The Color of Invisible

桜田実里

The Color of Invisible

プロローグ

 青色の絵の具で塗られた空。書き忘れてしまったのか、ふわふわとしたあの白い雲はない。

 代わりに少し黄色っぽい白が、この町を不思議な光で照らす。


 ……でもその光さえ、僕のことは照らしてくれない。



 人々で賑わう朝市。その端のほうで、大きめの籠を持った主婦らしき女性が立っていた。


「あら、今日もいいお野菜が入ってるわね~」


 目の前には、ブルーシートに置かれたさまざまな野菜や果物。そして、小さな箱。



「ええと、にんじんと玉ねぎとじゃがいもと……。よし、これだけあれば十分ね。じゃあ、520円。おいしょっと」


 女性は数個の野菜を手に取り籠に詰め、手に持っていた財布の中から小銭を出す。

 それを、小さな箱にカランと音を立てて入れた。


 忙しそうな様子で去った女性の背中に僕は、声をかける。



「ありがとう、ございました」


 だけど、女性から返事が返ってくることはない。

 秋の風が吹いて、ふわりと僕の薄い服をなびかせた。




 ――――朝が来て、日が暮れて、また朝が来る。


 毎日その繰り返し。生きるために働いて、物を食べて。


 この、生きる意味を見出だせない人生のことなんて忘れたくて、働く。何も考えずに生きる。



 ……そんな思いをするくらいなら、死んだほうが良いんじゃないかって考える。

 でも、死んでしまうのは少し怖い。


 この世から自分という存在が消えて、なくなっしまうから。本当になにも残らなくなってしまうから。


 ……なんて、誰にも視えない存在の僕が言っても、仕方ないのだけれど。



 ――――このつぶやきすら、誰にも、聴こえない。

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The Color of Invisible 桜田実里 @sakuradaminori0223

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