第25話
私の名はサー・ガレン。
幾多の戦場を渡り歩き、剣を手に血と汗にまみれた五十歳の騎士だ。
私の体は傷だらけで、かつての輝きは遠い記憶と化している。
それでもなお、私は立ち続ける。何故なら、私の心には消えぬ炎が灯っているからだ。その炎の名はエリン。
彼女は私にとって、命そのものよりも尊い存在だ。
何度、生を繰り返したことだろう。何度も何度も、時の輪の中で彼女と出会い、そして別れを繰り返した。
ある人生では、剣と魔法が響き合う世界で、彼女は私の妻となり、私の隣で微笑んでいた。彼女の小さな手が私の荒々しい指に触れ、その温もりが私の心を癒した。別の未来では、機械と光が支配する世界で、彼女は再び私の伴侶となり、私と共に新たな戦いに挑んだ。
しかし、どんな世界であれ、どんな時代であれ、結末はいつも同じだった。彼女は私の腕の中で息を引き取り、私はただ絶望の淵に取り残される。
エリン。彼女は私にとって全てだった。彼女の笑顔は、私が戦い続ける理由だった。
彼女の声は、私の魂を奮い立たせる旋律だった。十歳の少女だった彼女と初めて出会ったあの村。あの瞬間から、私の運命は彼女と結びついてしまった。重傷を負い、死の淵を彷徨っていた私を、彼女はまだ未熟な魔法で救ってくれた。その小さな手が私の額に触れた時、私は初めて「生きる意味」を感じたのだ。彼女は私に懐き、私を「ガレン」と呼び、私を頼ってくれた。私は彼女を守ると誓った。だが、何度誓いを立てても、彼女を救うことはできなかった。
繰り返される生の中で、私は絶望に沈んだ。何のために戦うのか。何のために生きるのか。
答えが見つからぬまま、私はエリンと同じ名を持つ大魔法使いにすがった。彼女は私の願いを聞き入れ、膨大な魔力を以て私を「始まりの地」へと送った。あの村だ。
エリンがまだ魔法を知らず、ただの孤児として生きていた場所。あの純粋で無垢な彼女に、再び出会うために。
今、私はここに立っている。村の入り口で、風に揺れる彼女の小さな姿を見つけた。まだ魔法を手にしていない、ただの少女。私の心は震えた。彼女は私を知らない。この世界の彼女にとって、私はただの通りすがりの騎士だ。それでも、私の胸は熱くなる。彼女の瞳を見た瞬間、幾多の人生を共に過ごした記憶が蘇る。彼女が笑い、泣き、私を呼ぶ声が脳裏を駆け巡る。
エリン。私はどれだけお前を探し続けたことか。どれだけお前を失う苦しみに耐えてきたか。お前が幸せでいてくれるなら、私は何度でも剣を手に持つ。お前が笑顔でいられるなら、私はどんな傷を負おうとも構わない。
この「始まりの地」で、私は新たな誓いを立てる。お前を守り、お前と共に生き抜く。そして今度こそ、お前と幸せな結末を迎えると。
私は一歩踏み出す。彼女に近づき、膝をついてその瞳を覗き込む。この小さな少女と共に、私は新たな人生を歩み始める。エリン、私の全て。お前と共にいる限り、私は決して折れない。
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