第24話 エピローグ


「真百合ちゃんおはよう」


「おはよー」


 上半身だけ起こした真百合が寝ぼけ眼をこすって挨拶する。


「もー……まだ着替えてないの? 今日学校だよ?」


 胡桃は朝に弱い幼馴染に秘密兵器を使うことにした。

 胡桃は瞼を閉じて未だ微睡みの中にいる真百合の唇を奪った。その瞬間、真百合は目をカット見開き狼狽する。真百合の意識は一気に覚醒した。


「ななななっ!」


「お目覚めのチューだよ?」


 確かに目は覚めたが朝から刺激的すぎた。

 以前にもまして胡桃は積極的になったようだ。


「そっか。私達、恋人同士になったんだったね」


「うん! まぁやることは変わらないけどね」


「か、変わってるし……チューしたじゃん」


 布団で顔を隠しながら言うと、まだベッドから起きない真百合にしびれを切らした胡桃が力任せに押し倒した。


「えっ! ちょっ! 胡桃!?」


「恋人同士ならキス以外のこともするんじゃないかな?」


 胡桃はまっすぐ真百合を見つめる。その視線から逃れることはできない。胡桃は真百合のパジャマのボタンに手をかけて一つずつ外していく。


「そ、それは……私達にはまだ早いんじゃ……」


「ふふっ、冗談だよ、真百合ちゃん。早く着替えてね♪」


「うー、人をおちょくってー!」


 一瞬本気で体を委ねそうになった自分を恥じた真百合は強引に胡桃を部屋から追いだした。また揶揄われまいと急いで制服に着替えることにした。


「真百合ちゃん、そんなに膨れないでよー」


「胡桃は強引だよねー。いつか私から襲ってやる」


「……うん、真百合ちゃんならいいよ」


「えっ……そんな潮らしい反応されたら対応に困るんだけど……」


冗談を言いながら真百合と胡桃は仲良く手を繋いで学校に登校すると、二人の登校に気づいたリリィティアが手を振ってきた。リリィティアは無事に運命の人乗り切ったのだ。真百合に告白しないことで死の因果から逃れていた。


「おはよう。真百合、胡桃」


 挨拶するリリィティアはどこか吹っ切れたようだった。真百合に対しても普通の友人らしく振舞ってくる。


「おはよ、リリィ」


「リリィちゃん、おはよう」


「胡桃もようやく他人行儀ではなったね!」


 リリィティアは胡桃に抱き着いた。胡桃の方もスキンシップとして受け入れてじゃれ合っている。


「うまくいったのね」


「うん、ありがとう。リリィちゃんのおかげだよ」


 笑い合う二人をジト目で見つめる真百合。


「なに? 内緒話?」


「ううん。何でもないよ、真百合ちゃん」


「うん何でもない何でもない。あっ! 文乃! おはよう!」


 リリィティアは話題を変えるように文乃に挨拶した。

 駆け寄って鞄から取り出した本を手渡している。


「リリィ、この本どうだった?」


「面白かったよー。また他の本も貸して」


 いつの間にかリリィティアは文乃とも前より打ち解けたようだった。

 友情の輪は広がっていらしい。楽しそうに笑う四人の少女達を屋上から見つめる誠也は満足気に微笑みを溢す。


 そして今日も日常が過ぎていく。だがあれから真百合はタイムリープできなくなっていた。友人の怪我を防ごうとしたり、テストの点を改善しようとしたり、様々な動機で過去に飛ぼうとしたがもう真百合が過去に意識が飛ぶことはなかった。


「タイムリープ能力、消えちゃったの?」


「……らしいね。でも後悔はないよ」


「え? どうして? 過去をやり直せるって随分アドバンテージがあったと思うけど……」


「もういいの。だって、私は皆で笑い合える未来を、胡桃と過ごす未来を選んだから。その選択に納得したから……」


 その言葉が胡桃はとても嬉しくて真百合に抱きついた。


「真百合ちゃん……。ずっと一緒にいようねっ!」


「うんっ!」


 学び舎で二人の少女の影が重なった。

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タイムユリープ @Murakumo_Ame

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