存在証明のアリス
星夜とも
1ページ目 おとぎばなしをどうぞ
「…みんな一緒に岸辺まで泳いでいったんだ。…じゃあ、今日はここまでね。続きはまた今度…」
どうやら誰かが読み聞かせをしているようですね。
「えー!まだまだ!今読んでよ!フィーナおねえちゃん!」
読み聞かせをしていた子は『フィーナ』というみたい。
「だーめ。ほら、ハナちゃん行こう?おやつの時間だよ。ママのところに行こう。」
「はーい、今度読んでね。約束!」
「うん、約束。」
なんだか仲の良い姉妹のようです。
「ママ、私に用ってなーに?」
「あなたを引き取りたいと希望する方が来たのよ。」
ここは孤児院。フィーナは本当のお母さんのこと覚えていません。
ママと呼んでいる人は孤児院のみんなのお母さん。
「ママ、私いやだよ。ここでママ達とずっと暮らすの。」
フィーナは泣きそうな顔をしてママに抱き着いた。
「ママも寂しいわ。でもあなたに幸せになってほしいの。」
ママもなんだか泣いちゃいそうな顔。
きっといい人で優しくみんなを育ててるんだろう。
「もしも嫌なことがあったらいつでも帰ってきなさい」
「…すぐに帰る」
フィーナは新しいおうちに行くのが不安みたい。
「じゃあ新しいお母さんのところへ行きましょうか」
「お待たせしてしまい申し訳ございません、この子がフィーナです。」
なんだか厳しそうな女性。
「初めまして、、フィーナ、、13歳です、、」
フィーナはママの後ろに隠れちゃってる。
「あなたが…そう。私はエル・ハートよ。」
なんだか、変な人だな。フィーナは思った。
「フィーナ、行きましょう。」
エルはフィーナの手を掴み、車に連れて行きました。
「私はエルさんの娘になっちゃうの?」
フィーナは不安そうに聞きました。
「そうよ、私がこれからあなたのお母さまです。」
やっぱり厳しそうな人です。
「あなたをずっと探していたのよ。あなたがいないと扉は開かないの。」
不気味な笑顔で、エルさんは言った。
私には何を言ってるのかわからない。
なんだか怖い。
私は気が付いたら手を振りほどいて走っていた。
「待ちなさい!アリス!!お前たち!アリスを捕らえろ!」
後ろを振り返るとたくさんのフードを被った見るからに怪しい人達が追ってきていた。
「もう!!なんで私が追いかけられなきゃなのよ!ッキャ!」
あの人たち何かを撃ってきた、信じられない!
人を傷つけるのはダメだって教わらなかったのかしら。
フィーナは攻撃をなんとか避けながら走りました。
あれ、あそこにいるのってハナちゃんだ。
「ハナちゃん!逃げて!!」
私は今までで一番大きい声を出した。
でもハナちゃんはあいつらが怖くて動けないみたい。
ハナちゃんは血がつながってなくても私の妹だもん。
私はハナちゃんを守るように手を広げて逃げるのをやめた。
だってもう行き止まりだから。
ハナちゃんの後ろで止まるか前で止まるかのどっちかしかない。
だったら妹を守る。
「やっと追い詰めたよ、アリス。」
そう言ったのはローブを着た男の子。
「なんで追いかけてくるの。」
「君が必要だから。女王が待ってるよ。」
全く言ってる意味がわからない。
でも、一つだけわかることがあるの。
「私はあなたについていけないわ。」
男の子は驚いた顔をして言った。
「じゃあ、無理やりにでも連れて行くからね。」
男の子が手を上にあげるとフードを被った人たちが一斉に攻撃態勢に入った。
「ハナちゃんは絶対に私の後ろにいてね。」
ハナちゃんは泣いちゃった。怖いよね、私も怖いよ。
でもハナちゃんは私が巻き込んじゃったんだもんね。
「安心して、絶対に守るから。」
