陰陽師のお悩み相談
コトノハ
第1話「天邪鬼 其の一」
「こらっ!!またそんなものばかり見て!!!」
ジリジリと照りつける太陽、鳴り止む事ない蝉の声。
真夏の日、ある神社では朝から怒鳴り合う声が鳴り響いた。
「そんなものって何だよっ?!妖怪図鑑だよ!!」
「神社の息子が妖怪図鑑なんて読んでる場合じゃないのよ?!妖怪は人間に害をもたらすの!好きになるなんてことは絶対にあってはならないことなんだからね!!わかったら庭の掃除でもしていらっしゃい!」
江戸時代から代々続く神社の息子である暁月 昇龍は陰陽師であり、呪術を扱うことができる。その呪術は勿論、妖怪を祓うためのものであった。
だが昇龍は妖怪が大好きで、なんなら友達になりたいと思っているくらいだ。
だから妖怪を傷つける事を嫌い、人間との共存を望んでいる。
そうは言っても、陰陽師であるからには、悪さをする妖怪を片っ端から祓っていかなければならない。人間を守る為だけに。
「わかったよ!行くよぉ!!」
昇龍は渋々掃除をしに、広い庭へと向かった。
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江戸時代から続いていることもあって、神社は相当な広さだった。参拝者は毎日のように訪れるので、庭の手入れは勿論、鳥居や参道、本殿の清掃もずっとやらなくてはならない。掃除をやる事には苦痛を感じていない昇龍だが、たまには高校生らしく、何処かへ遊びに行きたい気持ちもあった。
「…まあ、まずまず友達いないから…遊ぶも何もないんだけどね…」
昇龍は怠そうに溜息を吐きながら掃除の準備にはいった。呪術は強大な力であり、かの安倍晴明もその力で日本の三大妖怪である酒呑童子を倒したらしい。だがあまりにも強大すぎたため、人間は呪術を恐れた。呪術を扱う陰陽師の昇龍に友達が居ないのもそれが理由だ。
「あぁぁ!!!友達欲しいよぉ!!僕だって…カフェ行ったり遊園地行ったり…なんか色々遊びたいんだ!!通学路をカップルが歩いているだけで僕のドス黒い感情が爆発して殴りつけてやりたい気分になる!!!」
「あ…あのぅ…」
「!!!!」
騒ぎ喚く昇龍に女が若干引きながら話しかけてきた。隈ができている目に眼鏡をしていて、ロングの髪の女だ。見るからに元気が無く、何日も食事をとっていないのだろう、頬は痩せこけている。昇龍は一目見た瞬間何があったのか聞きたくなったが、人の事情にはあまり踏み込んでは駄目かと、どう話しかけたらいいのか悩んでいた。しかし、沈黙を破ったのは女の方だった。
「…陰陽師の…暁月昇龍さん…ですよね?…今回は妖怪退治の依頼で来ました…」
「!!…何かお困りなんですか?」
昇龍が尋ねると、女は目を伏せ震える口で静かに事情を話し始めた。
「…最近、私の家に鬼が出るのです。見た目は小さく、ツノが2本あり、色白で雀斑のある顔の子供のような姿です。…毎晩私の家に立ち入っては食べ物を盗んで行くのです。私は貧乏で、毎日食べ物を食べれるのかぐらいの生活で…このままでは私は衰弱してしまいます…」
「…成程…わかりました。では貴女は今晩は神社に泊まってください。僕は貴女の家に泊まらせてもらいます。あとは任せてください。」
「ありがとうございます…必ず『退治』して下さいね。」
「…はい。」
矢張り退治しなくてはならないのか。話し合えば分かってくれないのか。そんな思いもあったが、今一番の気持ちは…
ーさっきの情報からして食べ物を盗んでいる妖怪は天邪鬼!!早く会いたい!!ー
と呑気に考える昇龍であった。
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