第2話 自己紹介は事故の後?
───あの出会いは僕のこれからにおける起であり、今回は、其れに続く承であり、はたまた僕の人生の転であり、そして日常の結の始まりであった。
お姉さんは相も変わらずにジト目で謎の身分証明書のようなカードを見せてくる。
「と、言いますとつまり?」
「キミはこれから私に連行されるってコト」
おっと、僕は怪物から人を助けるといい事があるって聞いたんだけどな、あれは嘘だったみたいだ。連行って……困るな、実験ができない。僕何もしてないのに。そして機関……字面で分かる危ない人だ。霊羅ってあの鳥のこと?とはいえどんな人であろうとも。
「それは困りますね」
僕はカバンから濡れないように再びレールガン(試作品)を取り出す。何故かお姉さんは両手を前にして慌てた様子で僕を見る。
「!?ちょっと待て待てステイ……じゅっ銃口をこちらに向けるでない危ない危険デストロイ」
「弾はもう無いですから御安心。ほら、この通り先ほど壊れてしまったのでこの子を治さないといけないんですよ」
試作品であろうとも作ったものは大切にしないといけないし。
「そう、うん、ああ……」
何故かお姉さんは引き攣った笑顔を浮かべポケットからスマホを取り出す。そして、僕の顔を上目がちに見てから誰かに電話を掛ける。
「あの、もしもし……冗談です!やめい!ストップ!」
「あっ……本当に撃つつもりでした。すみません、多分その様子だと次は僕が危ないかもしれないので」
『おいっ!どうした?おい!天忍、返事をしろ!』
電話からひどく慌てている様子の男の人の声が聞こえる。上司というものだろうか。が、直ぐにその声は止んだ。
「だっ!大丈夫です!……あ、ほんとに切っちゃった……」と、お姉さんは電話を切る。
僕はくるりほ方向転換して僕の住むアパートへと向かっていった。
「おいこらまて」
「はい」
再び、呼び止められた。
「ちよっと着いてきなさい」
お菓子買ってあげるから。続けて彼女はそう言った。さっきの上司のところじゃないようで僕は彼女についていく。コンビニだった、お姉さんは塩キャラメル、飴、一口チーズとアルコール度数の極めて低い缶ビールに水を買って。ついでに僕の分の安いお菓子も買って。
僕は本当に次こそ、と自動ドアの前でお姉さんに別れの挨拶を済ませられなかった。
「次は着いて行かせなさい」
……お姉さんは何を言ってるんだ?
「拒否です。危ない人には着いて行っていってはいけませんよ。お姉さん」
「キミは私に着いてきたじゃないか」
「それは
手元にぶら下げるレジ袋を見てお姉さんは僕の顔を見る。
「コレのことね……これまた珍しいものを。スーパーの食品コーナーの端の端に置いてあるコレね」
「あ、家ですこーしだけお話してくれるのならね。このお姉さんがも一個買ってあげよう」
「……」
別段、家についてこられて困ることは特にないのだけれど僕だけなら……。多分困るのはお姉さんだしいいか。ひとに迷惑をかけるのは良いことじゃないけど迷惑をかけるのは僕じゃないし。
───でも、仮にでも彼女が僕の思っている通りの人間であるのならば、僕が調べていることに深い関係がある。のかもしれない……
「いいですよ、でも僕は貴女のことを案内はしません。自ら他人を家にいれるのは気が引けるので」
「尾行出来るものならやってみろって言いたいのね……良いわ……ってもう居ないし」
僕は言葉を残すとすぐにその場を去った。雨がパラパラと降っているなかで足を小刻みに動かして。あ、さっきのコンビニで傘買ってくれば良かった。駅のコンビニのビニール傘は売り切れている。元より、昼食で財布が空っぽ、定期しか持ち合わせていない。よし、諦めよう。
電車に揺られて僕は窓の外を眺める。灰色の空に灰色のマンション、灰色のスーツの大人。極めつけは彼らは心まで灰色に見えてくる。
[次は
最寄りの駅に着いたが、まだ雨は降っている。幸い住んでいるアパートは駅から近いもので3分も早歩きをしていれば着くのだけれど。
───結局、尾行はしてきていないようだ。
錆鉄色の階段を登って再び下を見るも居ない。気配も無い、助かったと思う反面少しがっかりしている自分もいる様だった。
[ガチャ]
僕は玄関の扉を開けて閉める。
[ガチャ]
「?」
僕が閉めたと同時にドアが開く。お姉さん?なんで?
