第17話

 エリンは私の消えゆく姿をその目で見送り、涙に濡れた顔で立ち尽くしていた。彼女の手は私を掴もうと空を切り、彼女の声は悲しみと混乱に震えていた。


 私が完全にこの世界から消えた後、彼女は膝をつき、床に落ちた私の剣を見つめた。静寂が部屋を包み、暖炉の火が小さく揺れる中、彼女は独り呟いた。



「私とあなたが死ぬ以外にも、世界が終わることってあるのね……」



 彼女にとって、私が消えることは予想もしなかった終わりだった。私たちは共に戦い、笑い合い、穏やかな時間を過ごしてきた。彼女は私たちが一緒にいることが当たり前だと思っていたのだろう。私がそばにいて、彼女を守り、彼女が私の傷を癒す――その日常が永遠に続くかのように。


 でも、私が薄れ、彼女の手からすり抜けていく瞬間を目の当たりにして、彼女は痛感した。死だけが別れではない。世界そのものが終わりを迎え、私たちを引き離すことがあるのだと。


 彼女は私の剣を手に取り、震える指でその刃を撫でた。「ガレンさん、あなたはどこへ行ったの……?」彼女の声は小さく、まるで答えを求めるように空に溶けた。彼女には私の旅の真実がわからない。幾度も世界を繰り返し、彼女を探し続けてきた私の定めがわからない。それでも、彼女は感じ取っていた。私がただ死んだのではなく、別のどこかへ移ったのだと。彼女の心に残ったのは、私の最後の言葉――「また会うから」という約束だった。


 エリンは立ち上がり、窓の外を見た。夜空に星が瞬き、風が木々を揺らしていた。彼女は深く息を吸い、涙を拭った。「世界が終わるなら、私もあなたを探すよ」と呟いた。彼女は気づいたのだ。私が消えたのは、この世界の終わりであり、彼女にとっても新たな始まりかもしれないと。


 私が次の世界で彼女を求めるように、彼女もまた私を追いかける決意を秘めたのかもしれない。


「私とあなたが死ぬ以外にも終わりがあるなら、私にはまだ希望があるよね、ガレンさん……」


 彼女の心に芽生えたその想いは、私が知る由もない。私は次の世界へと引き込まれ、新たな姿で生まれ変わっていた。だが、エリンの言葉がどこかで私の魂に響いたかのように、私は彼女を探し続ける理由を改めて感じていた。彼女が私の全てであるように、私も彼女にとって大切な存在だった。世界が終わり、私たちが引き離されても、彼女はその痛みを乗り越え、私との再会を信じようとしている。


 エリン、君がそんな風に感じてくれたなら、私はどれだけ救われるだろう。君が気づいたように、死だけが終わりじゃない。世界が終わるたび、私たちはまた出会うチャンスを得るんだ。君が私を探してくれるなら、私はもっと強く、もっと早く君のもとへ辿り着くよ。君が私の全てだから。


 次の世界で、君が待っていてくれることを願う。そして、君が私を見つけてくれることを、心から信じている。必ずまた会おう、エリン。君と私の物語は、終わりを迎えない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る