出会い

 5つ年上の彼とは、ブックカフェで出会った。手に取る本が同じなことなど珍しくもない。

 けれどそれが毎週、しかも3週連続ともなると読書家の性が出てしまった。




「あのっ…お話しませんか。きっと好きな作家さん似ていると思うんです…!」




 話しかけられた彼はきょとんとして、その後私の顔をじっと見つめた。そして合点がいったというような顔をし、高浜たかはまと申します、と名乗ったのだった。

 それが、私の問うたお話しませんか、への回答だと気づくのに数秒かかった。




「な、南条なんじょうと申します」




 そこから始まった交流。


 この作家さんの作品が好きだ。あの作家さんはラストまで読んで絶対にまた最初から読み直したくなるよね。


 なんて、色気もなにもない純粋な意見交換のような時間。けれど何よりも充実した幸せな時間だった。


 1年、2年と時は流れ、3年目には高浜さんとの交際がスタートしていた。デートの大半はブックカフェや書店巡り。


 水族館などのデートスポットに行かなかったわけではない。それらの場所も楽しく過ごした事に間違いはないのだが、活字中毒かつ紙愛好者の私たちには、読書タイムが必要だった。




「ちさ。一緒に住まない?」




 そう持ちかけられたのは、交際から2年経った頃。1つ返事で頷いた私に、驚きつつも嬉しそうに笑った顔を今でも覚えている。


 そしてトントンと話は進み、同棲開始。

 結婚まで秒読みだと周りの人間からははやしたてられたものだ。しかし事はそう上手く運ばなかった。




「ちさごめん、出向が決まった。福岡に2年間」




 一緒に来てほしい。彼の目がそう訴えていた。


 けれど当時の私は、憧れの出版社へ入社したばかり。

 このすれ違いが私達の別離に繋がるのではないかと恐れる反面、ここを離れたくないという気持ちは強く、彼の訴えに頷くことはできなかった。


 そんな私にも彼は優しく、婚約指輪を用意し、私との未来を確約したうえで福岡に飛び立った。


 それからの2年はあっという間に過ぎ、福岡から帰ってきた彼はすぐに結婚式を望んだ。けれでも今度は、私の昇格が決定。


 仕事が一段落するまでは結婚の準備どころではないと2人で話し合い、結婚式の予定は未定となった。


 そうして慌ただしくしながらも穏やかな人生活を3年送り、本日、やっと結婚式を挙げる。


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