第3話 早くもライバル登場!?
「でもリリィティアちゃんとか強敵だよ? ほら」
胡桃が指さす方を見てみると金髪の美少女がアプローチをかけていた。
金髪碧眼の彼女はリリィティア・オルドリッジという美少女である。確か一年の途中からと留学生として転入してきたはずだ。前の時間軸で真百合はすぐに名前を覚えた。なにせ彼女は目立つ容姿なのだ。
「……オルドリッジ。日本人にはないアピールポイントで彼を落とすつもりね!」
これはただの言いがかりではなかった。れっきとした根拠があったのだ。
真百合が二年進級から半年の間に一番のライバルとして立ちふさがったのが彼女である。そのスタイルの良さと抜群の美貌、そして日本人にはない積極性で夢路誠也にアプローチをかけていた。故に彼女がライバルとなるのは既定路線だった。
「絶対に潰す!」
「真百合ちゃん、顔が怖いよ」
席から立ち上がろうとしたとき、先生が来てしまった。
「みんな~席についてー。朝礼始めるよー」
(そういえば学期の途中でいなくなるまで香織先生が担任だったなー)
二年の担任は一年も担任だった宮部香織先生だ。朗らかで美人の先生だがなぜか浮ついた話を聞かない。彼女が担任になることも勿論真百合は知っていた。なぜ途中で担任が変わることになるかまでは知らなかったができればその未来は変わってほしいと考えていた。
そして朝礼後、始業式のために一同は体育館に向かう。
真百合はすぐに誠也の元へ駆け寄った。
そして最高の営業スマイルで誠也に話しかけた。
「クラスが一緒なんて偶然だね」
「あ、園崎さん」
「私のこと覚えててくれたんだね」
自然なコミュニケーションの滑り出しだ。一度体験した時間故に前よりも積極的になれる。このまま自然な流れで押していこうと思ったそのとき、強敵が現れた。
金髪碧眼の抜群プロポーションを誇る美少女リリィティアである。
彼女は露骨にふくよかな胸を誠也に押し付けてアピールする。
「誠也。ワタシ、日本のコトまだわからないコトいっぱいデス。教えてください」
「参ったな。でもリリィティアには日本の良いイメージ持ってもらいたいし、この後学校の案内でもしようかな」
誠也はリリィティアの色香に惑わされたわけではなく善意からそういった。
夢路誠也とはそういう男なのである。イケメンなのは外見だけではなかったのだ。
(そういうところにも惚れたけど、ここで引き下がるわけにはいかないわ!)
前の時間軸ではここで彼女に大きくリードされてしまったのだ。自分が振られた原因があるとすればそれはリリィティアにアピール負けしたということだと真百合は思っていた。
「オルドリッジさん、学校の案内なら私がするよ?」
精一杯の作り笑顔でそう言うとリリィティアは首を横に振った。
「NOデ~ス。ワタシ、彼にお願いしてま~ス」
(っち! この女、日本人の奥ゆかさが分かってない! 普通は本音は隠して私にお願いするだろォ? これだから外国人は……)
そう考えている真百合も敵意を隠せてはいなかった。
「真百合ちゃん、そろそろ静かにしないと校長先生に怒られちゃうよ?」
「わ、分かったよ……」
色々言いたいことはあったが複数の教師人に睨まれてしまっていたため押し黙る他なかった。誠也争奪戦は一時休戦である。
校長のスピーチを右から左に流しながら真百合は恋愛シミュレーションを練っていた。
「さて、クソつまんない校長の話も終わったし、早速誠也君の心をゲットしに行こうか」
「真百合ちゃん、やる気があるのは良いけど、既に夢路君達いないよ?」
「うそ!?」
辺りを見渡すと、本当にいなかった。
朝礼と校長の挨拶が終われば、今日の予定はない。
よくよく観察すると誠也どころかリリィティアの姿も見えなかった。
「はっ! さてはあの金髪ビッチ、体育倉庫に誠也君を連れ込んでR18タイムに持ち込むつもりだな」
真百合は半脱ぎのリリィティアが誠也に迫るシーンを妄想した。
「流石に突拍子がないと思うけど……」
「あの女に誠也君の純潔を奪われるわけにはっ!」
「純潔って、男の子だよ?」
真百合は胡桃の突っ込みも聞かずに体育倉庫に走り出してしまった。
こうなっては自分の眼で確かめるまで真百合の暴走は止まらない。
