第30話  今が1番!

 ある曇った夏の夜のことである。


 ちょうど、半分月が昇る空。

 

 蜜柑を宙に投げて、ワシの愛刀で一刀両断する。

 

 半月兼定。

 月を半分するぐらいの切れ味になってくれと願いを込めて、打たれたものだ。

 

 ワシはむしゃむしゃと蜜柑を食べる。

 

 人間。

 それも愚かな人間。

 これが不可解な、下等な、退屈な人生の象徴でなくて何であろう。


 人に期待する。

 それがコミュニケーションにおける最も無駄な行為じゃ。

 

 例外もある。

 相手に期待していい時は相手が能力が自分より高すぎて、余裕がありそうな時のみだ。

 それ以外は頼る、甘える、信じる、いずれも愚かな考えだ。

 

 相手の能力を理解せよ

 それと同時に相手の望むことをただ提供せよ。

 これがわしの人を動かすコツじゃ。

 動きたいように動かせる手伝いをする。

 これ以外人間関係で必要な行動はない。

 

 何が性善説じゃ。

 わしは性悪説で生きている。

 人間だって所詮生物だ。

 快か、不快か。

 味方か、敵か。

 そんな二項対立の中で動いている人間がほとんどだ。

 渡る世間は鬼ばかり。

 そんなふうに考えればいい。

 

 わしの場合、鬼なんぞに出会っても叩き切れるから問題なんかにならない。

 

 わしは再び本を開く。

 蜜柑。

 あれを読んだ後の爽快感。

 心を落ち着けるにはルーティンが1番だ。

 蜜柑を単に音読する。

 それも毎日。

 瞑想でもいい。


 今に集中さえできればいい。

 今が1番なんじゃ。

 今が1番。

 人生はそれだけでいい。

「わしのエッセイじゃ」


「貫徹さん、いい話風でしたけど」


「なんじゃ?」


 ふと思うことがあった。


「芥川龍之介の蜜柑と、半分の月がのぼる空というキーワードがめちゃくちゃ引っかかるんですけど」


 貫徹さんがにかっと笑う。


「パロディじゃからの」


「相変わらず自由な人っすね!」


 貫徹さんはガハハと笑った。

 それから小さく深呼吸をして、こちらをじっと見つめてきた。


「でもなぁ、歩夢君」


 貫徹さんが何かを語りかけてきている。


「これで忘れないじゃろ、今が1番!」


 貫徹さんはまたしてもニカっとしてきた。

 なんだろう、この可愛らしい笑顔にかっこよさも感じるのはなんだろう?


