辺境惑星監察官・鈴木丈太郎のとある冬の一日
よし ひろし
1.
「なんだと、キャベツ一玉が千円だと!」
男は都内にある某スーパーの野菜売り場の前で絶望の叫びをあげた。彼の名は鈴木太郎。実は宇宙人である。本名はジョウ・アレアルモル・セネター・セリョウリラーレ――長いので以下略。ここでは地球名である鈴木丈太郎として語ろう。
丈太郎は銀河連盟から派遣された辺境惑星監察官である。連盟に未加入の惑星に常駐し、その星の文明の観察や外部からの違法な干渉の抑制を行なうのが仕事だ。連邦の職員というとエリートのように聞こえるが、辺境惑星の監察官は閑職で、問題を起こした人間の左遷先というのがもっぱらの噂である。その為その給与はお世辞も高くなく、日々の生活費は出来るだけ突き詰めている。なのでこうして少しでも安い食料を求めて、日々あちらこちらのスーパーを巡っているのだが――
「くぅ…、どうしてこんなに高く……」
大柄でがっちりた体格の青年が、キャベツの山を前に体を震わせ悩んでいる様子に、周囲のご婦人たちが怪訝そうな目を向け、足早にその場を駆け抜けていく。
「しかし、キャベツは必要だ――」
丈太郎が震える手をキャベツへと伸ばす。
異星人である彼は、その肉体を保つためにキャベツを必要としていた。正しくはキャベツに含まれるシータキャベジン(地球では未発見の栄養素)の摂取が必要なのだ。それが無いからといって死ぬことはないが、肉体のパワーが著しく低減する。場合によっては職務に影響が出るためその摂取は必要不可欠だった。
ならば連邦から支給してくれれば、とお思いだろうが、シータキャベジンは銀河では希少な栄養素で、とても高価である。よって閑職の辺境惑星監察官に支給されるだけの予算は組まれていなかった。
「仕方ない――」
丈太郎がキャベツを手にし、買い物かごに入れた。一玉、ではなく、二分の一カットのやつだ。
「……肉は買えんな。後は米を」
野菜売り場を離れ白米の置かれた棚へと向かう丈太郎。そして、そこでまた絶叫する。
「五キロ五千円だとーっ!」
その絶望に満ちた声は、店内中に響き渡った。
結局丈太郎は二キロの米と、嵩増しのもち麦を買って、スーパーを後にした。
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