第2話 ヘンタイという名の紳士だよ

「Bust95、Waist56、Hip88よ!」


 ウオオオッッ!

 俺と雅春を除く男子共と、何故か新奈から鬨の声があがった。


 なんという圧倒的数値……!

 これにはス◯ウターも大きく頷いて爆発四散である。


 というか何聞いてんの俺? 何即答してんのアリシアちゃん?


 冷静になっても時既に遅し、女子達の視線は絶対零度の冷感と物理的質量をもって俺の総身を串刺し刑。

 葵は「あっちゃー」と顔に手を当て、のどかの周囲は風景が歪んでなんか何かの頭骨みたいのが見えてきた。


 あれ、俺なんかやっちゃいました?

 とか言ってる場合じゃないな。なにがやっちゃいましただよやらかしまくってるよ。

 アリシアさんはふんぞり返って「むふー」とかやってるんじゃない。


「おお……ありがとう……すごいな……」

「でしょう? もっと褒めてもいいのよ!」


 どうやらこの娘、スリーサイズを公衆に公開することを微塵も恥ずかしいとは思っていないらしい。

 めちゃくちゃ自分に自信ある人だなさては。


「さあマコト、このNice bodyのワタシとDarling & Honeyの関係になりましょう! なるわよね!」


 もうどうしよっかなコレ!


 ここで『イエス』と答えたとしよう。流れ的にどう好意的に見ても身体目的である。

 間違いなく今後のどかは俺と喋ってくれなくなる……いや、表面上変わらず接しながら料理に毒を盛ってくるかもしれない。

 事情が伝わってしまえば、桔梗は二度と俺と目を合わせてくれなくなるだろう。心休まるはずの我が家が針山地獄に早変わりである。


 では『ノー』ならどうか?

 その場合、俺は『公開告白してきた美少女を、スリーサイズまで聞き出しておいてフッたクソ野郎』の烙印を背負って生きることになる。

 周りをご覧よ。男子は『えっ、まさかB95の超絶美少女が出してきた据え膳を食わないわけないよな?』って目で見てるし、女子からは『ここまでした女の子を袖にするなんてことしないよね?』という圧を感じる。


 そして何より、俺自身の気持ちとして、アリシアの想いを無碍にしたくない。

 10年ぶりとはいえ、彼女は大切な幼なじみ。傷つけたくないし、付き合ったら付き合ったで絶対楽しい。


 ……と、なれば。


「……お友達からで頼む」


 コレしかないよね。

 男子からはブーイングの嵐が吹き荒れ、女子からは不完全燃焼なもやもや感が漂う中、当のアリシアは……あれ、なんかあんまりショック受けてなさそうだな。

 俺の回答を聞いた瞬間には目を丸くしていたものの、「hmm......」と顎に手を当て考え込む仕草をした後、ニッコリ笑った。


「わかったわ! 今日からまたよろしくね、マコト!」


 バッ! と勢いよく右手を差し出してくるアリシア。

 反射的に握ってから、その細さと柔らかさにドギマギしてしまう俺氏である。


「お、おう、よろしく…………アリシア」

「うんっ!」


 ……なんとか、上手いこと軟着陸できただろうか。

 アリシアのにぱーっとした笑顔を見ていたら、そんな気がしてきた。


 まあもちろん、気のせいだったんですけどね。






「ねえねえマコト」

「なんだいアリシアさん」

「ワタシたち、どうしてセイザさせられてるのかしら?」


 時は飛んで1時限後の休み時間である。

 あの後何事もなかったかのようにホームルームをこなした進藤先生(42歳独身)は、去り際に眼球の血管が炸裂しそうな凄い眼で俺を睨んでいった。しばらくリピート(悪夢に出るの意)確定だねこれは。

 入れ替わりで入ってきた1時限の数学担当・散山ちりやま美々みみ先生(33歳独身)は妙な雰囲気に包まれる2年E組に首を傾げながらも授業を始め、何故か俺のことを当てまくった。