「困った時の呪文にいいぞ、今が1番!」


「今が1番がですか?」 


「そうじゃ」


 貫徹さんは強くうなづいた。


「過去よりも未来よりも大事なもの、それが今じゃ! いつの時代も変わらん、普遍的な真理じゃ」


 貫徹さんのいうことは頭ではなんとか理解はできる。

 しかし、心が追いつかない。


「そうは言っても、うじうじと引きずっちゃうんですが」


「雑念なんぞ叩っ切れ!」


「それができるんのはあんただけでしょ!」


 俺がそう言うと、貫徹さんが不思議そうに首をかしげる。

 本音を言うと、俺だって雑念は叩っ切りたい。

 俺にはまだできない。


「簡単に言うと、心頭滅却すれば火もまた涼しってことじゃぞ?」


「坐禅の言葉で無の境地に達すれば、火が涼しくって言葉でしたっけ?」


「そうじゃな、禅僧の快川紹喜が、織田信長に攻められ、火をかけられた際に残した言葉とされている」


 めぐりも以前、本当に同じことを言っていたりする。

 確か、めぐりは苦難や困難にあっても、無の境地に達すれば、苦しいと感じなくなると言っていた。

 さすがめぐり。

 じいちゃんの思考を受け継いでるんだなぁ。

 やはり親子だなぁと感じる。


「雲の上の人間になれば自分が楽になるから、神様目線で常に人間を見るのもいいかのぅ?」


「貫徹さん、悟りすぎです」


 そこまで達観できるわけないっば。

 そう叫びたかったが、俺は抑える。

 貫徹さんが「ふむ」と言いつつ、顎に手を当てている。


「歩夢くん、瞑想の究極的な目的ってなんだろうかって考えたことがあるか?」 


「えっと」


 瞑想ってのは、座って目を閉じて呼吸に集中するって行為を繰り返すことだっけ。 

 めちゃくちゃ余計な考えが出てきて、すぐに集中できなくなる辛いやつだよなぁ。

 足も痺れるし、眠くなるし。

 つまり……。


「思考の雑念をなくすことじゃないんですか?」


 貫徹さんが目をカッと見開いた。


「ほぅー、いいことを言ってくれたのぅ」


 嬉しそうに貫徹さんはうなづいた。


「だが違うのぅ、そもそも正解を最初から言えるなら聞いてないがなぁ」


「難しいっす」


 俺はそもそも瞑想なんて普段しないからな。

 実践不足であるので答えに辿り着けるわけがない。


「まぁ無理もない」 


 貫徹さんは指をピンと立てる。


「これはあくまでわしの考えじゃ。あらゆる思考に反応しないようになることじゃ」


「あんまりピンとこないっす」 


 思考に反応しないと概念がそもそも飲み込めなかった。


「刺激すると生物は反応する。一部の人間を除いて、刺激と思考が同一のものとなってるんじゃ、考えた瞬間に反応する。刺激と思考は本来別物じゃがな」


「考えた瞬間、動いちゃうってことですかね?」 


 貫徹さんは大きく頷く。


「今はその理解で良い、というか、身近な例を見る方が早い。これがよくできてるのはめぐりじゃな」


「めぐりですか、いつも落ち着いてます。というか、達観してるようにすら見えますけど」


 めぐりはもはや何に対しても距離を置いているようにすら見える。


「めぐりのいつもやってることが全てをニュートラルに捉えると言うことじゃ」


「ニュートラル、日本語で言うと、中立的に捉える?」


「何に対しても評価をしない、判断しないと言うことじゃな」


「むっず、それやれるのかよっ、めぐり。それいるんですか?」


「いらん場合がある。お主の義妹のようにスペックのゴリ押しで全てを解決する傑物もいる」


「鈴奈ですか」


 本当、あいつどこの場でも出てくるな。

 俺の妹の謎スペックは一体なんなんだ。


「こないだ、スマブラスペシャルでぶつかってわしがカズヤ使ってたんじゃが、君の妹はピカチュウを使って待ちゲーされることで逃げられて負けたからのぅ」


「あんたたちは本当何やってるんっすか!」


 貫徹さんが遠い目をしている。


「わしは待ちキャラはスマブラ 64じゃとカービィ、DXだとファルコ、Xだとアイクラ、forだとクラウド、スペシャルはホムヒカかのぅ」


「スマブラをずっとやってきたんだなぁってことしかわかんないっす」


 貫徹さんはやけに楽しそうだ。

 なんだかまだ話しそうだそうだった。


「君の義妹は64だとピカチュウ、DXだとフォックス、Xだとベタにメタナイト、forだとベタにベヨネッタ、スペシャルだとスティーブじゃ、強キャラ厨め!」


「知りませんよ、八つ当たりしないでくださいよっ!」


「わしのキャラも実はまぁまぁな強キャラで、鈴奈ちゃんに10先で9-10で負けてばかりでムカついただけじゃ」


「あんたら仲良いっすね!」


 貫徹さんはにっと笑ってから、真顔になる。


「鈴奈ちゃんは例外として、まずはあらゆる人間の会話をただのデータとして受け取ることから始めるといい」


「それがニュートラルってことなんですね」


「これが実践できてるのは美咲ちゃんじゃな」


 昨日の美咲ちゃん、すごいと思ったがそう言うことだったのか。 


「あの育代さんの喋りをいなしつつ、付き合っていくとはすごいことじゃぞ、歩夢くんの場合、育代さんの元で育ってもマザコンになったじゃろうな」


 ニュートラルに、つまり距離を保って誰とでも接するができてるってことか。


「さて、今日も稽古するか?」


「お願いしますっ!」


この後、また100本取られた。


「今が1番……」


帰りがけ、すでに夜になりかけていた。

ちょうど半分の月が昇る頃。

月の光は過去も未来も照らさない。

ただ今この瞬間、光っている。

……そうか。

今が1番。

少しだけ、貫徹さんの言うことが俺はわかった気がした。


◆◆◆あとがき、お礼、お願い◆◆◆


ここまでお読みいただきありがとうございます。


というわけで、貫徹さんのお真面目&おふざけ回でした


もし、


貫徹さん、かっこいい、面白い


歩夢くん、いいね


スマブラトークしたくなったぜ


この話面白い


と思ってくださいましたら、


♡、☆☆☆とフォローを何卒お願いいたします。


レビューや応援コメントを書いてくださったらできるだけすぐ読みますし、返信も速やかに致します。


次回はちはるさんの話です


公開日は5月27日6時頃です。


お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る