忍─SHINOBI【絡繰】─里見八犬士篇

紫月 白

第壹章   特別任務  ※文中にイラストリンク有り

【風魔ニ番隊】は、【風魔】の【隠密機動】で暗殺担当の【暗部】や潜入担当の【隠密】や裏工作担当の【欺師ぎし】の大きく分けると3分野に分かれる。それぞれ内部で【暗部】だと【暗殺】対象の調査をする【草】と【暗殺】を実行する【根】に分かれていたりと細かく分けると幾つあるのか判らないが、その【風魔ニ番隊】の【欺師】に属する【里見八犬士】と名乗る【忍】たちは【ニ番隊】の【第三席】の1人である龍瑪瑙ロンメノウ────────────【ニ番隊】の【第三席】は瑪瑙と篁梓たかむらあずさの2人が就いている────────────から【特別任務】を告げられた。


 パソコンのリモート会議ツールを利用しているので、ディスプレイに瑪瑙の姿が映っている。


【里見八犬士】は【安房の国】(千葉県)の【里見家】にゆかりのある8人の男女で、【風魔】では【下忍】の立場だ。瑪瑙は【上忍】ということもあるが、【暗殺】を生業とする【ロン家】の次期【女帝】が確定している人物なので、【八犬士】の犬塚信乃いぬづかしなの犬坂旦華野いぬさかあさけのは、緊張でガチガチになっている。


 ソファで寝そべってだらしない格好をしていた犬川荘輔いぬかわそうすけは、ディスプレイに映った瑪瑙を見てソファから立ち上がって、ディスプレイに姿が映る位置までやって来た。リモートなので瑪瑙のほうもこちらが見えている。


 瑪瑙は【ニ番隊】の隊首にして3人の【元帥】の1人である龍紋遙りゅうもんはるかの義妹である。任務を他人に丸投げしてサボっている所を見られるのは非常にマズい。例え、荘輔が横着者だと知られていても体裁を整えるフリぐらいは見せなければならない。


 瑪瑙「荘輔、わざわざ起きて来なくても寝転んでいてもいいぞ。義兄の遙が言っていた。任務中に、ヨダレ垂らして寝てようが、酒を飲んでようが、乳繰り合ってようが、与えられた任務をキッチリとこなせるなら、大いに結構………だそうだ」


 瑪瑙の言葉に、信乃と旦華野は飲酒はともかく、寝てるのと乳繰り合ってるのは無理だよねと言い合って頷いている。


 荘輔「【ニ番隊ウチ】の【おかしら】は、寛大なお心をしてらっしゃる。酒はともかく、居眠りと同衾まで許可してくれるとは」


 荘輔は、ありがたやと手を合わせている。彼は今言われた3つを既にヤラカシタことがあった。そして、任務を無事完了させた実績がある。


 瑪瑙「お前たちのスマホに動画を送った。それをそのまま使うも良し、編集するも良し、信乃と旦華野の【チャンネル】で配信してもらいたい。MCは自由にしてくれ」


 続きがあるので、しばらくこのネタで配信を頼む、と瑪瑙は言うと何か質問はと訊いた。


 荘輔「瑪瑙様、まずは動画を見ないことには何を質問すればいいかわかりませんぜ」


 瑪瑙と荘輔がやりとりしている間に、信乃と旦華野は件の動画を確認して驚きの声を上げた。


【感染症】に罹ったらしき様子の人々が映されていた。患者の容態別に分けられているのか、昏睡状態の者、苦しそうに水を求める者、手の甲に鱗が生え始めた者や鱗でびっしりの者たちの苦悶の映像だった。


 荘輔「こいつは………【インスマウス症】か?」


 荘輔には専門的な【医学知識】はないので、手の甲の鱗でそうではないかと思ったことを口にしただけだ。


 瑪瑙「その通り。彼らは、『卑劣な方法』で『故意に罹患させられた』」


 瑪瑙の話だと、【司法】に委ねるべきことだが、わざわざ自分たち【八犬士】に動画を送りつけ配信しろと言うことは【忍法・流言飛語】を仕掛けるのだ、と荘輔は察した。


 瑪瑙「このことは、【八犬士】たち8人で共有してくれ」


 信乃「でも、【八犬士私たち】は【甲賀】に居着いてる者もいますよ」


 情報漏洩はマズいのでは、と信乃は【特別任務】なので内密に運ばなければならないと思い込んでいた。


 瑪瑙「むしろ、【甲賀総帥】の耳に入るのは願ってもない」


 瑪瑙は【薬】が完成しても、認可が下りなければ流通させられないので【薬品】関係では融通をつけやすい立場の【甲賀総帥】には動いてもらいたいと考えている。


 荘輔、信乃、旦華野は眉を顰めて無茶振りされたと考えていた。彼らは【下忍】なので『群れのトップ』である【総帥】に【下忍】の話に乗って、動いてくれる確信が持てない。普通に考えて、話だけ聞いて記憶に留め置く程度の対応をされるだろうと想定する。


