第壹章   シノケノちゃんねる動画編集

 荘輔そうすけが動画の編集作業をしている間に、信乃しなの旦華野あさけのは何度も瑪瑙から送られた動画をループ再生で観ていた。


 旦華野「ねえ、これ………病院じゃないよね」


 どこなんだろう、と旦華野は疑問を口にした。


 信乃「だよねー!私も思った。壁とか天井とか白くないもん!」


 信乃は、壁紙や絨毯が高級感のある素材なので【パーティー会場】かな、とつぶやいた。


 信乃「【葛葉太夫くずのはだゆう】の主催した【宴】で【毒物混入事件】があったよね!」


 旦華野「あったあった!………えっ!じゃあ、あれが【インスマウス症】なの?」


 全く違うが、次期が近いので見事に勘違いして2人の【JK】の妄想は止まらない。


 旦華野「ヤバいよ。【古族】と【人間】の間で対立とかしたら、私らも他人事じゃないよー」


 信乃「私たち、どっちに付けばいいの?【犬神族】だから【古族】?でも、私たちを育ててくれたのは【パパ】だよ」


【八犬士】は、【古族・犬神族】である。彼らは生まれて間もなく太田資正おおたすけまさに預けられ、【忍犬】の訓練を受けた【犬神】であった。信乃が言う【パパ】は資正のことだ。因みに男性陣は【オヤジ】と呼んでいる。


【犬神族】は、【犬】の姿で生まれ成長すると【人化の術】を覚えて【人間】の姿になれる。【八犬士】は【犬神族】では【大身】(名家や旧家のこと)である。【大身八家】が【八犬士】を名乗るのだ。【忍】としては【下忍】でも【犬神族】としては【最上位】の出自だった。


 荘輔は、信乃と旦華野の勘違いを使えるなと思った。ただ、【毒物混入事件】の被害者には【与党代議士】がいたので荘輔は任務を持って来た瑪瑙に伺いを立てることにする。


 荘輔 [瑪瑙様、シノとケノが動画を見て【毒物混入事件】を【インスマウス症】と勘違いしています]


 荘輔は【風魔ニ番隊】の【グループチャット】に【メッセージ】を入力する。【ニ番隊】だけの【チャットルーム】だが、逆を返せば【ニ番隊】なら誰でも見れるので、瑪瑙は遙を通していない任務と言っていたが、このメッセージで遙にバレる。


 瑪瑙 [つまり、【毒物事件】と【インスマウス症】を結び付けて配信する作戦だな]


 瑪瑙の返答は、文面だけで荘輔の言わんとしていることを理解してくれているものだった。


 瑪瑙 [いい作戦なので許可したいのだが………肝心の【毒物事件】の概要をよく知らんのだ。あの【宴】に出席していないからな]


 瑪瑙は悪くない作戦なのでGOサインしたいのだが、情報不足でネット配信にガセネタを流すわけにはいかないので、詳細を知る者からの情報提供が必要だ。


 すると、新しいメッセージが着信された。


 遙 [その作戦やって良し!【毒物事件】の動画を送る。その事件で【女狐】は激オコだ。虚実入り混ぜてウマくやってくれ]


 まさかの遙からの情報提供だった。荘輔の元に即、【毒物事件】の動画が届いた。編集するのが荘輔なので信乃と旦華野には送られていないようだ。


 荘輔は早速、動画を見る。


【代議士】の大友氏や龍造寺氏、その周辺にいた男女が手からグラスを取り落とし、喉元を押さえてうずくまったり床へ倒れた所が映っている。グラスの割れた音に反応して振り返った人が倒れた龍造寺氏に近づいて起こそうとした所で、給仕係らしき制服の人物に止められた。


 荘輔(ん………?この声は………!)


【犬神族】は【犬】の【聴覚】【嗅覚】を持っているので耳が良い。ざわめきで聞き取りづらい状態でも特定の声を聞き分けることが容易であった。そして給仕係の行動に吹いた。


 荘輔が、ブフッと吹いた声に────────────同じく【犬神族】の【聴覚】で気づいた────────────信乃と旦華野は荘輔を見て、彼の手元のスマホに映った動画に視線を落とす。


 そこに映っているのは、なぜか給仕係の扮装をしている梓が苦しむ龍造寺氏に腹パンをした決定的瞬間だった。


 荘輔(手加減無しだな………。この政治家のオッサン、盛大に吐いたじゃねえか)


 吐かせる為に腹パンしたのだろうとは解るが、もう少し手加減してやってもいいのではないかと相手に同情する。


 信乃「わっ!何か虫みたいなのが混じってる!」


 旦華野「キモチ悪い!グ◯画像だ!」


 文句を言いながらも動画を見続けているあたりは、流石は【くノ一】だ。これが常人の

【JK】なら悲鳴をあげる所だ。


【毒物事件】は【パーティー】で【政治家】が【毒物】の混入された飲み物を口にして倒れたことしか報道されていない。そして【インスマウス症】のことは、まだ外部に漏れていないのでやり過ぎない程度に話を盛れる、と荘輔は考える。


 荘輔「ミッションの第1弾は、この動画を使う。これは、【おかしら】から送られて来ただ」


【おかしら】というのは遙のことである。荘輔は極秘かどうかまでは知らない。しかし、こう言っておけば信乃と旦華野は、自分たちに動画を送られなかったことに不満を持たない。


 信乃「【おかしら】からの『極秘ミッション』!」


 旦華野「私ら期待されてる!」


 信乃と旦華野に、何かのスイッチが入った。


 荘輔は、動画の【蟲】を吐いているグ◯い光景をパソコンの編集ソフトを使って、薄っすら水色の混じった粘液のような水を吐いているように変える。


【インスマウス】が【液状化】した場合の色合いが、薄い水色透明の粘液なので嘔吐している画像が【インスマウス】を飲んでしまって、吐き出しているように見える風に編集した。ただし、梓の腹パンは色々とマズいのでそこは省いた。 


 荘輔「任務の配信は、全て【アドリブ】でいくぞ。とりあえず、動画見ながらやってみよう」


 任務の配信は自分もフル出演する、と荘輔は付け加えた。


 信乃「えー【シナリオ】ないのー」


 何を言えばいいかわからない、と信乃はリハーサル前から無理だと言っている。


 旦華野「せめて、最低限の【ストーリー】だけは創ってよー」


 旦華野は、無理とは言わなかったが趣旨を決めてほしいと要求する。


 荘輔「俺にもわからねえよ!【パーティー】会場で一服盛られたっぽい動画と、どこなのか場所もわからねえ所で【インスマウス症】が大量に一斉発症してる動画だけで、無茶振り過ぎるだろ!」


 荘輔は、逆ギレした。【インスマウス症】の動画は、続きがありそうな所でカットされていたので中途半端な動画で【シナリオ】を創れと言われても無理だ。

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