タイムユリープ

@Murakumo_Ame

第1話 プロローグ

「まだかなぁ、まだかなぁ」


 園崎真百合(そのざきまゆり)は屋上でそわそわしていた。紺色の髪を綺麗にセットし、薄い化粧でおめかししてきた。何度も手鏡で自分の姿を確認する。


「彼は長い髪の女の子が好きなのはリサーチ済みだし、今の私は彼のストライクゾーンに確実に入るはず!」


 彼女は放課後に一人の男子生徒を呼び出していた。靴箱に手紙という古風な手段で呼び出したのはクラスで否、学校で一番人気のイケメン、夢路誠也(ゆめじせいや)だ。

 呼び出したのは決闘のためではない。告白のためである。


「出会ったのは二年に進級した新学期だったっけ」


新学期、一緒に投稿するはずの幼馴染が忘れ物をして家に取りに帰ったので、先に一人で学校へ向かった時のことだ。

 学校への道程にある公園で彼と出会った。

 真剣な顔で焼き芋を焼いている彼に。同じ学校の制服を着ていたのですぐに同窓だと分かった。そして彼はイケメンだった。


「あの!」


「ん? 何だい?」


「何で春に焼き芋焼いてるの?」


 枝で芋を突っつく彼に尋ねる。


「芋と燃やせるものがあったら焼き芋を作るのが日本人の常識だと俺は思うんだよ」


 爽やかな顔でそう言った。

 彼とコミュニケーションを取った最初の感想は――。


(変な人……)


 さらに彼が焼き芋を焼く紙に使っていたのは『西洋医療魔術基礎』『これを学べば奇跡を起こせる』等と書かれた分厚い本だった。


「…………」


「今日は今までの自分に別れを告げて、出来た焼き芋を今日からの自分の栄養にするんだ」


「そ、そうなんだ」


 少し引き気味に答えると、彼は焼き芋を一個枝にさして渡してきた。


「はい、ちょうど一人焼き芋で寂しかったんだ」


 彼はとても朗らかに笑った。

 真百合はその笑顔にやられてしまった。


「恋に落ちる瞬間ってわからないものね……。でもあれから色々あったんだっけ」


 新学期のクラス替えであのイケメンと同じクラスになり、夢路誠也という名前であることも分かった。そして様々な出来事があり真百合の聖悟への想いが強くなった。


「大丈夫だ、真百合。君はこの半年間好感度を確実に上げてきたじゃないか。後は告白というイベントを経るだけで晴れて二人はカップルになれる! この峠を越してやる!」


 真百合は自分を勇気づける。

進級してこの半年間彼に近づき着実に好感度を上げてきた。失敗するはずはない。他の女子よりも親しい絆を結んでいるという自負が真百合の中にあった。


彼との出会いを回想している内に屋上の扉が開き、待ちに待った彼が姿を現した。

相変わらず女子を殺す甘いマスクだ。


「園崎さん、話って何?」


彼はイケメンボイスで尋ねてきた。


「誠也君……あのね」


「改まってどうしちゃったの、園崎さん」


真百合の様子から何かを悟った誠也は真百合の次の言葉を待った。

大きく深呼吸してから真百合は自分の想いを告げる。


「私は貴方のことが好きです!」


彼は少し照れたように頭を掻き、顔を赤くしてあらぬ方を見つめた。

これはいける! そう考えた真百合は思いっきり踏み込んだ。


「私と付き合ってください!」


彼は表情を柔らかくしてはにかんだ後、悲しそうな顔になって返事をした。


「……ごめん、園崎さん。俺は君と付き合うことはできない」


「へ?」


まさかの玉砕だった。



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