幼い頃からよく知っている胡桃は怪我人を出さないように彼女の後を追った。
体育倉庫は体育館と隣接している。
薄暗がりで滅多に人がいないため密会するには好都合である。
「誰もいないし、いいデショウ」
「そんな、確かに俺も興味あるけど……」
「二人きりでやるのが盛り上がるのデスよ。ここなら誰にも邪魔されませんし」
漏れ聞こえてくるのは怪しい会話だった。
真百合は血走った目で叫んだ。
「ビィィィッチ!!」
「そんなまさか、学校の中だよ? 何かの間違いだよ?」
校内不純異性交遊など見つかれば停学は確実だ。
リリィティアはともかく想い人の誠也を停学させるわけにはいかなかった。
「現行犯だ! 突入!」
真百合は体育倉庫の扉を蹴破ると、目に入ってきたのは驚愕する光景だった。
二人は紙と五円玉を使ってコックリさんをやっていたのである。
「……何故にこっくりさん?」
「前にテレビで見て気になっていた日本の伝統文化デス! やり方を誠也さんに教えてもらっていたのデス」
「いや、それ文化っていうかオカルトだから」
「懐かしい! 小学生のとき皆でやったよね」
「何故か私だけが先生に叱られたけどね!」
「しょうがないよ。真百合ちゃんはトラブルメーカー扱いだったから」
本来の目的を忘れて思い出話に盛り上がってしまう。
蚊帳の外だった誠也は思いだしたように腰を上げた。
「あ、ごめん。俺、用事があった。学校案内の続きは園崎さんにお願いするよ」
「え、ちょっ! 誠也君!」
用事があるならば無理に引き留めることはできない。
走り去る彼の背中を見送った真百合とリリィティアは互いに睨み合った。
普段は可憐で花のような少女達は異性の眼がなくなった途端女豹に変貌するのだ。
「あなた、夢路誠也を狙ってるのですね」
「当然……ってあなた片言じゃなかったっけ?」
「日本語はマスターしているわ。言語に不慣れな方が同情を買いやすいと思って」
「ふん、大した女ね」
真百合は改めて自分のライバルの手強さを知った。ただでさえ目立つ容姿なのに日本に不慣れの外国人というポジションを確立することで難攻不落の夢路誠也を落とそうとしている。こんな強敵が相手なら自分が振られたのも分かる。だが真百合にはこの先起こるイベントをおおよそ把握できるというアドバンテージがあった。
「リリィティア・オルドリッジ。アンタには負けないわ」
「それは宣戦布告と受け取っていいのね」
女同士の視線から火花が散る。
二人の剣幕ぶりに怖気づき、真百合の腰に抱き着く。
「ちょっと胡桃、抱き着かないでよ! 笑える絵面になっちゃうじゃない」
「真百合ちゃん、落ち着いて」
学校から帰ってきた真百合は気の知れた幼馴染とともに今後の恋愛戦術について話し合う集会を開いた。
「では第一回恋の攘夷運動を開始する。貴重な日本男児を髪金ビッチから守るために! これは戦争である!」
「大袈裟だねぇ。どこからこんな過激なビラを持ってきたの?」
部屋に『国際恋愛フ○ック』とか『日本男児は日本女子のためにある』等とという言葉がかかれた紙が貼りつけられていた。
恋敵であるリリィティア・オルドリッジへの敵意が部屋全体に広がっている。
「奴を排除しなければならない! 絶対にだ!」
「真百合ちゃん、物騒なこと言わないの。苛めは駄目だよ」
「勿論、そんな汚い真似はしないわ。正々堂々蹴落とすつもりよ」
「言葉が前後矛盾してるよー真百合ちゃん」
胡桃は幼馴染が本当に苛めまがいのことをしないことは分かっていた。
しかし同時に感情的に乗りで行動してしまう危うさも認めていた。真百合の自己決定を尊重しつつ暴走しそうなら手綱を引くのが胡桃の役割だった。
まずはリリィティアへの敵意を緩めようと思い立った胡桃はさり気なく真百合を誘導していくことにした。
「まずはライバルを知らないと、対策の立てようがないよ?」
「よーし、分かった。胡桃参謀、アドバイスをいただきたい!」
「うん、それじゃあこれから一緒にリリィティアちゃんについてリサーチしようか」
露骨に否そうな顔をする真百合。
「女子の尻を追いかけるのは趣味じゃないんだけど」
「有益な情報が見つかるかもしれないよ?」
