うさぎは飛びかえるは翔ぶ。そして、僕は踊る。

ライ・スシワシ KKG所属🐾

はじまり

授業中。いつもの普通の授業。今は国語の時間だった。今日から新しい単元を始める。

それを初めてめてみたとき、周りが輝いた。ただの教科書だったはずなのに、何故か輝いて見えた。それの名は鳥獣戯画。

それは古く昔からあったカエルやうさぎの遊びの絵。

または、日本最古の漫画と呼ばれていた。

しばらく、何もすることが出来なかった。ただただ、この感情に浸っていたかった。

かける、どうしたんだ?」

親友の悠が聞いてきた。

「あっ、な、何でもない」

僕はとっさに隠した。

「そうか?なら良いんだが…」

悠はいろんなことに鋭い。僕が小学3年の頃にやらかしたことも鋭い勘で気付いた。

そして彼は優しい。色々と手助けをシてくれるから僕は彼のことを信用している。

「次は図工だぞ。そろそろいかないとヤバいぞ」

時間を見ると、たしかにそろそろいかないとヤバい。ここらか図工室はとても遠い。

「わかったすぐ行く!」

僕は悠といっしょに図工室に行った。



「今日は絵を模倣、つまり、描いた絵を真似して描いて、絵の良さについて知ろう、ということです」

先生が今日のやることを言った。

「絵――」

とっさにあの絵が頭の中を遮った。いやいやそんな絵よりももっとかっこいい絵を描いたほうがみんなにもスゴイって思われるだろう。

「悠はなんの絵にするの?」

僕は悠にきいてみた。

「う〜ん、俺としては…バンクシーかな?」

バンクシー。ヨーロッパでの有名な画家。ただ、顔も知らないし、急に絵を書いていなくなる。ただ、その人が描いた絵はとても素晴らしい。有名なものは女の子と風船の絵とかだろう。僕も何度か彼の絵をネットで見たりした。

僕の中でもバンクシーの絵は心に残っている。

ただ、僕はバンクシーの絵を模倣しよう、とは思えなかった。他のみんなも自由に絵を選んでいる。ゴッホやレオナルド・ダ・ヴィンチ、ピカソ、ヨハネス・フェルメールなど多様なアーチストを選んでいる。中には最近の絵――現代アートなどを描こうとする人もいた。

そんな中で僕が思いついた絵は――どうしてもあの絵が頭に出てきてしまう。

「翔は何にした?」

悠が呑気に聞いてくる。

「僕は…」

色々と考えても出てこない。この絵で良いのか。こんな絵で良いのか、と心の中の自分が声をかけてくる。

「翔?・・・わかった、色々と考えてみたら?」

「悠…ありがとう」

悠は察してくれたのか色々と詮索をしなかった。

「僕は…何が良いのかな?何を描きたいのかな?」

ゴッホやレオナルド・ダ・ヴィンチとかの絵を模倣しようとしても、必ずどこかで納得しないだろう。作っている最中で、やめてしまうだろう。それは先人たちに失礼なことだと思う。ならばやはり自分が思ったのを描いたほうがいいだろう。僕が描きたいもの…どうしてもあの絵しか出てこない。どうしようか…。


そう悩んでいたら、いつの間にか時間が経って図工の時間が終わってしまった。

「どうしたの、翔くん?絵を描いていなかったんだようだけど?」

2時休みに入ると、村上先生が聞いてきた。

「先生…どの絵にしようか迷ってて」

「なるほど。だったら自分が『これだ!!』と思ったやつを描いてみたら?」

「『これだ!!』と思ったやつですか…一応ありましたけど…」

「じゃあそれを描いてみたら?」

「ただ、ちょっと――」

ためらう僕に何かを察したのか先生はこういった。

「かっこいい、カッコ悪いとか思われたくないから自分が思った絵は嫌なのかな?そんなことは悪くないと思うけどね?翔くんは世界で一人しかいない。名前が同じ人はいると思うけど、それでも性格や好み、趣味、身長、体重、長所短所、見た目も違う。だから、翔くんという男の子は世界に一人しかいないんだ。そして、相手が思っていることなんてどうでもいい。気にしないんだ。そんな事を気にせずに絵を描けれるのもかっこいいと思わないかな?僕はそう思うよ?好みは人それぞれ十人十色。みんな違ってみんな良い。金子みすゞさんのことばだよ。一人ひとりが違う。君が好きなようにすれば良い」

僕は何か埋めようとしていたことを、掘り起こされている気がする。

「でも――」

「人は集団でないと生きていけない。それが社会でもある。確かに人に合わせるのも重要だ。でも、一人ひとりが自分の個性を潰してはこの社会というものは光っていかないよ。一人では進めないけど、もしかしたら、翔くんと同じ感性の人が背中を押してくれるかもしれない。僕もその一人だと思うよ。君がやりたいことを僕は一生懸命推していくからね。だから他人は気にせずにやってみな?」

先生の言葉は僕の何処かに響き渡っている。体全体にまわって体がしびれているような感覚だ。先生の言葉が僕の何かを…心の何処かで決めつけていたダムが崩壊していくような気がした。

「うん…、うんそうだ…僕は僕。他人は他人。他人の評価に怖がっていたら僕という人は僕ではない!」

「うんうん、その調子だよ。ちなみに、何が描きたかったの?」

「その…国語で鳥獣戯画ってやってますよね?その絵が気に入って…」

「ああ、あの絵か!!僕も好きなんだよね、あの絵。僕としては筆一本であんな絵をかける昔の人はスゴイと思えるんだよね」

「わかります!!僕もあんな感じに描けるとは思えないです!!」

先生との会話はどんどんと盛り上がっていった。自分と同じものが好きな人との会話はどんどんと盛り上がっていく。それだけはいつの時代もどこでもそうなんだろう。

「でさ――あっ、ちょっとごめん、次の授業の用意をしてないから一旦職員室に戻るね」

「はい…ありがとうございました!!」

「うん、じゃあまた後で話そうね」

「はい!!」

そう言って先生と別れた。

教室に戻ると悠が近づいてきた。

「なあ、何ですぐに絵を決めなかったんだ?」

「うん。ちょっとかっこ悪いと思ってさ――」


ここから僕の絵の物語が始まっていくのだと感じた。


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