俺の名前は1034番

お休みなさい

1話 堕ちた赤



午後20時を過ぎた頃だろうか、パトカーの後ろの席にいる俺は両脇に配置されている警察官に挟まれ、その大きな体格に窮屈さを感じ身動ぎするが無情にも動くなという言葉に無駄な抵抗だと悟り大きくため息をついた。

窓の外を眺めると雨が降っていて車のライトや赤く光るテールランプが雨の水に反射していてまるで遊園地にでも来たのではないだろうかと錯覚するが手首には銀色で塗装されフックを引くと外れるおもちゃではなく重厚感があり鈍い黒色の金属手錠がはめられていてそれが現実に引き戻す。


警察署に到着し取り調べを受けるがドラマなどで見かけるカツ丼は現実では出てこない。一通り取り調べが終わった頃には深夜0時を回っていたので馴染みの少年課の刑事が弁当を差し出してきたが白米はパサパサおかずは猫の餌と比較しても遜色ないほど貧相でこれを食べた後はコンビニの弁当とはもの凄く豪華な食事なのだと錯覚するほどだった。


逮捕状という文字が書いてある1枚の紙切れを見せられたあと写真を取られ再び金属の手錠をかけられパトカーに乗せられる。また両脇に体格のいい警察官が座り窮屈さにため息がでる。どこまで行くのだろうか?自分が住んでいた場所からかなり遠くに来たはずだ、見知らぬ街並みに少し戸惑い不安になるが、落ちるところまで落ちてるんだ怖いものなんてないはずだと思うと不思議と思考が落ち着き冷静さを取り戻した。


パトカーが止まると妙に仰々しい建物に連れて行かれ部屋の一室で服を全て脱ぐように催促される。自身の股間だけを手で覆い隅々まで警官にベタベタと体に触られ何かを調べる素振りをしていた。こんなところだけはドラマみたいなんだなと呆れていると警官は椅子に座り書類に何かを書き服を着るように指示され俺と警官はその部屋を後にした。


廊下を進むと2重構造になっている鉄の格子状が行く手を阻んでいた。その鉄格子の内側にも警官が立っており壁には小さな窓が設置してあり覗くと別の警官が椅子に座っていた。

何かしらの手順があるのか警官達は何かにタッチしたり敬礼をしたあとその鉄格子が横にスライドした。そして俺はさらに奥へ進む。初めて見た者はこの鉄格子はまるで地獄の入口にも見えてしまうのではないだろうか。


廊下をさらに歩いていると目的地に到着したのか警官が止まるように指示を出す。ドアを開けるとまた鉄格子があった。だが先程とは違い鉄格子の中には畳10帖分くらいの部屋があり俺と同い年くらいの男達が鎮座していた。


「お前はこれから1034番だ、靴箱も番号の場所を使うように」


1034番。それが俺にここで与えられた名前のようだ。落ちるところまで落ちたがそれでも番号で呼ばれることには酷く不快感を覚えた。人ではなく物。俺はまだ16歳ということもあり大人のようにそれを受け入れることに憤り舌打ちをした。


「では1034番、中に入れ」


警官は俺の舌打ちなど気にせず鉄格子を開け中に入るように指示をする。憤ろうが不快感があろうが結局は子供ごときが何か出来るはずもなくこの鉄格子の中に入ることしか出来ないのだ。無情にも鉄格子を閉められ警官は去っていった。


「……」


沈黙。部屋の住人達は新たな異物が入ってきたことに戸惑ってるのか話しかけて来ようとはしなかった。俺もこいつらに興味など一切ない。彼らを一瞥してからそっぽを向いて床に寝転んだ。


「ねぇねぇ? 君は何したの?」


1人の住人が寝転んだ俺の顔を覗き込みイタズラな笑みを浮かべている。ため息をついたあと体を起こし俺は彼の顔を凝視して不快感を露わにする。


「俺は望月よろしくね」


住人は自己紹介をはじめ握手を求めてきた。舐めている。そう感じた。ならどうするか……手を握りしめ望月の顔面へと拳を叩き込んでいた。彼も理解しているはずだこんな場所に来る人間がまともに育っているわけがないと言うことを。望月という少年は蹲って鼻を抑えてはいるが溢れる血は止まらない。


「なんの騒ぎだ!」


他の住人が騒ぎ出し警官達が血相を変えて駆けつけてくる。すぐに俺は取り押さえられ別室へと連行された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の名前は1034番 お休みなさい @oyasuminasai33

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