 これには授業中の雑談でネタバラシしやがった葵の言動が関連していると推測されている。


 で、充分に地獄だった1時限を終えて。

 2年E組の片隅には異様な光景があった。


 並んで床に正座させられている俺とアリシア、それを取り囲んで見下ろす幼なじみオールスターズという構図である。

 10年ぶりの感動の再会を経た幼なじみ達の姿か? これが……。


「……ためらわなかったからかな」

「What?」

「いやあ、若いからって限度があると思うけどな~」


 そのとおりだ葵。

 お前の言うことは、全て正しい。


「……それでまーくん、なにか申し開きはあるかな? かな?」


 鉈振り下ろしてきそうな口調はよしていただけませんかのどかさん。

 俺が知る限り、笑顔とは本来攻撃的なものであり(後略)をここまで体現した人物は他にいない。

 こわいよう。


「いやあ……なんというか……うん、口が滑った」

「まーくんがすけべなのは知ってるけどね? 学校だよね? みんなの前だったよね? アリシアちゃんと初対面のタイミングだったよね?」

「初対面だなんて! ノドカ、ワタシのこと忘れちゃったの?」

「アリシアちゃんもアリシアちゃんだよ。再会していきなり告白だなんて、非常識な……」

「常識に囚われてはいけないのよ」


 申し訳ないがこの学校に弾幕で白黒つけるルールは存在しないんだアリシア。

 おっとのどかさんの背後に禍々しい骸骨が見えてきたな。


 頼む……誰でもいい……流れを変えてくれ……誰でもいい……悪魔でも……!


「愛美を呼びましたか!?」


 たしかに緑だがお前じゃねえ。だがよく来てくれた。

 今はのどかさんから無数の斬撃が飛んできそうなタイミング。実にちょうどいい、君の激しいハグでのどかを鯖折りにしておしまいなさい。


「まなちゃん」

「ハイ、お姉様。愛美は静かにいたします」


 振り向くことすらなかったのどかの一言を受け、愛美は手を後ろで組み足を肩幅に開いて静止。全身の震えは抑えられていないが。

 チィ、雑魚め。でもしょうがないか。俺だってチビリそうだもん。


「はぁ……本当にスリーサイズ聞くヤツがあるかってんだよ。反省して口重くしとけよ、マコ」


 ため息混じりにありがたい忠言をくれた雅春は、哀れ涙目の愛美へ近づいていく。

 面倒見が良いのは友人として鼻が高いが、もしかして事情を話すつもりかな? 桔梗にバレるのはギリギリまで引き伸ばしたかったんだけど。


「それで……俺は、どうしたら許されますか?」

「うーん、腕一本?」


 マジかよ葵。できれば利き手にして相棒(意味深)の右手は残したいんだけどいいかな。


「久しぶりの日本だし、ワタシ、ハラキリが見たいわ!」

「告った相手を速攻で殺しにかからないでアリシアさん」


 俺は死んだら死んでしまうんだ。


「…………まーくん」

「アッハイ、スミマセン、何でもしますからどうか許して」

「ん? 今何でもするって言いましたよね?」


 今なにか早口で言ったか新奈。なんか怖いんだけど。


「はぁー……」


 のどかが深くため息。

 あゝ、いい人生だった。そう締めくくれるのは幸せだと思う。


「あのね、まーくん」

「アッハイ」

「別に罰とか、そんなこと言ってるわけじゃないんだよ。ただ、まさくんも言ってたけど、反省してほしいだけ」


 のどかが俺の前にしゃがみこむ。黒タイツに包まれた脚はきっちり閉じられてて残念――あっすいませんなんでもないですごめんなさい。


「アリシアちゃんがたまたま気にしなかっただけで、すっごいセクハラだったんだからね?」

「うん……」

「思ったことを正直に話すのはまーくんのいい所だけど、なんでもそのまま口に出せばいいってわけじゃないんだからね?」

「うん……」

「わかった?」

「はい…………ごめんなさい」

「謝るのは私にじゃないよね?」

「あ、ああ…………ごめんな、アリシア。不躾に過ぎる質問だった」


 幼児を相手するようにのどかに諭された俺は、隣のアリシアに頭を下げる。

 しかし、当のアリシアの頭上にはハテナマークである。


「ワタシのスリーサイズのこと? 別に謝るコトじゃないわよ?」

「アリシアちゃん。アリシアちゃん自身はいいかもしれないけど、みんながスリーサイズ聞かれて平気だと思う?」

「ん~? ……あ~、そういうことね。うん、ダメね、それは」

「そうだよ。例えば私だって、たとえまーくん相手でもスリーサイズとか答えたくないし……」


 のどかの場合3つとも数値同じだろうから聞き甲斐はないけどな。


「剣道部の人呼んでくるね」

「介錯は付けてくれるんですね!」


 のどかは優しいなあ!


