4.

「くっ、親玉の登場か!」


 宇宙船を見上げる丈太郎。その耳元に連絡が入る。


『マスター、未確認の船が地上すれすれにデフォールドしてきました。こちらからの応答に返信がないことから敵性勢力として判断し、排除行動に入ります』


 静止軌道上にいる丈太郎の相棒ヴァルファスタからの連絡だった。


「おい、待て。まだもう少し様子を見てから――」


 丈太郎が慌ててそう命じようとした矢先、謎の宇宙船から牽引ビームが地上に向けて発せられ、畑の生物たちを吸い上げていく。


「くそ、このまま回収させるわけにはいかないか。――ヴァル、ブラスターキャノン、転送!」

『了解』


 その答えと共に丈太郎の手元に大型の火器が出現する。装甲車にでも設置されているような大きさの砲身を持つ兵器だったが、丈太郎は軽々と持ち上げ腰だめに構えると、筒先を宙に吸い上げられる生物に向けた。


「行くぞ――ファイアー!」


 青白い光の玉が宙に向かって撃ちだされる。それも連発で。それらが夜空で爆発し、まるで花火でも上がったかのように辺りを照らし出した。

 撃たれた緑の生物たちが地へとバラバラと落ちてくる。


『こちらも攻撃いたします』


 その声と共に謎の宇宙船の牽引ビーム装置が火の玉となる。それによって丈太郎の砲撃から逃れていた緑の生物たちも地表へと真っ逆さまに落ちてゆく。


「よし、これで回収は阻止したぞ。後はあいつを――」

『まて! 私は帝国の商人アルバダダというものだ。私の商売の邪魔をするのは何者だ』


 丈太郎たちの通信に割り込むように声が入ってきた。どうやら謎の宇宙船の主のようだ。


「こちらは銀河連邦辺境惑星監察局一級監察官のジョウだ」

『やはり連邦の役人か。ここは連邦にも帝国にも属していない未開の地だ。連邦の役人に邪魔をされる覚えはないぞ! 尚も攻撃を続けるというならこちらも相応の反撃をする。そうなれば連邦と帝国の間で最悪の事態にもなりかねんぞ!』


 アルバダダと名乗った男が少し興奮気味で怒鳴る。

 帝国と連邦――銀河を二分する勢力は、いつ全面戦争に陥ってもおかしくはないほどの緊張関係を保っていた。男の言うようにちょっとしたきっかけで、最悪の状態へと移行してもおかしくはない。しかし――


「何を言う。帝国も宇宙大憲章には批准しているだろう。お前のこの行為はそれ抵触している。連邦であれ、帝国であれ悪いことは悪い。見過ごすわけにはいかん!」

『う……』


 丈太郎の勢いに負けたかのように黙るアルバダダ。数舜後、


『わかった、おとなしく引き下がる。それでいいな』


 観念したようにアルバダダが話す。それを受け、即座にヴァルファスタが要求を出した。


『この生物の栽培をしているのはこの場所だけではないでしょう。そのデータを全てこちらに提供しなさい』

「そして、この星には二度と近づくな。次は有無を言わさず撃滅する。分かったな!」


 丈太郎とヴァルファスタの言葉に、アルバダダは少しの間無言を通したが、これ以上抵抗しても不利だと悟ったのだろう、


『……ああ、わかった』


 とポツリと言うと通信を切った。

 その直後、ヴァルファスタに問題の生物に関するデータが転送されてきた。そして、アルバダダの宇宙船は来た時と同じように瞬時に姿を消す。


『敵船、フォールド。航跡を追尾いたしますか、マスター?』

「いや、いい。奴の船のデータはしっかりとってあるんだろう」

『もちろんです。次にこの恒星系に現れたら即座に探知できます』

「なら充分だ。――それよりも、ここの現状を回復しないと、明るく前に」


 丈太郎は荒れ果てた畑を見渡し、小さくため息をつく。まだ生き残っている緑の生物も回収しなければならないし、撃破したその残骸も片さなければならない。


『戦闘開始前に周囲に亜空間フィールドを張りましたから、被害はそれほど広くありません。この程度なら作業ドローンに任せれば一時間もかからずどうにかしてくれるでしょう。とりあえず余計なものをこちらで回収いたします』


 話し終わると共に丈太郎のすぐ上空にメタリックブルーに輝く宇宙船が姿を見せた。丈太郎の愛船であり相棒のヴァルファスタだ。神の鳥の名のごとく曲線で形作られた優美なフォルムをしている。今まで特殊光学迷彩を用いて姿を隠していたのだ。

 そのヴァルファスタが、先程のアルバダダの宇宙船と同じく牽引ビームを発して、地上に残った緑の生物とその残骸を吸い上げていく。それと同時に小さな機械群――作業ドローンを地上へと放った。


「よし、とりあえず落着だな」


 見る見るうちに片づけられる様子を見ながら丈太郎は肩の力を抜いた。途端にお腹がグウと鳴る。


「ああ、そういえばヴァル。夕方に俺が送ったメッセージの件だが――」

『あれなら私の方で棄却しておきました』

「何だとーっ!」

『すでに来年の予算は決しており、上申するだけ無駄です。マスターの努力と工夫でどうにかしてください。また今回のこの騒動による支出も予定されていた予算から引かれるため、月々の支給経費が多少減額される可能性もありますので、そのことも頭に入れておいてください』

「何だって……、くっ、くそっ、やめてやる、こんな安月給の仕事なんて、やめてやるー!」


 夜明け前の薄闇に、丈太郎の切ない叫びが響き渡ったが、亜空間シールドがまだ張ってあったので、それを聞いていたのは相棒のヴァルファスタだけだった……



END

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辺境惑星監察官・鈴木丈太郎のとある冬の一日 よし ひろし @dai_dai_kichi

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