第24話
私はかつてサー・ガレンと呼ばれた者だ。
何度も生まれ変わり、エリンを探し続け、大魔法使いエリンの導きで「始まりの地」へと送られた。
私はそこで、エリンが幸せになれなかったのは私のせいだと理解し、彼女を首都へ連れていき幽閉と死に至らしめた罪に打ちひしがれていた。地面に額を押し付け泣き崩れていると、突然その声が聞こえた。
「ここで何してるの?」
顔を上げると、そこにエリンがいた。
小さな少女、十歳にも満たないであろう、純粋な瞳で私を見つめるエリン。しかし、この場面は私が知る彼女との出会いとは異なる。ここは、私たちが初めて出会う日よりも前の始まりの地。
大魔法使いエリンが私を送ったのは、孤児だったエリンが魔法を習う前の時代だったのだ。
「エリン…?」
私の声は震え、信じられない思いで彼女を見る。彼女はぼろぼろの服を着て、髪は少し乱れているが、その瞳は澄んでいて、穏やかな光を放っている。私が知るエリン――魔法を操り、私の傷を癒し、やがて王城で苦しんだエリン――とは違う。このエリンは、まだ魔法を知らず、ただの孤児として生きる少女だ。彼女は首をかしげ、私を不思議そうに見つめる。
「おじさん、誰? なんで泣いてるの?」
私は立ち上がろうとするが、膝が震え、体が言うことを聞かない。
「お前…本当にエリンなのか? ここは…いつだ?」
混乱した私の呟きに、彼女は少し笑って言う。
「うん、エリンだよ。ここは村の外れ。私、お母さんとお父さんがいなくて、でもみんなが優しくしてくれるから毎日遊んでる。おじさんは旅の人? 変な顔してるよ。」
彼女の声は無邪気で、屈託がない。
私は息を呑む。ここは、エリンが魔法を習う前の時間。彼女が孤児として村で暮らし、まだ私の罪に触れる前の瞬間。彼女がただの女の子として生きていた時代だ。私は理解する。
大魔法使いエリンが言った「始まりの地」とは、私が彼女を傷つける前、彼女が純粋に自由だったこの時だった。私が彼女と出会い、彼女の人生を変える前の、彼女がまだ幸せでいられた場所。
「エリン…お前はこんな風に暮らしていたのか…。」
私の声は震え、涙が頬を伝う。彼女は魔法を覚え、私を助け、その先に待つ不幸を知らない。この小さなエリンは、私が彼女を首都へ連れていく前の、無垢な存在だ。
私は彼女に近づきたいと思うが、同時に恐怖が胸を締め付ける。私が彼女に触れれば、また彼女を壊してしまうのではないか? 彼女をこのまま自由にしておくべきなのか?
彼女は私の葛藤を知らず、無邪気に言う。「ねえ、おじさん、泣いてるなら一緒に遊ぼうよ。川で魚捕まえるの、楽しいよ!」 その言葉に、私は涙を抑えきれず、かすかに笑う。「ありがとう…。」
彼女が魔法を習う前、孤児として村で笑っていられたこの時。私は彼女を壊す前の彼女に会えた。私の罪が彼女に届く前の、彼女がただの女の子だった瞬間。
私はゆっくり立ち上がり、彼女を見つめる。
「エリン、お前が幸せなら…それでいい。」
私の心はまだ罪悪感に苛まれているが、彼女の笑顔が少しだけその重さを和らげる。ここで彼女と過ごすべきか、それとも彼女をこの幸せな時間に残して去るべきか、私はまだ決められない。ただ、この始まりの場所で、彼女が無垢に笑う姿を見られたことが、私の長い旅の果ての救いだった。
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