「どうしたのよ、予想外、って顔も出来るんじゃない」
「まあ、いいわ。約束通り入るわよ」
別に着いて来れるなら着いて来い、という意味では言ったけど部屋に入れるつもりはなかったんだけどな。でも、話とは、本当に僕は何かしたのだろうか。あの実験対象の鳥の事でも詳しく教えてくれたりはするのだろうか。
しっかりと傘を持っていたそのお姉さんはレジ袋を持って既に僕を通り越し、ちゃぶ台の前に置いてある座布団の一つに座り込んだ。律儀にちゃんと手を洗ってから。
「はい、どうぞ」
相変わらずの眼鏡越しのジト目で僕を見る薄紫色の赤の他人。
「あ……どうも」
僕なんかに話があるからと言ってここまでも追ってくるとは。電車で10分、徒歩を3分、合計して13分。その程度であるとはいえど僕には奇妙で仕方がなかった。僕だったら赤の他人に絶対そんな事をする気にはなれない。そして、その奇妙なお姉さんは例の面倒臭がりな男、つまり僕に宣言通りに、話しかけてくる。
「改めて、自己紹介するわ、私は
「ああ、(こういう時は自分の個人情報も見ず知らずの人間に公開してしまうものなんだっけ……)」
「んん?今なんか言った?」
「こういう時は自分の個人情報も見ず知らずの人間に公開してしまうものなんだっけ……と、言いました」
「うん、君無駄に正直だね、私は見ず知らずの人間じゃなくて美人な、ひなひお姉さんだよ」
まあいいか……、別に僕を求める変人なんてこの世にそうそう存在するわけでもない。名前くらいであるのならば。
「僕の名前は、
「ふむ、よろしい」
取り敢えずはこれでよろしかったらしく彼女は先程から手に持っていた半分くらいになっている水のペットボトルにアルコール濃度低めの缶ビールを流し込み、試験管を振るように静かに混ぜ、それをビニール袋に戻す。
「で、次こそ何用でしょう?」
彼女の奇行を目で追い終わった後、僕は彼女に問う。
「えっとだね、単刀直入な話。つかさ君、キミにはあの怪鳥、いや機廻。赤い鳥が見えた、そうだね?」
「ええ、見えてましたが」
逆にあの近距離であの巨大な鳥を見えていなかった、そう答えるほうが難しいくらいだ。彼女は紛れもなく、見えていたか、そう僕に聞いた。まるで、あの時、あの場所にアレが見えない人間でも存在しているかのように。例え、傘を差していたとしても目が奪われるような存在が相手では。
「逆に見えない人間がいると?」
「いや、見える人間がおかしいんだ。あの機廻は普通の人間には見えない代物なんだよ」
どうやら僕は出来る限り人間らしく生きようとしては居たけれど、どうやら何処かでその道を踏み外していたみたいだ。
「逆に見える人間は普通であると?」
「その通り、彼らこそが人間と言っても過言ではない。アレは、あの紅天白夜の紅天、四神朱雀を模した機体のプロトタイプは、世間では紛れもなく妖怪、物の怪、怪物、そう呼ばれるものだ」
無論、私がその存在を知ったのも本当に極々、最近の出来事であるのだけれど。彼女はそう続けて言った。
「妖怪……」
「頭の硬そうな理系大学生には分からない領域かな?」
「何を言っているんですかお姉さん。世の中には理解らないことしか無いんですよ。非存在ですら、理を解せる物なんて僕は思ってはいません。だからこそ、僕の頭は滑石よりも脆くできています。簡単にゼロからやり直せるように」
これは詭弁であると同時に、僕の信条であり、生き方だ。だからこそ、理に近づこうと僕はする。脆く自分を作ることでいつでも無にと戻れるように。再開する時こそが一番大切である、いつだったか誰かに教わった話だ。
「ほ〜ん。キミにはキミなりの信条があるようで、だからこそあの機廻が見えたのかな。まあいいや私の聞きたいことは終わった」
そう言い終わると彼女は先程の水に割られた低アルコール濃度の元缶ビールをペットボトルを介して飲み始める。生憎ながら僕は未成年故、相手をすることはできないのだが───
そして、その数分後に僕は……
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