「……ち、ちなみに、の、の、のどかちゃんのはいくつですか……」


 話聞いてた新奈? アリシアの時もなんか興奮してたけど。


「女の子同士ならいいかなって……」

「良くはないよになちゃん……だいたい、私ちゃんと測ったことないし……」


 え? そういうものなの?


「そういうものだよ~。よっぽど服装こだわる人とかじゃないと、きちんと測ったコトないってコは多いんじゃないかな? ボクはほら、手芸部で衣装とか作るからちょくちょく測るけど」


 はえ~、そうなんだ。

 ところで解説してるのが一郎くんなんだけどコレは正しい情報なんですかね。


「わたしも測ったことないです……」


 人に聞いておいてそれはないと思うよ新奈。

 この件に関して俺に発言権はないから言わないけど。


 でも残念だな。誰のが一番気になるかと言われたら新奈だったんだが……。


「えへ……」


 にへえと笑う新奈。もしかして俺の思考ってちょっと周りに漏れてる?


「はあ……何の話してたんだっけ……」

「ワタシがいっちばーんStyleがGoodって話ね!」

「待つんだアリシア。スタイルの良し悪しというのは主観的・感覚的なものであり、根本的に他者との比較には馴染まないものだ」

「Oh…………つまり?」

「みんな違ってみんないいということだ」

「Yes! 多様性ってことね?」

「そのとおりだ」

「じゃあマコトが一番好きなStyleは?」

「95・56・88」

「ワタシね! やっぱりマコトとワタシは結ばれるべき――」

「のっちゃんは右の玉を。ボクは左の玉をもらうね」

「交渉成立だねあーくん。まなちゃん、ナイフの用意を」

「ハッお姉様」

「イヤァァァァ去勢!」

「あ、あの、それなら、わたしは竿を……」

「新奈サン!?」

「? なんの話かしら?」

「オレがオレじゃなくなるんだ!」

「大丈夫だよマコ……マコはかわいいから……きっとこっちでも上手くやっていけるから……」

「うるせえテメエも切り落としてみろや! あっすみません待って引きちぎろうとしないでせめて切り取ってアッー!」

「Wow! よくわからないけど、みんな仲良しね!」


 ここで2時限目開始のチャイムが鳴ったことを、俺は生涯神に感謝し続けることでしょう。





「キモ」


 こういうのって、無表情でボソッと言われた方がダメージデカいんだな。

 蔑みでもいいから感情が入っていたら、何というか、コミュニケーションの余地が生まれるというか。

 事務的に言われると、もう決定事項で覆せない感じがしてね。


 さて時は流れ昼休み。

 晴れた日は、2年E組幼なじみ組&桔梗・愛美という面子での屋上ランチが恒例だった。

 ちょっとした人数なので大きめのレジャーシートを敷き、車座になって食べるというピクニック染みた時間である。

 なお部活に入っていて交友範囲も広い葵や雅春は欠席することもままあるが、今日は来ていた。


 そういう訳で本日はフルメンバーが揃ったのだが、桔梗は俺に一言吐き捨てて以降目も合わせてくれない。