ハナちゃんは私の目を見てコクッと頷いてくれた。
男の子が手をおろした。
そうかなとは思ったけど、フードの人たちが一気に攻撃してきた。
あぁ、死ぬ瞬間ってスローに見えるって本当だったのね。
そこで気づいたけど撃ってきてるのはトランプのマークのような光の弾だわ。
今はそんなのわかったって何にもなんないけど。
あ、ハナちゃんに読み聞かせ最後までしてあげれてないね。
この孤児院に遊びに行ったときに読んであげようと思ってたのにな。
やっぱり生きたいな。
もうどうにもなんないだろうけど。
それでも人は叫ぶ。生きたいと願ったのならば。
覚悟ができたならば。少しの勇気があれば。
「助けて」
その瞬間。私の前に何かが降ってきた。
空から。
あ、人だ。
それに一人だと思ったら二人で一人がもう一人を抱えていた。
一人はキャスケット帽子を被ってる男の子。こっちが抱えられてた。
もう一人は身長が高くて大きなシルクハットが特徴的な男の子。こっちが抱えてた。
キャスケットの子があいつらが現在進行形で撃ってきてる弾の方へ手をかざすと弾が止まった。
もう何がなんだかわからないよ。
「やーっと着いたよ!君がフィーナだね?っていうかもうお取込み中だったかー。あ、しろくんありがとうね!」
「いいよ、はっくんにこっからは任せてもいい?」
「もっちろん!あはは、楽しみだな!」
どうやらキャスケットの子が『しろくん』。
シルクハットの子が『はっくん』というらしい。
「えっと、君がフィーナだよね。間に合ってよかったよ。」
しろくんに話しかけられた。
この人達に助けられたし、信用しても大丈夫な気がした。
「そう、です。助けてくれてありがとう。ねぇ、あなた達は誰なの?」
「うーん、そうだね、僕らは誰なんだろう。まぁ、僕は白うさぎでも時計うさぎでも何でも呼んでいいよ。あっちは…ハッターかな?でも、怒るかな。じゃあ、えっと、自己紹介されるまではあなたとか彼とかで呼んであげて。」
なんだかこの人も変わってる。
あ、忘れてた。
「ねぇ、ウサギさん。彼は大丈夫なの?」
そう、彼は今あいつらの止まった弾を触ってみたり観察してる。
「うん、大丈夫だよ。はっくんはいつもあんな感じだから。あ、悪い人じゃないからね。」
彼の方が変人のようね。
もう今日だけで変な人のランキングがすっごく変わっちゃったわ。
「おーい、はっくん。もう解除するよ。いい?」
解除?この弾を止めてるのをかな。
「えーもうちょっと!」
彼は私よりも年上そうなのに私より子供みたい。
「だめ。じゃあいくよ。3、2、1、解除。」
止まっていた弾が動き出した。
それと同時にあいつらも攻撃を再開した。
「あは!ほんっとに容赦ないね!さーて、キミたちもボクとお茶会をしようよ!」
彼はパチンッと指を鳴らした。
その瞬間あたりの景色が変わった。
なんだか不思議な空間で、時計とティーセットがたくさん浮いている。
よく見ると彼の服装も変わっている。
「攻撃を続けろ!」
フードの子が叫ぶ。
弾が彼目掛けてたくさん飛んでいく。
「あはは!ボクの時間の中では無駄だよ!ほら!」
弾を時計やティーカップたちが防いでいく。
「お前らは本当に使えないやつらだ。どけ!私が直々に相手してやろう。」
現れたのはエルさんだ。
エルさんは赤いドレスに金色の杖を持っていてまるで女王様みたい。
エルさんが杖を前に向けるとハートの弾が飛んだ。
ローブたちと比にならないほど大量に。
「うわぁ!この量は、いや、ちょ、ひどくない!?こっち一人なんだけどなー!」
彼は軽口をたたくように言っているが普通にやばそう。
「ウサギさん、あなたが助けに行くことはできないの?」