 一応、話は聞くが特にアクションを起こしてくれるわけではない対応をされるのだ。これが【下忍】と【上忍】との『月とスッポン』の差だ。


 瑪瑙「【甲賀総帥】を動かせとは言わない。噂話程度でも耳に入ればいい位にしか考えていない。【八犬士】たちの任務は【流言飛語】で【国民】を煽ることだ」 


 信乃と旦華野の『シノケノちゃんねる』は10代、20代に人気があったが時々、荘輔がゲスト出演してから30代、40代の『女性限定』だが新たな年齢層の視聴者を獲得していることを瑪瑙は知っている。


 瑪瑙「一部の【民衆】を煽るだけでも構わない。今回の【任務】は遙を通していない。不発でもお咎めナシだ」


 気楽にやってくれ、と頼んで瑪瑙はリモート通信を切った。


 荘輔、信乃、旦華野は黒くなったディスプレイを呆然と眺めていた。


 真っ先に正気にかえったのは年長者の荘輔であった。


 荘輔「ドキュメンタリー風か報道番組風に編集するか、どっちがいい?」


 荘輔は、動画を見て信乃と旦華野に訊く。彼女たちの配信チャンネルは、【現役JKくノ一】が『弱きを助け強きを挫く』いわゆる【勧善懲悪】の『ざまぁ』や『スカッとする』タイプの趣向なので、今までにないジャンルだ。これをプロデュースしているのが荘輔で、かれは裏方だったが1度だけ鏡越しに荘輔の姿が映ってしまったことで、視聴数が跳ね上がった。


 荘輔は、『眉目秀麗』な容姿なので【イケメン】好きのオトナの女性や元々の視聴者層だった10代、20代の女性の関心を鷲掴みしたのだった。それ以後、荘輔が時々予告なしでゲスト出演するスタンスに変えて『シノケノちゃんねる』は10代から40代の幅広い世代の視聴者を獲得するに至っている。荘輔がゲリラ出演するのを期待して、毎回欠かさず視聴してくれる視聴者に感謝だ。


 旦華野「荘にい!私、一回、『女子アナ』やってみたかったんだ!報道番組風で行こうよ!」


 旦華野は、挙手して意見する。『女子アナ』はネットで自由配信が可能な【現代】では、【全国局】から【ローカル局】まで含めて需要が高いので、【JK】の憧れの職業にもなっている。


 信乃「えー………それってお堅くならない?私たちは、【現代JKくノ一】をウリにしてるんだよ」


 信乃は、動画の内容がセンシティブなものなので、今までと真逆で視聴者離れは確実かも、と弱気な発言をする。


 荘輔「シノ、お前は運良く【人気ライバー】になれたことで保守的になってないか?」


 お前ら『シノケノちゃんねる』を始めた当初は、けっこう無茶苦茶やってたよな、と荘輔は初心に帰れと言った。


 信乃「そうだよね!私たち最初は、けっこう怖いもの知らずでやってたよ。荘ちゃん、ありがとね」


 信乃は荘輔にウインクする。ハイレベルな美少女の信乃のウインクは視聴者には破壊力を発揮するが、幼馴染みで兄妹のように育った荘輔には効果がない。荘輔は信乃の頭をナデナデして子ども扱いをする始末だ。


 旦華野「そうやってると、恋人同士がイチャついてるみたいに見えるよねー」


 旦華野がニマニマした笑みを浮かべて揶揄う。


 荘輔「俺は、年上の熟女が好きなんだ。信乃は『守備範囲外』だ!」


 信乃「冗談言わないでよ!今の、絶対に源さんに言わないでね!」


 2人揃って恋人説を全力で否定する。息がピッタリだ。信乃は、同じ【八犬士】の犬飼源八いぬかいげんぱちが『気になる人』なので、誤解される行為を口止めした。


 荘輔「お前、【ジジ専】なんだな。源八とは10才ぐらい離れてるだろ」


 自分も熟女好きと言っているので荘輔は他人のことは、とやかく言えないのだが。


 信乃「オジさんじゃないもん!源さん、まだ20代だもん!」


【現代】の10代から見れば20歳はたち過ぎればオジさん、オバさんの考えが多数派だが【忍】は年輪を重ねるほどに熟練した頼れるオトナという考え方に偏っているので、『思春期の感情』のひとつ『異性を意識する』対象は年上に向かう傾向であった。


 荘輔「はいはい、わかったよ………それじゃあ、今回のコンセプトは『女子アナリポーター』でいくか。これなら、ケノの『女子アナ』を採用しつつシノの堅苦しさ排除もイケるだろ。軽くなりそうな部分は、俺がコメントしてオトナの意見ってヤツを言えば軽過ぎず、堅過ぎずのいい塩梅だろ」


 瑪瑙は遙を通していないと言っていたが、配信は端末があれば誰でも視聴できるので遙の目に入ることは間違いない、と荘輔は考えた末に失敗して炎上は避けたいと、信乃に保守的と言いながら自分こそが保守的になってるな、とコッソリ自嘲した。



https://kakuyomu.jp/users/mashiro-shizuki/news/16818093094586158479

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