束をして、素敵な織物を与平に作って見せたのです。
その織物は高値で売れました。
ある日、与平の8歳上の姉がぶらりと訪ねてきました。彼女は商家に嫁いでいましたが、ツルの様子に驚きました。眩しいまでの美しさ。かいがいしく食事を出してくれ、しかも織物もするというのです。
「どちらからおいでなすったんですか?」と聞きましたがツルは答えません。姉は、
「私たちは幼くして母親を亡くし、私は与平の母親代わりになってきたんです。知る権利はあるでしょう?」
「…」
「織物を織るそうな。では、織っているところを拝見させてもらいましょうか」
「仕事中は誰にも見られたくないんだよ」
与平は口をはさみました。
「あんたは黙ってなさい!」
「では、昨日織った織物をお見せします」
ツルは奥から織物を持って来ました。姉はその白くまばゆい織物に圧倒されました。
「じゃあ、機織りをして見せておくれ。私だって織物は得意なんだから」
与平はまた強い口調で、「見せられないって言ってるだろ!でも納屋からパタンパタンと機織りの音が聞こえてきたんだよ」
姉も負けていません。
「秘密にしてるなんて怪しいじゃないか!
実はどこから盗んで来たけど、自分が織ってる振りをしてるとか?」
「姉さん、なんてことを言うんだ!盗っ人呼ばわりはやめてくれ!」
とうとうツルは観念し、涙ながらに
「私は助けられた鶴なんです。織物には自分の抜いた羽根を沢山織り込んでいます」
「ええっ!鶴?」
2人はとても信じられないとツルを見ました。
ツルは、
「…正体を知られたからにはここにはいられません」
と、泣きじゃくり立ち上がりました。
「おい、待ってくれ!ここにいてくれ!」と与平はツルの腕を掴み哀願しました。
「お前なしでは暮らせないんだ。お願いだ、必ず幸せにする」
姉は事の成り行きに呆然としました。…2人は愛し合っている。なんとかしてやりたい。
しかし、与平の畑仕事のお金では2人で暮らしていくのは大変…ツルはこれ以上身を削って織物を織るわけにもいかない。
3人で話合いました。
「いい考えがあるわ!」と姉がポンと手を打ちました。そしてツルと2人で機織りのある納屋へ。
「覗いてはいけません」と姉に言われ、1人悶々と待つ与平。そして、ツルは姉と織物を抱えて持って来ました。
「これは?すごく綺麗だ!」
紺の織地に所々に白い模様がキラキラと、まるで風花のように入っています。
「少しだけ羽根を入れたの」と、ツル。これなら身体の負担も少なくて済むというものでした。
さらに姉が時々手伝いに来てくれることになりました。
その織物は爆発的に売れ、2人は末永く幸せに暮らしました。
(終わり)
「鶴の恩返し」をハッピーエンドにしてみた 菊池ゆらぎ @kiku2134max
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