【KAC20254】スーツと常識の狭間にて

彩霞

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 初めて見てから約一年。見る間隔かんかくは次第に開いてはいるが、こんなに同じものを見るのはめずらしい。そもそも私の場合、夢を見ても内容を覚えていることのほうが少ない。


 しかし、あの夢はよく覚えている。根拠はないが、夢の中身は実際にあった出来事である。それを映画のように繰り返し見ている感じであるため、記憶に残りやすいのかもしれない。


 ただ、その出来事があったのは、もう三年も前のことだ。

 今更いまさらどうしてそんなものを夢の中で見ているのだろうか。


「考えろ」、ということなのか。答えのない「解」を私なりに探し続けろと、そういうことなのだろうか。


 夢が見せるものに何の意味があるのか、私は知らない。


 ただ、人間とは何かにつけて意味を見出したがる生き物である。

 私は今回もその本能に身をゆだね、9回目ともなる夢のことを、近所の喫茶店で昼食のあとに出されたオレンジジュースを飲みながら振り返ることにした。

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