「はっくんのあれと僕のは相性が悪いんだ。助けようとしたら逆に邪魔になっちゃう。」
ウサギさんは苦しそうな顔をしながら教えてくれた。
「でもこのままだとはっくんが倒されちゃう、どうしよう。」
「ねぇ、私にもあれってできる?」
私は彼に救われたのだから次は私が助ける番だもの。
「できるはずだけど、君のがどんなのかはわからない。危険だよ。」
「それでもやるわ。教えてちょうだい。」
ウサギさんは少し考えた後にやり方を教えてくれた。
「エルさん!私が相手になるわ!!」
私は持っていた一冊の本を開いた。
そう。これが不思議の国への入り口。
「おとぎばなしをどうぞ!!」
フィーナがそう言うと周りにたくさんの動物たちが出てきた。
「あなた達も戦ってくれる?」
動物たちはフィーナに答えるように鳴いた。
「そんな動物に何ができるのよ。」
エルさんの攻撃の矛先はフィーナ達に向けられ、動物たちはみんなフィーナを守ろうと必死に弾いてくれてる。
「動物さんだけじゃないわ、お花だっているんだから!」
フィーナの周りにたくさんのお花たちが咲き誇りました。
「お花はあなたの弾のように飛べるわ!」
フィーナがそう言ったからなのか、花は鋭い弾丸となってエルのもとへ飛んでいきました。
「くっ、一時撤退よ!!アリス!!次に会うときは必ず連れて行くわ。」
なんとか帰ってもらえそう。
「次に会ったときはコテンパンにしてやるわ!」
エルとローブたちは飛行船に乗ってどこかへ飛んでいきました。
そういえば私の服装が変わっているわ。
なんでかしら。
「いやー!すごいね!あ、ティータイムは終わりだね。」
彼がそう言うと不思議な空間はなくなりました。
それと同時に動物たちもいなくなり彼の服もフィーナの服も元に戻っています。
「ねぇ、これはどういうことなの?これは夢?」
私はもう何がなんだかわからないわ。
「夢じゃないよ。お疲れ様はっくん、フィーナ。すごかったよ。」
「夢じゃないならもうわからないわ!」
「あはは!キミは本当におもしろいね!まぁ落ち着いてよ!」
もう、なんだか気が狂いそうだわ。
「あのね、君に決めてほしいことがあるんだ。急にごめんなんだけどね。」
ウサギさんは真剣な顔で言った。
「まず、エル・ハートに見つかったからフィーナがこの孤児院にいるままだと危険。また襲いに来る。そしたらまわりの子にも危害が及ぶ。」
「私のせいでみんながケガするのは絶対にダメ!」
「じゃあ選択肢は三つ。一つ目、一人で逃げる。二つ目、エルについていく。」
あぁ、二つ目は絶対に嫌だわ。最後の選択肢はどうか良いものであって。
「三つ目、僕らと一緒に来る。さぁ、どれにする?」
「えっと…」
そんなにすぐに決まらないわ。でも、三つ目に魅力を感じてしまう。
「まぁまぁ、そんなすぐに決められるものじゃないよ。今日の夜にキミの答えを教えて。それでいいよね、しろくん。」
「そうだね。焦らせてごめんね。じゃあ僕たちは上空に止めっぱなしの飛行船にいるから。」
「わかったわ、ありがとうね。」
私はもう決めてた。たぶんそれを彼らはわかってたと思う。
でもママ達にさよならする時間をくれたの。
私はそんな優しい人達についていきたい。
「ハナちゃん、読み聞かせの続きは遊びに来たときでもいい?」
私はハナちゃんに優しく尋ねた。
「うん、ハナ待ってる。フィーナおねえちゃん大好きだよ!」
「ありがとうね、ハナちゃん。」
ハナちゃんといつ会えるかなんてわからないけど、きっと会える。
そう信じてハナちゃんはずっと待っててくれると思う。
「ママ、私ね。行くことにしたの。」
