第3話 交換条件

「どいつもこいつもすぐ会いたがるし、プロフィールも嘘ばっかだし、写真詐欺も多いし、本当にもうさあ……!」


 愚痴をこぼしながら、コンビニで大量に買ってきた酒を飲む。

 ビール、チューハイ、ワイン……と、目に入ったお酒を全て買う勢いで買ったものたちだ。


「あり得なくない!? こっちが気を遣って婚活モテコーデ、みたいな服とメイクで行っても、あり得ないくらいヨレヨレで清潔感ない服の人とかもいたし……!」


 俊輔さんの愚痴から始まったものの、婚活全般に対しての愚痴に広がってしまった。

 諏訪ちゃんは時々頷くだけだけれど、スマホもいじらずに私の話を聞いてくれている。


 こうやって話を聞いてもらえるのも、いつぶりだろ……。

 もう結婚してる子に、今さらマッチングアプリで婚活してる話なんて、恥ずかしくてできなかったし。


「……あの、持田さん。一個聞いてもいいですか?」


 黙って話を聞いていた諏訪ちゃんが、ビールの缶をおいて私をじっと見つめた。


「そもそもなんで、持田さんは婚活を始めたんです? 彼氏さんと別れたとかですか?」


 ここまでいろいろとぶちまけておいて、今さら話せないことなんてない。


 なんか今日だけで、かなり諏訪ちゃんとの距離が縮まったなぁ。


「……アフターヌーンティーに、行けなくなったから」

「アフターヌーンティー?」

「そう! 可愛いアフターヌーンティーも美味しいスイーツのコース料理も、全部予約が2人からなの! なのにどんどん友達が結婚したりして、予定合わなくなっちゃって……」

「それだけですか?」

「……それだけ。彼氏とか、しばらくいなかったし」


 意外です、と諏訪ちゃんが目を見開いた。


 自分で言うのもなんだけど、私はそれなりに可愛い。だから、彼氏がいないなんて思っていなかったのだろう。


 会社ではオタク趣味とかも全部隠してるしね。


「……ていうか、アフターヌーンティー行けなくなっただけで婚活とか……持田さんって、実はアホなんですか?」

「諏訪ちゃん酷い!」


 わあっ! と私が泣き真似をすると、諏訪ちゃんはあからさまに面倒くさそうな顔をした。


「だって、楽しみにしてたことができなくなったんだよ!? それって大問題じゃん! それに、そんな話を聞いてくれる人だっていないわけだし……」

「今、私が聞いてるじゃないですか」

「……それはそうだけど」


 諏訪ちゃんが急にスマホを触り出したかと思うと、スケジュール帳のアプリを見せてきた。

 首を傾げると、ほら、とスマホを顔の前に持ってこられる。


「私、空いてる日ならアフターヌーンティー、行けますけど」

「えっ!?」

「コース料理もまあ、あんまり高くなければ……。職場が一緒なので、行きやすいんじゃないですか?」

「い、いいの……!?」


 私が婚活を始めたのは、遊んでくれる友達がいなくなって寂しいし不安になったからだ。

 諏訪ちゃんが私の友達になってくれて遊んでくれるのは、すごく嬉しい。


 諏訪ちゃんの言う通り予定も合わせやすいし、諏訪ちゃんもコスプレするくらいオタクなわけだし……!


「はい。でも一つ条件があります」

「……条件?」

「持田さんのやりたいことにも付き合うので、私のやりたいことにも付き合ってください」

「やりたいことって?」


 ちょっと緊張しながら聞いたのに、諏訪ちゃんはすぐには答えてくれなかった。


「まだ内緒です。持田さんのやりたいことに付き合ってから教えてあげますよ」


 そう言った諏訪ちゃんが、唇の端だけを上げて笑う。

 諏訪ちゃんだと分かっていても、見た目は推し。笑い方も相まって、どうしてもどきどきしてしまう。


 しょうがないよね。だって格好いいんだもん。


「そうしたら持田さん、もう断れませんからね」

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