第13話 大人って悪くないかも!

「諏訪ちゃん、超格好いい! やばい! 本当最高だよ!」

「ありがとうございます。持田さんも似合ってますよ」

「待って! その微笑み、心臓に悪すぎる……!」


 今日の諏訪ちゃんは、私の最推し・エドワード王子のコスプレ姿だ。

 だから、笑いかけられるだけで心臓に悪い。


 ていうか本当、諏訪ちゃんのコスプレってクオリティー高いよね……!


 自分でもコスプレを始め、アカウントまで作成したおかげで、前よりもいろいろな人のコスプレを見るようになった。

 バズってコスプレ垢以外にも流れてくるアカウントなんで上澄みで、大半の人は正直なところ、それほどクオリティーが高いわけじゃない。


 だけど、諏訪ちゃんは本当に格好いい。


「どこから行きます? このビル、全部行ける店ですからね」


 今回のココスタ開催地は池袋だ。オタクの町だけあって、イベントに協力してくれる施設は多い。

 中でも私たちがやってきたルナシャインシティという商業施設は、施設まるごとココスタに協力してくれている。


 クレープ屋やゲームセンター、アイスクリーム屋、水族館……等々、いろんなお店があるのだ。


「お腹空いたし、クレープとかどう?」

「いいですね。制服コスには映えますし」


 クレープ屋に向かうと、コスプレした客で大行列ができていた。その大半が、私たちと同じように学生キャラのコスプレをしている。


 みんな、考えることは同じなんだな。


 コスプレ姿で街を歩くなんて、最初は不思議な気分になったけれど、今はもうそれほど違和感はない。きっと、同じような人たちがたくさんいるからだろう。


 コスプレしてる人たちの年齢も、結構ばらばらだよね。


 見た目だけで年齢は分からないけれど、若い子もいれば、私よりずっと年上に見える人もいる。

 コスプレはお金のかかる趣味だからかもしれない。


「どれ食べます?」


 諏訪ちゃんが、店員から受け取ったメニュー表をくれた。いつもならチョコミントクレープを選ぶところだけど、今日は違う。


「どれが一番、リリアっぽいと思う?」

「そうですね……リリアの好きな食べ物は苺ですし、ストロベリーショートケーキクレープとか、ストロベリーデラックスクレープじゃないですか?」

「だよね……!」


 せっかく写真を撮るんだから、リリアっぽいものを選びたい。

 というか写真を撮らないとしても、せっかくなんだから、リリアの気分を味わいたい。


「決めた! 私、ストロベリーデラックスクレープにする!」

「了解です。私はどれがいいと思います?」


 リリアと違って、エドワード王子は公式設定で好きな食べ物を定められていない。

 だから完全に私のイメージになるけど……


「ロイヤルミルクティークレープとか、どうかな」


 名前からして、優雅なエドワード王子にはぴったりだ。

 どうやら諏訪ちゃんのイメージとも一致していたようで、それにします、と諏訪ちゃんがあっさり頷く。


「クレープの後、どこ行く?」

「ちょっと噴水ステージ覗きません? コスプレしてパフォーマンスする人がいるんですよ」

「え、見たいかも!」


 クレープ屋の行列は長かったけれど、諏訪ちゃんと話しているとあっという間だった。

 楽しい時間は本当に、あっという間に過ぎてしまう。


 クレープを受け取り、食べ始める前に互いの写真を撮り合う。

 その後自撮りでツーショットを撮影してから、私たちはクレープにかぶりついた。





「わー! パフォーマンスって、あんな感じなんだ……!」


 噴水ステージでは、諏訪ちゃんが言っていたように、コスプレをした人のパフォーマンスが開催されていた。

 応募して出演料を払えば、一定時間ステージでパフォーマンスが披露できるらしい。


 コスプレをして、キャラに合わせた曲のダンスをする。

 たぶん、きっとすごく楽しい。


「ねえ、諏訪ちゃん。私たちも今度なんか踊らない!?」

「……私、運動は苦手なんですけど」

「簡単なダンスなら、練習すればいけるって!」

「そうですかね?」

「絶対そうだよ!」


 ステージで今踊っている人たちだって、みんながみんな、すごくダンスが上手だってわけじゃない。

 そもそもお金を払って出演しているわけだから、それほど上手である必要もないだろう。


「……持田さんが一緒に練習してくれるなら」

「するする! スタジオとか借りて練習してもいいし!」


 私たちは大人だ。スタジオを借りるお金だってある。


「さっそく今日、夜うちでいろいろ決めない? 今日撮った写真の編集とかもしながら!」

「いいですね」

「泊まっていきなよ。その方が楽でしょ?」

「はい。なんか最近、どっちかの家に泊まってばっかりですね」


 諏訪ちゃんといると、ついお酒を飲んでしまうことも多い。

 そうすると、電車に乗って家へ帰るのが億劫になってしまうのだ。


「いっそ、もうルームシェアでもしちゃう?」


 なーんてね、と私が笑うよりも先に、いいですね、と真剣な顔で諏訪ちゃんが頷いた。


「家賃負担も減りますし、楽しいでしょうし、ありだと思います」

「……え? 本気?」

「はい。持田さんは違うんですか?」

「ううん! 違わない! さっそく明日内覧行く!?」

「さっそく過ぎますよ」


 呆れた顔で諏訪ちゃんが呟く。さすがにノリだったかな? なんて思っていると、諏訪ちゃんがスケジュールアプリを開いた。


「来週、不動産屋とか行ってみます?」

「……諏訪ちゃん」


 顔を見れば、もう分かる。

 ノリとか冗談じゃなくて、諏訪ちゃんはきっと本気だ。


 アラサーの独身女が、女友達とルームシェアを始める。

 確実に結婚からは遠ざかっていく気がするけれど、でも、いいや。


 だって、すっごくわくわくするから!


「絶対、約束だからね!」

「はい。約束です」


 小指同士を絡め、ゆびきりげんまん、と約束する。まるで子供みたいに。

 だけどこんな約束ができるのは、私が大人だから。


 そう考えると、大人って悪くないかも!

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28歳、OL。婚活やめて、魔法少女始めます。 八星 こはく @kohaku__08

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