胡桃に指摘されて改めて熟考してみる。恋敵の行動パターンを把握しておくのは悪くない。もしかすると弱みを握れるかもしれないのだ。頭の中で都合の良い勝利の方程式を組み立てた真百合はニヤリと口角を上げた。
「じゃあ当面の方針は金髪の弱みを握ること、誠也君に積極的に色仕掛けするという二点で行こうと思う」
「後半は初耳だけど」
「積極的にいかないとあのビッチには勝てないんだよ!」
「でも誠也君は狼さんタイプじゃないと思うよ?」
胡桃の言う通りだ。リリィティアはスタイルは良い。そのボディを押し付けられても彼は全く反応しなかった。普通の健全な男子ならば大なり小なり照れた反応を見せるはずだが誠也は常に平常心だったのだ。
「はっ! ということは誠也君にはホモ疑惑が」
「発想が飛びすぎだよー」
「そうなると性転換から始めないと……」
暴走する幼馴染を胡桃は抱きしめた。
「大丈夫だよ。真百合ちゃんは女の子として十分魅力的だよ。自信を持って」
「あ、ありがとう」
胡桃にハグされると落ち着く。思えば小さい頃からそうだった。何かにつけて暴走しやすい真百合を支えてくれるのは近くにいる幼馴染だった。本物の幽霊を捕まえようと心霊スポットに突入して迷子になったときも胡桃が慰めてくれた。
正気を取り戻した真百合はすぐに行動することにした。
――翌日。
登校した真百合たちは目立つ金髪の女生徒を探しはじめた。
だが彼女の席には鞄も見当たらなかった。
遅刻と言う可能性を考慮して担任の教師に尋ねると、どうやら休みらしいことが分かった。せっかく情報収集から始めようと思ったのだが肝心のリリィティア・オルドリッジは学校に来ていないらしい。
「ふっ、私に臆して逃げたというわけね。いいでしょう。この恋愛競争は私がリードさせてもらう」
「真百合ちゃん、ポジティブだね」
標的を片思い相手に変えた真百合は彼の姿を探し始めた。
しかし、鞄は置いてあるにも拘らず本人の姿が見えない。
「おかしい」
「え? 何が?」
「誠也君は朝は友人とだべるか、携帯ゲームするかだったはず」
「よく知ってるね」
「彼の行動を綿密にメモした秘密のデイブックがここにある」
「真百合ちゃん、それはストーカーだよ」
勿論ストーキングで手に入れた情報ではない。前の時間軸で本人から直接聞いた情報である。つまり未来の情報を記載した手帳なのである。
だが本人の自己申告故に真百合が把握していない情報もあったのだ。
改めて手帳を見直した真百合は彼が図書館に入り浸っていた時期があったという記載に目をつける。その想定は正しかった。
周囲の視線を気にしながら誠也が図書館に入っていく姿を発見したのだ。
「朝から予習かな?」
「流石は誠也君、優等生ね~」
身を隠しながら後を追うと、誠也は先客と話していた。どうやら相手は女子であるようだ。前髪で目が隠れたあまり見かけない女子生徒だった。
「まだ教室には来れないの?」
「……うん。私、多分虐められる。中学のときそうだったから」
「俺が守ってやるって」
ずいぶん砕けた感じで話している。その様子から二人が親しい中であることが分かった。真百合は不穏な考えがよぎった。
「まさか、恋人!?」
ありうる話だ。なにせ彼はイケメンなのだから狙っている女子は何人もいる。既に付き合っている相手がいても不思議ではない。
「でも夢路君に恋人がいるって聞かないよ?」
「女子の嫉妬から守るために隠しているのかも」
誠也に恋人がいると知ったら、相手を呼び出すくらいの連中はいてもおかしくはない。というか絶対やるだろう。誠也の性格から考えてそうならないように恋人の存在はひた隠しにするはずである。
「でも本当に彼女さんだったらどうするの?」
真百合は頭を抱える。
素直に身を引くか。だが人としては潔いが感情が付いていかないだろう。ではどうするか。答えは一つである。
「ふふ、ふふふふ……」
「真百合ちゃん?」
「恋人がいるなら奪い取るのみ! 即ち、略・奪・愛! それもまた愛の形だと思う訳よ!」
「駄目だよ! そんなことは!」
「何を言うの胡桃! 相手が結婚してたら不倫だけど! まだ学生の恋仲なら第三者が入り込む隙くらいあるはず! 脇が甘ぇんだよ」
真百合は下卑た笑みを浮かべた。
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