 身から出た錆なんだけどさあ。場を共にしてくれるだけありがたいんだけどさあ。やっぱりおにぃ傷ついちゃうよ。


「これでも、愛美がお伝えした分軽減されてますのよ」


 必ず俺の右隣をキープするのどか――のさらに隣を必ずキープする愛美が、のどか越しに声をかけてきた。珍しいことである。


「軽減? どういうこと?」

「ホームルームでの件、愛美は茶山先輩からお聞きした内容をキョウに話しました。一次情報に限りなく近い形でお伝えできたのですわ」


 当該シーンを想像するだけで食欲が飛んでいきそうだよ。


「はいまーくん、卵焼きだよ~。あーん」

「あーん……おお、今日も最高にうめえなあ」

「えへへ~」


 朝にあんなことがあったのに、お昼には元どおりになっているのどかは、やはり天使だ。


「羨ましィィィ! ……コホン、その後、噂という形で同じ件の話が聞こえてきたのですが……」

「まなちゃんも食べる? あーん」

「嗚呼ぁぁぁぁぁぁああんんッッッ!」

「のっちゃーん、ボクそのウィンナー欲しーい!」

「いいよ~」

「ありがとー! うんまー!」

「ノドカのLunchは皆で食べていいのかしら? ワタシもタマゴヤキをひとつ……いや、全部ねッ全部ちょうだいッ」

「ひとつだけね~」


 話が進まねえ。

 なお、ご覧のようなことが毎日起こるため、のどかの弁当はあらかじめ本人だけでは食べ切れない量を準備している。


「ところで、ノドカはMilkが好きなの?」


 おおっとう。急に地雷原を全力疾走するのはやめてくれないかアリシアさん。


「……………………………………うん」

「そうなのね、すごいわ! ワタシはどうしても苦手だから全然飲まな「おかげで背ェ結構伸びたよなのどかぁ! そろそろ追い越されそうで怖いぜぇ!」

「……………………………………うん」


 なんとかなったか!?


 のどかはパックの牛乳を手にとりストローをくわえる。1秒後、ベッコォ! と派手な音を立ててパックが潰れた。あひゅう。


「あの! 話の続きなのですが!」


 冷や汗を垂らしながら愛美。いいぞ!


「愛美達の耳に噂が届く頃には、だいぶ尾ヒレがついておりまして……」


 そこで一旦言葉を切り、少し俯いて頬を染める愛美。えっどんな話になってたの。


「……その、誠先輩がアリシア先輩を押し倒して、『愛してるならいいんだよなァ!』とアリシア先輩の服を引きちぎって、泣き叫ぶ先輩にスリーサイズを告白させた挙げ句……だ、男性経験も申告させて……聞いた誠先輩は『ケッ、アバズレが』と吐き捨てて下半身を露出させたまま席に戻ったということに……」


 もはやほぼ尾ヒレじゃねえか。登場人物の名前とスリーサイズしか合ってねえ。

 どおりで廊下ですれ違う女子に「ヒッ!?」って怯えられたわけだよ。


 というか全部酷くはあるけど、特に下半身丸出しで席に戻った下りいる?


「ひどいわね! マコトはGentlemanよ! そんなことしないわ!」


 アリシア、憤慨してくれるのは嬉しいんだが、いきなりスリーサイズ聞いてくるヤツを紳士に含めるのは紳士の皆さんに迷惑がかかると思うんだ。いやうん、自分で言うのもなんなんだけどね。


