俺はお前を信じてる

五色ひわ

お題は『妖精』

 俺は第三王子であり、勇者の肩書きを持っている。本来ならば、皆から尊敬され華やかな生き方をしているだろう。しかし、残念な……素晴らしいことに、我が国はここ十数年、平和そのものだ。


 ただでさえ、勇者の存在意義が問われているのに……


 俺は輝きを失った聖剣を見つめた。今までは俺が握ると輝きを放っていた宝玉が、チカリとも光らない。


 いつからだろう? 


 手入れをサボっていたので、最後にいつ触れたのかさえ覚えていない。


「いつもと変わらないように見えますけどね……」


 雑用係が大きな飴を舐めながら言う。『聖剣の宝玉って飴みたいですよね』なんて言って、飴を買いに行った奴を信じられるわけがない。


 だが、他の者に見せるのも憚られた。聖剣の輝きが失われたと広まれば、俺が勇者だということも疑われかねない。


 俺は震え上がって部屋を出る。上級冒険者さえ恐れる魔の森を抜けて、ドワーフの住む里に向かった。聖剣を作ったのは古代のドワーフだ。彼らの里は森の深部に隠されている。それでも、俺は勇者なので訪れることができた。


「勇者様、ようこそおいで下さいました」


 ドワーフの里に入ると、住民全員が作業を止めて頭を下げる。あまりにも恭しい歓迎に、俺は困惑するしかない。悲しい告白になるが、訪れた場所で歓迎されたことなど今までなかった。


「聖剣は役目を終えました。世界を守って下さりありがとうございます」


「は?」


 長老の話によると、俺が勇者の役割を果たしたため、聖剣は眠りについたらしい。次に宝玉が輝くのは新しい勇者が生まれたとき。つまりは、俺が死んだ後になる。


「……」


 長老の答えは何度聞いても変わらなかったが、国王や国民が信じるかは別の話だ。俺が勇者ではなかったと言われるだけだろう。


 待てよ。雑用係には、いつもと変わらないように見えるんだったな。


 俺はそこで閃いた。普通の人間に分からないなら、来るはずのない役目を待ち続ければ良い。


「いつ、勇者の役割を果たしたんでしょうね? 子猫のみーちゃんを助けたときかな?」


 雑用係がドワーフとお酒を酌み交わしながらヘラヘラ笑っている。


 今の地位を守るには、こんな奴の言い分を信じなければならない。その事実に、俺は一人震えた。

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俺はお前を信じてる 五色ひわ @goshikihiwa

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