ママは私のことを抱きしめてこう言った。
「あの人達に聞いたよ。フィーナを守るって言ってくれたんだよ。」
あの二人がそんなこと言ってくれてたんだ。
「フィーナ、あなたはママの大切な娘だよ。」
私、なんだか涙が出てきちゃったみたい。
「ママ、今度会いに来るね。そのときは今みたいにぎゅーって抱きしめてね。」
「もちろんよ、それとね。あなたに伝えなきゃいけないことがあるの。」
「なーに、ママ。」
「あなたの本当の名前は、フィーナ・アリスなの。」
フィーナ・アリス…
「私知らなかったわ。どうして秘密だったの?」
名前を秘密になんてする理由がわからないわ。
「それはあなたの本当のお母さんに言われたからよ。理由は教えてくれなかったけど、あなたがここを出るときにあなたに伝えてと言われていたの。」
お母さんが?なんでだろう。でもきっと必要なことだったのね。
「そうだったのね、教えてくれてありがとうママ。じゃあそろそろ行くね!」
「フィーナ、たまにでいいから手紙を送ってちょうだい。ハナにもね。」
「もちろん!ママ、今までありがとう!きっと帰ってくるから、いってきます!」
「いってらっしゃい!私の自慢の娘フィーナ!」
私は孤児院にさよなら、じゃない。いってきますしたらウサギさん達のところへ向かう。
「って!飛行船が上空にあるんじゃ会えないじゃない!!」
もうっ。
あれ?なにかが落ちてきた。
「よっと、フィーナ。準備できたんだね?」
彼は上空にとどまっている飛行船から飛び降りてきた。
それで完璧な着地。
私は彼はきっと世の中の変わった人の中でもトップの変人だと思った。
「はっくん。危ないからちゃんと
「えーいいじゃん!だって百点満点の着地だったでしょ?」
「そういうことじゃなくて…」
ウサギさんは時計鳥と呼んでいた鳥が足で持っている輪を片手で持ちながらゆっくりと降りてきた。
「フィーナ、ちゃんと君の言葉で答えを聞かせて。」
「私の選んだ道は、あなた達についていくこと。どうか連れて行ってください。」
私は二人に頭を下げてお願いした。
二人は顔を見合わせた後に私に言った。
「もちろんいいよ。飛行船での移動になるから不便かもだけどね。一緒に楽しくしよう。よろしくね。」
ウサギさんは優しく微笑んでくれた。
「やった!嬉しいな!キミは楽しそうだから退屈しなさそう!それにこれで役割分担が楽になる!」
彼は喜んでくれているけど最後のはあれ?と思った。
「自己紹介ターイム!!」
彼は拍手をしながら話し始めた。
「ボクはハルク!呼び捨てでいいからね!気軽にハルクって呼んでね!あ、ハルたんでもいいけどね?」
ハルクはニヤニヤしてる。
「えっと、僕はシロト。さっきは嘘の名前言ってごめんね。」
いや偽名だったんかよと思いながらも本当の名前を教えてくれたということは信頼の証では?
なんて考えてしまう。
「私はフィーナ・アリスよ。好きなように呼んでね。」
私はきっとアリスを入れた方がいい気がした。
たぶんこれが正解。
「やっぱりアリスだったんだね。これからよろしく、アリス。」
「アリス!よかった、間違えてない!よろしくねアリス!」
きっとここから私の物語が始まる。
「アリス!おとぎばなしを始めよう!」
「それから、忘れないでほしい。」
「存在という秘密の中で証明した言葉を」
「今はもう、消えてしまった」
「はるか昔に結んだ約束に」
アリス、君はアリスなの?
証明してみせてよ。
僕たちと一緒にさ。
存在証明のアリス 星夜とも @hosiya_tomomi
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