「あ、でもマコト、ワタシだったらいつでも押し倒してもらってOKよ! それに安心なさい! ワタシはちゃんとVirgin……」

「はいそこまでにしておこうねアっちゃーん」


 見かねた葵が遮るも、既にのどかは牛乳パックを棒状まで圧縮しているし桔梗は箸をヘシ折ってるし新奈は「ふひひひ……」と怪しく笑ってるしで色々と手遅れである。


「まあ確かに、そんなひっでえ噂で聞くよりはマシだわな」


 盛大に脱線した流れを戻してくれる雅春。


「そういうことですわ。ご安心くださいまし、噂はちゃんと事実に訂正しておきました」


 それは猿みたいになった壁画を元の聖人に復元するくらい大変だったことだろう。頭が下がる。

 問題は、復元したところでそこに残るのは聖人ではなくセクハラ野郎である事実なのだが。


「助かるよ愛美。1-Cだけでも訂正報道してもらえてありがたい」

「ん? ああいえ、訂正はもちろん全校規模で、ですわ。あとは新聞部にも圧力をかけましたので、いずれ沈静化していくかと」


 いや違うな。これはお嬢様特有の得体の知れない力を使っているな。

 とはいえありがたいことに変わりはない。むしろここまでしてもらえたら感謝だけでは足りないだろう。


「本当にありがとう愛美。お礼は何か形でさせて欲しい」

「どういたしまして。ですが不要ですわ。これは誠先輩のためではなく、キョウのためにやったことですので」


 妹が友人に恵まれていることに胸が暖かくなる。

 愛美はこう言っているが、お礼はちゃんと渡そう。のどかの髪の毛……は雑に過ぎるか。いや、下手に菓子折りとか持っていくよりそっちの方が喜びそうだしな……。


 ご飯を咀嚼しながら思案していると、雅春が「あっ」と声をあげた。


「どったのマサ?」

「いや……なんで忘れてたんだって話なんだが……」


 雅春は今まさに幻覚から覚めたような顔で、俺の左隣にパーソナルスペースゼロで座っているアリシアを見た。


「アリスの歓迎をしてねえじゃねえか」

「「「「「!」」」」」


 なんとびっくりアハ体験。

 そういやそうだよ。普通にいつもどおりレジャーシート敷いて、めいめい座って「いただきます」言ってた。


「あらマサ、ありがとう! でもいいのよ! ワタシに気を遣うことはないわ!」


 欠片も気を悪くすることなく笑うアリシアは、その屈託なさ故に10年のブランクなど感じさせないくらい馴染みきっていたのだ。コミュ強ってすごい。


「でもまあ、それでも乾杯くらいはさせてくれ。俺達の気持ちの問題だ。なっ?」


 ウィンクという男においてはイケメンにしか許されない仕草をさらっとこなす雅春。だからてめえはモテるんだよ。


「そうそう。ウェルカムしないとあっては礼儀知らずってもんだしな」

「Darlingがそう言うなら……」


 どうしてキミは適宜火種を投下してくるの?


「ダーリンではないけど! そういうことだから! さあみんな飲み物持って!」


 勢いよくコップを持ち上げる。麦茶がちょっとこぼれた。

 幸い皆押し流されることを選択してくれたようで、それぞれペットボトルやら水筒やらを掲げる。


 ようこそ――と言いかけたが、違うな。ここはこっちが適切だ。


「おかえりアリシア! 帰ってきてくれてありがとう! またよろしくな! ――乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」


 カンコンポン、とバラバラの音。でも心はひとつだ。

 雅春にならって、アリシアへウィンクしてみる。女顔だし、許してもらえるよな?


「マコト……みんな……」


 ああは言っていたがやはり嬉しいようで、アリシアは少し涙ぐんでいた。

 朝から展開が空を爆走するジェットコースターだったが、こうして、もう会えないかもと思っていた幼なじみを迎えられたことは素直に――うん、本当に、喜ばしい。


「Everybody,Thank you so so much! よろしくね……!」


 ほっこりした雰囲気に包まれていく。今日のMVPは、間違いなくこの流れに持っていった雅春だ。


 屋上を爽やかな春風が吹き抜けていく。

 いやあ、なんかこう、いいなあ。


「しかしまあ、あれだな。余計なお世話かもしれねえが、歓迎の品とか用意させてもらいたいもんだな」

「たしかに! さすイケ!」

「さすイケってなんだよ葵……あーそういうことか。まあ、サンキュ」


 さすイケだ雅春。せっかくだし何かプレゼントしたいね。


「Oh! マサは本当に素敵なGentlemanね!」


 明後日から土日だし、アリシアの都合さえよければみんなで出かけて探すというのも……。


「そういうことならワタシ……」


 アリシアにとっては10年ぶりの街だ。どこが変わったとか、そういうのをついでに案内するのもいいな。


「やっぱりマコトが欲しいわ! I beg youよマコト!」


 うんうん、いいね。我ながらナイスアイディアじゃないか?


 …………………………。

 ……………………………………。

 …………………………………………………………うん。


 空を見上げる。

 雲一つない、涙が出るほど美しいブルーだ。


 牛乳パックがついにビー玉くらいまで圧縮されている音を聞きながら、誰に言うでもなく思った。


 哀れみをください。

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